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エッセイ

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2024年4月の記事一覧

やっぱりなんでもない

やっぱりなんでもない

散歩してたら、すごく細い道に、小さな鳥居が建っているのを見つけたよ、とか

その鳥居の隣に、食紅を垂らしたように鮮やかな花が咲いていて、ちょっと嫌だった、とか

朝の電車で高校生が、ずっと高校生でいたいって話していて眩しかった、とか

近所の和菓子屋さんで、お芋のソフトクリームが食べられるらしいよ、とか

西友で売ってたドレッシングが意外と美味しかったよ、とか

多分、こういうことを文字じゃなくて

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ぐつぐつ

背中がじっとりする感覚で目が醒めた。
時間と温度と湿度をいっしょくたに教えてくれる箱に目をやる。
4:16、23.4℃、72%。

9歩進んで、無機質な白い便器で用を足し、加熱式タバコを熱し、吸って、吐いて。

少し湿ったシーツにもう一度触れたくなくて、少し錆びた台所へ。

昨日やけっぱちになって買った大根と、にんじんと、好んで買ったあぶらあげと、いつ買ったか忘れた白だしを、鍋に入れてぐつぐつ。

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できるだけ端を歩く

できるだけ端を歩く

「なんかさ、もういいかなって思うんだよね。」
友人にそう漏らしたことがある。
具体的な何かではなく、とにかく全てに対して。
自分の目の前にある空気とか、温度とか、色とか、そんな曖昧なものも含めて全てに。

彼は、おそらくそれを「死にたい」と受け取った様子だった。
厳密には、「死にたい」という欲求すらも湧かないくらい、何かをしたいと思えなかった。
「何もしたくない」ではなく、「何も考えや感情が湧かな

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こんな星の夜は

こんな星の夜は

いちばんの友達が結婚した。いや、正確に言えば入籍はもう少し前にしていたのだが、結婚式を挙げた。
いちばんの友達、というのはなんだかむず痒い。
友達に順番をつける気はないし、この友達がいちばん長い付き合いの友達というわけではないし。
でも、気を許せるとか、自分のことを理解してくれるとか、そういうのをひっくるめていちばんの友達と言うことにする。

彼とは小中学校の同級生なのだが、友達と言えるくらい仲良

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