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第10回「"正しさ"に飛びつかない」

クリティカルリーダーのかずえもんです。前回のクリティカル・リーディングは「冒頭と末尾で言っていることがズレているケース」をとりあげました。今回は、「正しさ」に注目してみると、より深く思考できる題材を取り上げます。

ニュートラルに読んでみよう

今回取り上げる社説は、ウクライナによる橋の爆破に対するロシアの報復を非難する内容です。社説側の主張に引きずられず、中立を意識して読んでみてください。

引用元:山形新聞(2022/10/12)

ロシアの報復攻撃 どう喝に結束して臨め
 ロシアの侵略によるウクライナでの戦争は、ロシアのプーチン政権がウクライナ4州の併合を宣言したのに続き、クリミア橋の爆破に対する報復として、これまでで最大規模の攻撃に踏み切った。戦局は新たな危険水域に入ったと考えるべきだろう。

 原発に対する新たな挑発や、現実味を増す核兵器による威嚇に対して、国際社会は最大限の警戒をするとともに結束を確認しなければならない。

 2014年のクリミア併合は、プーチン政権発足以来、最大の功績として国民に評価されてきた。クリミアに拠点を置く黒海艦隊への補給を陸路で担うクリミア橋は、プーチン氏が自らトラックを運転して渡り初めをした象徴的なインフラである。

 この橋が民需のみならず、軍需でも物資補給の大動脈である以上、ウクライナ側が攻撃したとしてもロシアとの戦闘における正当な作戦行為と言えよう。そもそもクリミア併合が国際法違反である。このため「ロシアの国民生活に決定的に重要なインフラに対するテロ行為」というプーチン氏のウクライナ批判は妥当性に欠ける。

 しかし、プーチン氏は、70歳になった誕生日の翌日に、橋の爆破でメンツをつぶされたと考えたのだろう。今後もこれまでにない報復で、国内の団結を図り、ウクライナ国民に恐怖心を植え付けようとする恐れがある。

 プーチン氏は10日の安全保障会議で、ウクライナのゼレンスキー政権は橋の爆破により「国際テロ組織と同一」の存在になったと位置づけた。ゼレンスキー政権を、もはや交渉の対象として認めず、手段を選ばず絶滅すべき犯罪集団とみなすという宣言にほかならない。

 開戦以来最大規模のミサイル攻撃で、市街地の公園を含む諸施設を無差別に攻撃したのは、その手始めに過ぎないというつもりだろう。どう喝によって、国際社会の足並みの乱れを誘う思惑が透けて見える。
・・・・

※このシリーズに用いる引用は、著作権法第32条に認められる範囲内で行っております。

続きはリンクでお読みください。

社説の立場がわかる箇所を抜き出す

ニュートラルに読めましたか?

さらに細かく読解するために、主張を表す部分を抜き取ってみましょう(※太字は筆者によるものです)。

国際社会は最大限の警戒をするとともに結束を確認しなければならない。

この橋が民需のみならず、軍需でも物資補給の大動脈である以上、ウクライナ側が攻撃したとしてもロシアとの戦闘における正当な作戦行為と言えよう

「ロシアの国民生活に決定的に重要なインフラに対するテロ行為」というプーチン氏のウクライナ批判は妥当性に欠ける

プーチン氏は10日の安全保障会議で、ウクライナのゼレンスキー政権は橋の爆破により「国際テロ組織と同一」の存在になったと位置づけた。ゼレンスキー政権を、もはや交渉の対象として認めず、手段を選ばず絶滅すべき犯罪集団とみなすという宣言にほかならない

開戦以来最大規模のミサイル攻撃で、市街地の公園を含む諸施設を無差別に攻撃したのは、その手始めに過ぎないというつもりだろうどう喝によって、国際社会の足並みの乱れを誘う思惑が透けて見える

メドベージェフ安全保障会議副議長は、クリミア橋を攻撃すれば、それは「ウクライナ終末の日」を意味すると警告したことがある。言外に核兵器の使用を強くにおわせた発言である

