八丈島へ、フィルムカメラと自転車を携えて【京セラ SAMURAI/BROMPTON】
きみは、サムライというカメラを知っているか?
この写真の女(筆者ことわたし)が両手で抱えている、ビデオカメラのような縦長のマシン。こいつは京セラSAMURAIというフィルムカメラである。
1987年に発売されたというサムライは、かの坂本龍一氏をモデルとして「カメラは今日からサムライです」というキャッチコピーとともに売り出されたという。
特徴的なのはその見た目だけではなく、現像スタイルにもある。サムライはいわゆる「ハーフサイズカメラ」というやつで、通常の135フィルムの半分を使うハーフ判カメラだ。
そのメリットとして挙げられるのが、1本のフィルムでたくさん撮れること。単純計算で1本あたり2倍量を撮影できることになるため、24枚撮りフィルムなら48枚、36枚撮りフィルムなら72枚も撮影できる。フィルムの高価さに怯える筆者のような人間も、これであれば多少気軽に撮影できる。
また隣合う写真がどのように組み合わされているか、現像するまでわからないのも面白い点だ。時系列に記録されていくものの、どの写真が隣に来るかはわからない。その化学反応的な楽しみもハーフ判のたのしみ方といえよう。
ひょんなことで我が家にやってきたサムライとともに、筆者は自転車を抱え八丈島へ出かけた。これはその旅の記録だ。
船内、雨の到着
金曜夜発のフェリーほど、休日の幕開けを劇的に演出してくれる乗り物もなかなかない。竹芝桟橋を22時頃に出港するたちばな丸に、自転車とカメラを抱えて飛び乗った。
そもそも八丈島はどんな島なのか、簡単にご紹介する。
八丈島は、東京から約270㎞南下した太平洋上に位置する離島だ。亜熱帯性の温暖・多雨な気候で、南国情緒溢れる景色が広がっている。
島の形はひょうたん型。ひょっこりひょうたん島のモデルともいわれるその特徴的な形は、東山(三原山)と西山(八丈富士)が接合されて生まれたそうだ。火山島としても知られ、今日に至るまで幾度の噴火を経験している。
さて、話を戻そう。
客室はいつも通り二等和室。前回のフェリー旅では、調子に乗って甲板でビールをあおったことによる芯からの冷え、深夜帯の中途半端な空腹、船内の寒さを甘く見て毛布を1枚しか借りなかった……等の敗因により、筆者は一睡もできなかったという過去がある。
▶当時の懺悔記録はこちら
今回は絶対的に熟睡できるよう、ビールは1缶まで、毛布は2枚借りる、調子に乗りすぎない、などを言い聞かせて乗船した。
大安眠にて大勝利を収め、朝を迎えた!やったね!
この日は波が高く、夜中フェリーは大きく揺れたそうだ。酔うこともなく、体力ゲージも満タンまで溜められたので、今回の船旅は上出来である。やっぱり毛布を2枚借りるのは大切なんだな。
下船後、最初に出迎えてくれたのは絶景でも歓声でもなく、雨。雨女であるわたしの旅に雨はお決まりの演出なので、もう気にしない。しっとりとした島の風が心地良い。
島の動物たち
自転車にまたがり、島を走っているといろんな動物たちと巡り合う。
湿度、雨音、亜熱帯
離島らしからぬ整った舗装道が延々と続く。濡れた路面が鏡のように光を照り返す美しさよ。自転車で駆け抜けると、湿度の中に潜む涼しさがひょっこりと顔を出す。
わたしたち旅の人間は、島にとって当たり前の風景に、いちいち足を止め、シャッターを切る。地元の人間からすると、きっと「なぜここで?」。わたしたちもわからないが、とにかく立ち止まりたいのだ。
モノクロフィルムに入れ替える
土曜のおわりに1本目のフィルム(FUJIFILM Venus800)を撮りきってしまった。入れ替えたのはILFORD XP2 superというモノクロのフィルム。
はじめてのモノクロフィルムに、雲を手で掴むような思いでシャッターを押し、2日目こと旅の最終日を迎える。
週末の離島旅は短く、濃厚
土曜の早朝に着き、1日走り回ったと思えば、日曜の昼前にはもう帰り便が出航してしまう。自転車で港まで駆け抜けて、急いで乗船する。そして離岸。毎度のことながら後ろ髪を引かれる瞬間だ。
そんなこんなで日曜の夜には竹芝桟橋に戻ってきてしまう。そして月曜から何一つ変わらない日常が始まるのだ。
あっさりとした旅の終わりだが、フィルムを現像するまでたのしみは終わらない。どんな風に撮れただろう、そもそも何を撮ったっけ? なんていいながら、上がってきた写真を見ると、ずいぶん長い旅をしたような気持ちになる。
またいこう。サムライと自転車を抱えて、知らない土地へ。
参考文献
第2回フィルムカメラを始めよう!ジャンクなハーフカメラを活用する:京セラSAMURAI編|カメラのキタムラ
八丈植物公園|東京都環境局
日本の火山 vol.34 八丈島[東京]|内閣府