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「カップ一杯のコーヒーがもたらす暖かさの問題」



『象工場のハッピーエンド』
村上春樹=文、安西水丸=画


これは安西水丸さんのユニークなイラストと村上春樹の文章とが合体して出来た、絵本のような短編集だ。

新潮文庫版「象工場のハッピーエンド」表紙


安西水丸さんのイラストはどれもが遊び心と茶目っ気に溢れ、村上春樹の文章もそれに呼応するかのように弾んでいる。

巻末に収められた二人の対談も面白いが
私が最も気に入っているのが、

『ある種のコーヒーの飲み方について』という短い文章だ。

(略)
港の近くにはカウンター席の他にはテーブルが一つしかない小さなコーヒーショップがあって、天井に取り付けられたスピーカーからジャズが流れていた。
目を閉じると、真っ暗な部屋に閉じ込められた小さな子供のような気持になった。
そこにはいつもコーヒー・カップの親密な温もりがあり、少女たちの優しい香りがあった。
僕が本当に気に入っていたのは、コーヒーの味そのものよりはコーヒーのある風景だったのかもしれない、と今では思う。


時には人生はカップ一杯のコーヒーがもたらす暖かさの問題」とリチャード・ブローティガンがどこかに書いていた。
コーヒーを扱った文章の中でも、僕はこれがいちばん気に入っている。

村上春樹『象工場のハッピーエンド』収録「ある種のコーヒーの飲み方について」より




肉厚のカップ
立ちのぼる湯気
両手に伝う温もり
それさえあれば
と思う朝