クリミア橋の爆破には、ロシア国内にも協力者がいたと主張するのは、国民の締め付けをいっそう強める意思の表れだろう

解釈に注目する

上に列挙した文章の中で、太字にした箇所は、すべて「社説側の解釈」です。

これまでこのシリーズでは、何度も事実と解釈を分離して読むことを推奨してきました。これがあなたの軸で文章を読み解くコツです。

さて、この社説の中で、極めて重要なポイントはどこかというと、クリミア橋の攻撃が、「ウクライナ側によるものであったとしても、正当な作戦行為だ」とした点です。それ以外は、発言や行為に対する意図の考察ですので、この箇所とは重要度が異なっています。

クリミア橋の攻撃が「正当な作戦行為」とする根拠

社説が「正当な作戦行為」と主張した箇所の根拠はどこでしょうか。下に抜き書きしてみます。

2014年のクリミア併合は、プーチン政権発足以来、最大の功績として国民に評価されてきた。クリミアに拠点を置く黒海艦隊への補給を陸路で担うクリミア橋は、プーチン氏が自らトラックを運転して渡り初めをした象徴的なインフラである。この橋が民需のみならず、軍需でも物資補給の大動脈である以上、ウクライナ側が攻撃したとしてもロシアとの戦闘における正当な作戦行為と言えよう。そもそもクリミア併合が国際法違反である。このため「ロシアの国民生活に決定的に重要なインフラに対するテロ行為」というプーチン氏のウクライナ批判は妥当性に欠ける

太字は筆者による

まとめていうと、
(1)クリミア橋はロシアによるクリミア併合の象徴的インフラ
(2)クリミア橋はロシア軍の軍需物資の補給路
(3)(攻撃が)ロシアの国民生活に決定的に重要なインフラに対するテロ行為であるというプーチン氏の主張は妥当性がない
という三つが挙げられています。

正当性をどう判断する?

列挙した理由をじっくり読んでみると、(1)や(2)が作戦の妥当性を感じさせる一方、(3)について見落としてはいけない事柄が記載されています。

プーチン氏がクリミア橋の爆発を「ロシアの国民生活に決定的に重要なインフラに対するテロ行為」としているという箇所です。この点について、深堀してみましょう。

クリミア半島には、(ロシア側はロシア国民と呼んでいますが)軍人ではない一般の人たちが住んでいるという事実があります。そしてクリミア橋が、この一般の人たちの生活物資の輸送ルートであることもまた事実です。あまり多く知られていませんが、クリミア半島は水の補給を北部のウクライナ本土側からの水道とクリミア橋による輸送に頼っています。

クリミア橋の爆撃が、民間人の命に係わる水源を断つ行為である場合、それでも攻撃が正当であるといえるのかどうか。こうした反駁が用いられた場合、主張を通すのは容易ではありません。

Photo by Andrea De Santis on Unsplash

絶対がないからこそ、クリティカルに

人間の脳は、絶えずやってくる情報をできるだけ「省エネ」で処理しようとします。たとえば親や先生から教わったこと、読んだ本に書いてあったこと、権威ある人や組織が言っていることは正しいこととして仕訳し、それ以上吟味することはありません。

しかし、少し立ち止まって考えてみると、その正しさは曖昧な土台の上に乗っているだけの状態であることに気づきます。

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ハーバード大学ロースクールのマイケル・サンデル教授による授業「Justice(正義)」はあまりの人気から日本でも放映される『白熱教室』(NHK Eテレ)というテレビ番組にもなりました。

ここで毎回取り上げられるのは、答えのない問いです。

「白熱教室」番組HPより

トロッコ問題や代理母問題を題材にした「命を選べるのか」といったテーマは、私たちが立ち止まって考えることを求めてきます。

今回の社説にあるクリミア橋の攻撃は、何をもって正当性を示すことができるのか。これもまた、白熱教室の題材にもなりそうな、本質を突き付ける問題の一つでしょう。

「正しい」「正当」には絶対はありません。必ずなんらかの限定的な範囲や条件をもとにした相対的な言葉です。それらの言葉が出現したときこそ注意し、自分の軸で考えることにトライしてみましょう。

それではまた次回!

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