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第8回「説得力はどこからくるか」

クリティカルリーダーのかずえもんです。前回のクリティカル・リーディングは「意見ではない社説」をとりあげました。今回は打って変わって小論文の参考になりそうな社説を取り上げます。夏休みの宿題や受験対策などのヒントにしてみてください。

題材は、アメリカ下院議長の訪問によって緊張感が増す台湾事情です。

小論文は「序論」「本論」「結論」が基本

小論文の基本的な書き方は、中心となる主張を含んだ導入部「序論」と、それを裏付けていく「本論」、本論を踏まえてのまとめ「結論」という三つのパートで構成されます。

小論文の基本的なかたち

本論も小さな要素に分かれる

じぶんの言いたいこと(主張)を根拠をもって裏付けていくのが本論です。ここがしっかりと書けると、主張に説得性が出てきます。ですから、根拠が複数あり、異なる角度から提示されていたりするほどに厚みが増していきます。

本論は複数のパートから構成される

なにか具体例がないと分かりづらいので一つ例示してみます。

  • 序論・・・ティッシュペーパーの宣伝に「バージンパルプ100%」と謳うべきではない。

  • 本論・・・世界で急速に森林が減少している(事実)。2020年、森林保護のFSC認証マークの認知度が21.5%となり3年前から3ポイント上昇した(事実)。2022年現在の認知度はさらに上がっているだろう。このような森林に対する意識の変化は紙製品に対しても影響するはずだ(評価・展望)。2021年の日本の古紙利用率は66%で世界最高水準だ(事実)。この特徴は世界に誇れるものだ(評価)。

  • 結論・・・日本は高古紙利用で森林減少問題に立ち向かうモデルになれるはずだ。ゆえにティッシュペーパーの宣伝には「バージンパルプ100%」などと謳わず、むしろ古紙利用を堂々と述べるべきなのである。

かなり短い例文でしたが、小論文の構造になっています。

事実、評価、展望をみつけよう

今日とりあげる社説は、小論文の本論を書くにあたってとても参考になる書き方がされています。

冒頭から本論として捉え、事実・評価・展望を意識しながら読んでみてください(結論部は、”台湾を巡る情勢の安定は、アジア太平洋地域の安全保障に直結する。"以降としてみてください)。

引用元:沖縄タイムス社説(2022/8/4)

社説[米下院議長の訪台]緊張緩和の努力 今こそ
ペロシ米下院議長の台湾入りをきっかけに、台湾周辺で米国と中国の軍事的緊張が高まっている。

中国軍はペロシ氏が訪台した2日夜から台湾周辺で演習や実弾射撃を始めた。これに対し米海軍は、周辺海域に空母打撃群を派遣、台湾軍も警戒態勢を強化するなど軍事的威嚇がエスカレートしている。

ペロシ氏は大統領権限の継承順位で副大統領に次ぐ2位の位置付けだ。下院議長による訪台は1997年にもあったが、当時は野党だった。今回は与党で重みが違う。

新疆ウイグル自治区などでの中国政府による人権弾圧を批判してきたペロシ氏の訪台計画について、中国は当初から猛反発していた。

バイデン大統領もリスクがあることをペロシ氏に直接伝えた。中国軍が訪台阻止を目指して行動に出たり、ミサイル発射など台湾の安定を損なう動きに出たりする懸念を表明したとみられる。

訪台の結果、中国軍は台湾を囲む六つの海空域で実弾を使用した軍事演習を予定するなど、さらなる軍事的圧力を強めている。このタイミングでの訪台が適切だったのか。

 米中両国は、7月末に電話による首脳会談を実現するなど安定した関係を模索していた。

 しかし今月、ともに国際会議に出席する王毅国務委員兼外相とブリンケン国務長官について中国外務省は「会う予定はない」とした。

 緊張が高まる今こそ、両国は対話の道を閉ざすべきではない。

■    ■

 台湾に近い与那国町では、近海での偶発的な衝突を懸念する漁協が、周辺海域での操業について漁業者らに注意を呼びかけた。

 演習予定海域については水産庁などから情報提供はあったものの、不安は尽きない。台湾近海での演習は爆発音が聞こえることもあるといい、緊張感が高まる。

 米軍嘉手納基地では、同基地所属でない外来のKC135空中給油機21機が駐機しているのが確認された。多数の給油機が同時期に集結するのは異例だ。訪台に関係した動きとみられる。

