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いつもと同じ道だけど違う道

今日は外出先で予定外のことがあり、かなりの疲労感があった。
どうしてもスタバへ行きたくて、近くのプロントもタリーズもエクセルシオールカフェもドトールも振り切って、少し遠くまで歩いて店へと入った。
遅くなった昼食として、ラテとマフィンを胃に入れてほっと息をつく。

私は何度か引っ越しを経験しているから住んでいる家自体は違うのだが、なんだかんだと地元でずっと暮らしている。
この界隈は、物心つく頃から小学校低学年までを過ごした馴染みのある場所だ。
ここからスーパーへ行くには、大通りを通るよりも細い裏道を使って直線的に向かう方が近い。
人通りの多い街だが、裏側の住宅地を行けば、細い道ばかりでひっそりとした雰囲気がある。
ここはだれだれちゃんが住んでいたところ、ここは抜け道、ここは広い空き地で近くにおばあさんと猫が暮らしていたところと、幼少の頃の記憶を頼りに歩く。
思い出と現実とは異次元程に差があって、見渡しても一致するのは地形だけで、その他は見知らぬ場所にしか思えない。
必死で記憶を呼び起こさないと、ここが「懐かしい」場所であることなど気付くことができなさそうだ。

そんな道も終盤。
ここは銭湯だった、と見上げたところには、中規模のマンションが建っていた。
小さいとき、おばあちゃんに連れられて来たことがあったなと思い出す。
ピンク色のヘアブラシを買ってもらって嬉しかったことを覚えている。
そんな片鱗さえも残らぬこの場所で、ふと建物の入り口に記された建物名が目に留まった。
驚いたことに、銭湯の名前がそのままマンション名につけられていた。
(○○湯が、マンション○○になっていた)
新しいがために、私とは全くの無縁のマンションであったはずなのに、私の記憶から急に糸がしゅるしゅると出てきて、今に触れる。
――誰しも懐かしさを手放さない
こうやって形を変えつつも時間を超えて繋がっていき、やがて一本の糸になる。

個人的な感動を胸に、それからスーパーへ行き、やおやさんへ寄った帰りに通り慣れた道を歩いていると、「コツン」と音が聞こえた。
私のつま先の少し向こうに何かが落ちたのが見え、わくわくと見やると、落ちていたのはどんぐり。
丸っこい形のまだ少し緑色のどんぐりは、見渡せば辺りにいくつも落ちている。
ここは大きな建物の裏側で、車道はなく、歩道だけが通っている。
その建物とを隔てるように木がずっと端から端まで長く植えられている場所だ。
私の記憶より成長して背が高くなった木は、どんぐりが生る木だったのかと、今になって知ることとなった。

桜の花びらや、紅葉した葉っぱや、雪の結晶が空から舞い降りてきたとき、そっと手を伸べて触れてみたいと思う。
しかしどんぐりは一直線に落ちてくるからそんなことをする間がない。ちょっと残念だ。
では誰が落としたのか。自然と落ちたのか。
この都会にリスなど居るはずもないのに、そうした小動物や、はたまた鳥が落としたのではと期待してしまう。
そしてトトロを思い出し、巡って童心に返ったかのような感覚を覚える。

懐かしい道を歩き今に繋がり、今の道を歩き懐かしさに出会う。
いつもの同じ道は、今日はちょっとだけいつもと違う道だった。

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