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「中島みゆき詩集」


心がささくれ立ちそうな日常に
中島みゆきの詩集を読む。
詞集ではなく詩集。

角川春樹事務所「中島みゆき詩集」表紙

収められている詩は52篇
デビューの頃から最近のものまで、どんな基準で選んだのか、あるいはくじ引きをするようにランダムにピックアップしたのか
これといった説明もなく、あいうえお順に並べられている。
いかにも中島みゆきらしい。

この中から私の好きな作品をひとつ。


「ヘッドライト・テールライト」
語り継ぐ人もなく
吹きすさぶ風の中へ
紛れ散らばる星の名は
忘れられても
ヘッドライト・テールライト 旅はまだ終わらない
ヘッドライト・テールライト 旅はまだ終わらない

足跡は降る雨と
降る時の中へ消えて
称える歌は
英雄のために過ぎても
ヘッドライト・テールライト 旅はまだ終わらない
ヘッドライト・テールライト 旅はまだ終わらない

行く先を照らすのは
まだ咲かぬ見果てぬ夢
遥か後ろを照らすのは
あどけない夢
ヘッドライト・テールライト 旅はまだ終わらない
ヘッドライト・テールライト 旅はまだ終わらない

ヘッドライト・テールライト 旅はまだ終わらない
ヘッドライト・テールライト 旅はまだ終わらない

中島みゆき作「ヘッドライト・テールライト」



巻末には、作家の桜木紫乃さんが「メロディーのある文学作品」というタイトルでエッセーを寄せている。


ひとりでラジオを聴くことを覚えたころにはもう、中島みゆきは中島みゆきだった。
こちらが10代の初めには既に「時代」を歌っていて、その内容の大きさが分からぬ田舎の少年少女たちも「ひとはそれでも生きていく」ことを、知らず知らずのうちに彼女の歌から学んだ。
(中略)
メロディーのある文学作品は、簡単に胸奥の壁を突破してしまう。

中島みゆき詩集巻末エッセー:桜木紫乃氏


桜木紫乃さんは中島みゆきと同じ北海道出身の作家だ。
彼女の作品を、私は一年ほど前に一度だけ読んだことがある。

集英社文庫「短編宝箱」表紙


11人の作家の短編を集めた本だが、
この中で桜木紫乃さんの『星を見ていた』という作品が
最も心に残った。
作品は、北海道の田舎町に暮らす初老の女性の生きざまを描いたもので、
大地に根差した骨太い小説だった。

同じ北海道出身、ただそれだけの理由で
彼女が『中島みゆき詩集』の巻末エッセーを書くことはなかっただろう。
彼女の書く小説には、中島みゆきの匂いがする。


「メロディーのある文学作品」という表現はなるほど、と思う。
『中島みゆき詩集』の存在もアリ。
しかし、
やはり中島みゆきは歌で聴きたい。



最後までお読みいただきありがとうございます。
ヘッダーの写真は自宅の薔薇をパチリ。
記事中の写真(詩集)は横浜市立図書館の蔵書
短編集は星川玲の個人所有です。