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ZipangはコンテンツでJapanを生かす〜毎日放送が生んだ地域創生事業

※トップ画像は株式会社Zipangの企業サイトより

2020年8月、関西キー局の毎日放送が新会社を設立したことが報じられた。株式会社Zipangの名称で地域創生を事業としていくという。リリースにはこうあった。

新会社は、この「地域創生」にMBSグループが培ってきたコンテンツ制作⼒を使い全力で取り組む会社です。地域を舞台にしたアニメや映画、ドラマなど映像コンテンツの制作と、地域情報を伝えるWEBメディアの運営が新会社の事業の柱です。全国の⾃治体や商⼯会議所、地元企業などと連携し、地域の魅⼒を伝えることで、地域への移住や観光振興の促進を⽬指してまいります。

面白そうだと受け止めた。放送局の今後の像として、ひとつにはネットを駆使した地域コミュニケーションの担い手、というのがあると思う。MediaBorderが伝えてきたのはそういう題材だ。

だが一方でローカル局は、地域の市民と企業、自治体などのハブとなりその地域を新しい形で活性化することにも取り組むべきと考えていた。コミュニケーション事業との合わせ技で地域を応援し支援する役割だ。

とは言え、実際にどんなことをすべきなのか具体的には私にもわかってはいなかった。Zipangはまさにそこに取り組むための新会社のようだ。リリースで書き表されていることからその意思が伝わってくる。

・・・と言うものの、実際には何をやるのか、どこで収益化するのか。そこはリリースを読んでもわからない。毎日放送なら知人も多いし、紹介してもらおうかと、ゆるく考えているうちに半年以上過ぎてしまった。

2月7日、西田二郎氏による「未来のテレビを語ろうオンライン」に参加したら、参加者のひとりとして猪狩淳一氏が紹介された。Zipangの取締役だという。思わず「おお!」と声に出していた。気になっていた新会社の方が思わぬ流れで登場したことに驚き喜んで、西田氏に紹介してもらった。

後日、猪狩氏と代表取締役の吉廣貫一氏にZoomを通してお話を聞くことができた。わからなかったメディア企業による地域創生の具体像がはっきり見えてきた。また猪狩氏は毎日新聞社、吉廣氏は毎日放送の出身なのだが、二人で組むことになった流れが面白い。

お二人には5月25日開催のウェビナー「テレビ局は地域創生をどう事業にするか・1」で直接お話をお聞きできるが、まずは私が聞いたことを記事としてお伝えしよう。

猪狩さん吉廣さん

※取材時のZoom画面。左が猪狩淳一氏、右が吉廣貫一氏

Zipangの事業はほとんどの場合、コンテンツが核になる。どこかの地域に企画のタネがあった時、それをコンテンツ化するべく自治体に働きかけ、地域創生の題材として持ちかける。さらに国からの予算の引き出し方や企業の巻き込み方もアドバイスして自治体をサポートし、必要に応じて地元メディアにも参画してもらいコンテンツをローンチ。さらにはファンコミュニティを生み出して運営したりコンテンツにちなんだ特産品も開発して最終的には地域の魅力を発信するエコシステムを結実させる。

近年、地域を舞台にした映画やドラマ、アニメがヒットするとファンたちがそのコンテンツを核にコミュニティを形成し、「聖地巡礼」をしてくれるようになり地域が活性化する例があちこちで起こっている。こうした現象の全体像を理解していれば、自然発生的な現象をうまく促すことも可能だ。Zipangが取り組むのはそんな作業だと言える。

Zipangフローチャート

チャート化するとこの図のようになる。概念としてはわかるが、もう少し具体的にひとつの事例を元にお話ししてもらった。

Zipangが関わってもうすぐローンチするアニメ作品が「やくならマグカップも」(通称:やくも)だ。岐阜県多治見市の伝統工芸「美濃焼」を題材に、地元企業が町おこしで2012年から発行してきたフリーコミックが原作で、4人の女子高生が主人公。アニメ制作会社日本アニメーションに多治見市出身の社員がいてこのコミックのアニメ化を社内で提案。同社のプロデューサーが猪狩氏と元々知り合いで、サポートすることになったと言う。

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猪狩氏が日本アニメと多治見市の間をセッティングして話がスタートし、市や観光協会、商工会議所などが参加するアニメの「活用推進協議会」を設立して地域との連携体制を構築。国や県の補助金や企業版ふるさと納税などを財源として、アニメの聖地マップや音声ガイドの制作、モニターツアーの実施などのロケツーリズム施策の展開などをサポートしてきのだ。まさにコンテンツを核にした地域創生のお手本のような流れだ。アニメはこの4月から岐阜を放送エリアとするCBCテレビを中心に、関西では毎日放送、東京ではMXテレビで放送される。また主演声優4人がパーソナリティを務めるラジオ「やくならマグカップも~織部学園放送室~」がすでに1月からCBCラジオで放送されている。

地域コンテンツのタネを見出して、自治体を主にサポートしながらIP活用からメディアとの連携、公的助成の活用などをコンサルティングすることを生業とする。説明すると簡単に見えるが、骨が折れる上に結実まで時間がかかる、けっこう大変な作業ではないだろうか。ただ、面白そうだ。「やくも」の話も、多治見市という小さな町をアニメを通じて話題に乗せていくのは、やりがいも楽しさもあふれている。

猪狩氏と吉廣氏は、出身会社に同じ「毎日」がつくが実はそれはたまたまなのだそうだ。お二人が出会ったのはなんと、西田二郎氏の「未来のテレビを考える会」の集まりの場だった。出会って意気投合した2人が、毎日放送の新規事業投資を使って起業したのがZipangで、出身企業が「毎日」のつくメディアだったのは偶然。

だが自治体や企業に話を持っていくときに毎日放送と毎日新聞のお二人が作った会社、というのは大きな信頼になるだろう。その偶然の「都合のよさ」がまた面白いと感じた。

Zipangにはもうひとり、サイバーエージェント出身の難波宏太氏も取締役として加わっている。そのデジタルコミュニケーションの知見が、吉廣氏と猪狩氏のマスメディアでの実績に掛け算されていることも重要だ。今後のコンテンツにはマスメディアの大きく網をかける力とともに、デジタルで細やかにコミュニケーションする技も欠かせない。難波氏とは学生時代に毎日放送でアルバイトをしていた頃からの縁だという。新しいことに挑戦する際に、こうした縁は意外に重要なのだろう。

Zipangの具体は「やくも」以外にも次々に進んでおり、北海道上富良野町を舞台にした三浦綾子原作小説「泥流地帯」の映画化や、直木賞ノミネートの伊吹有喜作の小説『今はちょっと、ついてないだけ』の映画化などの案件が待っている。昨年立ち上げた会社が続々具体的な案件を仕掛けているのは、同じ志を持っていた2人のエネルギーの相乗効果だろう。

※5月25日(火)17時より、Zipangのお二人が登壇するウェビナーを開催します。ご興味ある方はこちらからお申し込みください。

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