 中国軍の動きを受けて米軍は、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ「第1列島線」の近くに原子力空母ロナルド・レーガンや強襲揚陸艦2隻を配置。艦載輸送機が嘉手納に飛来したのも確認された。

 米軍基地が集中する県内では有事への懸念が高まり、外来機増加による騒音被害も心配だ。県民の不安と基地負担を取り除く外交努力は、日本政府の責務でもある。

■    ■

 台湾を巡る情勢の安定は、アジア太平洋地域の安全保障に直結する。

 バイデン政権は三権分立制度の下、ペロシ氏の判断で訪台したとして、政府の関係構築とは切り離して対応する方針だ。高まった緊張を緩和し、米中は危機時の連絡体制の確立を急ぐ必要がある。

 ペロシ氏は4日に来日し、岸田文雄首相との会談も調整している。日本を含む関係国の安全保障に直結する危機であり対話が重要だ。

※このシリーズに用いる引用は、著作権法第32条に認められる範囲内で行っております。

事実、評価、展望を意識して読めましたか?

分解して点検してみよう

小さなパーツに分解してみます。

<事実>

中国軍はペロシ氏が訪台した2日夜から台湾周辺で演習や実弾射撃を始めた。これに対し米海軍は、周辺海域に空母打撃群を派遣、台湾軍も警戒態勢を強化するなど軍事的威嚇がエスカレートしている。ペロシ氏は大統領権限の継承順位で副大統領に次ぐ2位の位置付けだ。下院議長による訪台は1997年にもあったが、当時は野党だった。

<評価>

今回は与党で重みが違う。

<事実>

新疆ウイグル自治区などでの中国政府による人権弾圧を批判してきたペロシ氏の訪台計画について、中国は当初から猛反発していた。バイデン大統領もリスクがあることをペロシ氏に直接伝えた。(中略)訪台の結果、中国軍は台湾を囲む六つの海空域で実弾を使用した軍事演習を予定するなど、さらなる軍事的圧力を強めている。

<評価>

このタイミングでの訪台が適切だったのか。

<事実>

米中両国は、7月末に電話による首脳会談を実現するなど安定した関係を模索していた。しかし今月、ともに国際会議に出席する王毅国務委員兼外相とブリンケン国務長官について中国外務省は「会う予定はない」とした。

<評価・展望>

緊張が高まる今こそ、両国は対話の道を閉ざすべきではない。

<事実>

台湾に近い与那国町では、近海での偶発的な衝突を懸念する漁協が、周辺海域での操業について漁業者らに注意を呼びかけた。

<評価>

演習予定海域については水産庁などから情報提供はあったものの、不安は尽きない。

<事実>

米軍嘉手納基地では、同基地所属でない外来のKC135空中給油機21機が駐機しているのが確認された。多数の給油機が同時期に集結するのは異例だ。訪台に関係した動きとみられる。中国軍の動きを受けて米軍は、沖縄から台湾、フィリピンを結ぶ「第1列島線」の近くに原子力空母ロナルド・レーガンや強襲揚陸艦2隻を配置。艦載輸送機が嘉手納に飛来したのも確認された。

<評価>

米軍基地が集中する県内では有事への懸念が高まり、外来機増加による騒音被害も心配だ。県民の不安と基地負担を取り除く外交努力は、日本政府の責務でもある。


この社説では、ペロシ氏の政治的地位や主義、外相トップ同士の関係の変化、台湾海域に近接する与那国などの影響懸念など、地理的、時間的側面から複数の事象に基づいて論を構成しています。

こうした多角的な要素が説得力を増すために重要ですね。

反対意見に対する備え

説得力アップのために、さらに付け加えるなら、「反対意見を想定して、あらかじめ反対意見に対する意見を設けておく」というテクニックがあるのでご紹介しましょう。

Photo by Afif Kusuma on Unsplash

根拠を連ねて主張をしていくことのほかに、やっておくとよいのは、反対意見に対する意見を持っておくことです。この社説では、米中の緊張が高まる中、日本を含む対話が重要だとしています。ここに対して出てきそうな反対意見はどのようなものがありそうでしょうか。

  • 日米が中国に対して弱腰の姿勢を見せることは外交上の不利益になる。

  • 対話の当事者は台湾であるべきではないのか。

  • アメリカの対中外交に日本が巻き込まれるべきではない。

などが考えられそうです。
これらに対して、自らの主張がなぜ妥当であるのかを説明する文を本論の中に含めていくことで、さらに根拠が多角的になって説得力を増していきます。

ぜひ、小論文を書く時の参考にしてみてくださいね。

それではまた次回!

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