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二○二四、おせちのこと

はじめに

去年のおせち作りはこちら

私が全力で趣味に没頭できる唯一の期間がやってきた。そして私にとって一番忙しい季節でもある。
十二月からおせちの材料を買い出しを始めていて、冷凍庫はすでにパンパンだ。

この記事は私が全力で年末年始に「おせち」をした、その記録を綴っている。

毎年恒例になった「おせちタスクリスト」

二十八日 下準備

行きつけの八百屋でおせち用の野菜を買い、帰って飾り切りを始める。今年はたくさんの人とおせちをシェアする予定で、必要な個数を数えながら料理する。適当な数を作っていた例年と比べ、今までにはない経験だ。

左から打ち出の小づち、宝船、梅の型抜き

おせちの材料は大人数を想定して売られていることが多く、少人数分を作ろうと思うとなかなか難しい。なので私は毎年友人を招いたり、家族に食べてもらったりして大人数分のおせちを消費している。
もっと多くの人におせち作りの楽しさを知ってほしい。自分の好きな味で、おいしいものだけを詰めるおせちの醍醐味を知ってほしい。そう思って今年は知人に声をかけ、みんなでおせちを作って各々お重に詰めて持って帰る「おせちバイキング」を企画した。

参加者にとっては初めての手作りおせちだと思うと、いつもより緊張感がある。せっかくなら新年においしく美しいものを食べてもらいたい。

昆布出汁

今年の出汁はふだんから使っている出汁パックに椎茸のもどし汁、昆布を煮出す。おせちはほとんどのものが出汁で煮るのだから、これが今年のおせちの味を決めると言っても過言ではない。
今年はお雑煮もこの出汁で作ろうと二リットル用意した。(しかしこれでも足りず、結局お雑煮には新しく出汁をとった。)

二十九日 おせち作り

さて、今日からおせち作りが本格化する。
二口しかないコンロをできるだけフル稼働させながら煮しめを作っていく。ずっと火がついているから、部屋は暖かく湿度も上がっていく。少し曇った窓を見ながら、おせち作りができる喜びを感じた。SNSを見ても縁起の良い投稿しかない。
みんなが浮き足立つ良い季節だ。なぜおせちは年に一回しか作らないのだろう。

今年はいつもより用意する量が多い。大きい食材は雪平鍋では大きさが足りなかったので寸胴で。食べる人の顔を思い浮かべながら、いつもの食事よりも丁寧に。

夕方には本日のおせち作りを終え、友人の家に南天をもらいに行く。今年もたわわに実った南天大切に抱えながら帰路を急ぐ。
これがあるかどうかでお正月の彩りが全く違う。植物の力は偉大だ。

三十日 おせちバイキング

今日はいよいよ昼過ぎから「おせちバイキング」がある。なので朝から賞味期限の長くないものを調理する。
どんなおせちを作って来てくれるだろう。みんなのお重が埋まらなかったらどうしよう。期待と不安が入り混じる。

みんなが作った料理を広げてみると、私が今までおせちに入れたことがない料理がたくさん広がっていた。これはまさしく私の求めているおせちのあるべき姿だった。
百貨店などで買えるおせちには地域性や個性が少なく、内容が均一化する傾向がある。本来おせちには地域性があり、家によって入るメニューが変わる。私はそんな個性溢れるおせちの方が好きだ。
そして目の前にあるのは、私一人では到底成し得ないおせち料理だった。

この日のために購入したという重箱

「お正月が楽しみになった!早く食べたい!」
みんなが楽しそうに重箱におせちを詰める様子を見守りながら、開催してよかったと胸を撫でおろす。本当はこの喜びをもっと多くの人にも体験してほしいのだが、まずは身近なところから。一歩ずつ着実に手作りおせちの魅力をお伝えしていきたい。

三十一日 大晦日

朝、早く起きて出かける準備をする。実はイタリアンシェフから「うちのおせちを撮ってほしい」と依頼があったのだ。
人生初のおせちの仕事で浮足立ったまま繁華街にあるお店へ向かう。おせち作りを始めてからもう長いこと年末に外出した記憶がない。大晦日に忙しなく行き交う人々の顔も、いつもと少しだけ違う街の喧騒もなんだか新鮮だ。

撮影を終える自宅へ戻ると友人が来る時間が近づいていた。今まで「大晦日は家族で過ごすもの」だったが今年は違う。人生で初めて家族以外と過ごす年越し。友人は一般的な年越し(餅をついたりおせちを作ったり、テレビを見ながらダラダラ過ごす)をしたことがないと言うので、私なりに最高の年越しをさせてやろうと一人で画策していた。

「おせち奴隷しに来たよ。」
友人は私がおせちに狂っていることも知っていて、おせちを手伝いに来たという意味合いでそう言った。職場の人に「年末はおせち奴隷になる」と言うと、心底驚かれたらしい。

まずおせち作りを手伝ってもらい、友人が好きな松風を熱々の状態で試食してもらう。味見や余った端っこを食べるのも、おせち作りの楽しいところだ。そういう部分こそ体験してもらいたかった。
それからは餅を丸めたり年越しそばを食べたり、紅白を見ながらワイワイしたり。私が思う年越しの良い部分を濃縮してお届けした。「どうだ、これが年越しだ。最高に楽しいだろう?」といった具合に。

後日「間違いなく人生で最高の年越しだった」と嬉しい感想をもらった。
大晦日は、年越しは本当に楽しい。私は大晦日とお正月の二日間が一年で一番好きだ。

一月一日 おせち本番

とうとうおせちを食べる日が来た。
まずは雑煮の準備をする。うちには決まったお雑煮のスタイルがなく、白みそとおすましの雑煮を交互に作っている。今年は白みその年だったので、ペースト状にした海老芋に出汁を溶き、柚子を効かせてすり流し風の雑煮にした。

私がおせちを作り始めたときから、毎年同じ友人たちにおせちを食べてもらっている。一緒に食べる人の好みに合わせて、毎年内容を変えたりしている。
昆布巻きはおせちには欠かせない一品だが、昆布巻きが苦手な人がいるので入れるのをやめてしまった。
そうやって少しずつ一年に一度ずつ意見を交わしながら「我が家のおせち」を作っていく。

今年も無事に重箱を埋めることができた。おせちが並んだ食卓を眺めながら、私はおせちを作り終えた喪失感や来年への反省を列挙し始めていた。

また来年ね、また来年。おせちと再会を果たしたと思ったのもつかの間、私は心の中でおせちに「またね」と言った。

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