デザイン組織の最高のアサイン
成り行きまかせのアサインに落ち、時に成果を傷つけていないか。プロジェクト要件を想いやり、メンバーの胸に突き刺さるアサインができているか。
どのプロジェクトにどのメンバーを割り当てるか。今回のテーマは、デザインプロジェクトのアサイン。組織から見た優れたアサインのしくみはどんなものか。個人のキャリア形成に優位なアサインはどんなものか。組織と個人の両面で、記事を2回に分けて考えていきます。
今回は組織の視点からです。アサインの理想に触れることで、デザイン組織の成長とは何なのか、その真実を握りしめるきっかけになれればと。
成果を叶え、期待値を超える
デザイン組織のアサインオペレーション。簡単に言うと、プロジェクトにメンバーを割り当てる作業です。
プロジェクトの予算や成果などの要件、依頼者の期待値、メンバーの技術と稼働。これらをあわせてバランスさせる一連の工程のことです。
一人だけのプロジェクトであればアサイン検討は簡単ですが、ほとんどが複数のメンバーで協働するもの。メンバーの組み合わせもあります。考える変数が多く複雑な調整が必要なものです。
プロジェクトの性質から必要なデザイン技術は異なりますし、必要な工数と投入できる稼働が合わなければいけません。
デザイン組織の中では複数のプロジェクトが並行するのが常なので、アサインも複数が同時進行します。複雑だからといって時間をかけてはいられません。スピードも重要な価値。迅速な意思決定が求められます。
プロジェクト成果を叶えること、依頼者やプロジェクトオーナーの期待値を超えること。このようなアサインをすることが大前提。アサインの目的はまずここにあります。
検討材料の可視化
成果を達成し期待値を超えるアサイン。そのためには、検討材料を可視化し、合理的な判断をするための環境を整える必要があります。
プロジェクト要件の整理
プロジェクト要件を、アサインがしやすいよう整理します。プロジェクト成果、依頼者や協働者、予算、スケジュール、タスク、必要とされそうなロール(職種)、期待値など。速やかな意思決定につなげるためにフォーマットを用意し分かりやすくします。
デザイン技術の見える化
アサインのために、ロール(職種)や技術を整理します。スキルマップを作成することで、意志疎通の解像度が上がり、無理のないアサインが可能になります。とりわけ、デザイン組織の人数が多く技術の全体を把握することが難しい場合に有効です。
デザイナーはそもそも越境的な役回りです。ロールやスキルの定型化を突き詰めること自体はデザインの本分ではありません。デザインの分業も必ずしも良いものではありません。ですが、ある程度の整理が行われないと現実的に業務が回りづらいもの。実務視点で最低限の整備は必要なものと考えています。
メンバーごとの予定稼働
稼働が空いていないとメンバーをアサインできない。そのため、メンバー稼働の予定管理が必須になります。メンバーごとにどのプロジェクトに何時間稼働する予定か、それを週次の単位で情報をそろえておくと良いでしょう。感覚的には日次ではなく週次レベルの粒度感で問題ありません。メンバーが自己申告する形で、各自の責任で予定稼働の管理ができると良いでしょう。
稼働管理はめんどくさい。そんな声もあるでしょう。が、経験上、管理をしない方がトラブルが頻出し、結果的にめんどくさい状況を個人が背負うことになります。不調和な暮らしに身を置くことにもなります。いらだつような環境にならないように、仕事の安全を高めるルーティンとして推奨したいと思います。
なによりも、稼働の予定管理をしないと、「メンバー個々の感覚値でできることを無理のない範囲でやる」ことが無意識に常態化してしまいます。心のままの定量化されない感覚値。そのあいまいさが積もり積もって組織行動の精度を下げていきます。
予定稼働を見える化しないと、そのプロジェクトにかける稼働が妥当なのかの客観的な判断ができない。プロジェクト本位、成果本位で考えるべきことが、リソース本位(メンバーの自分本位)に逆転してしまいます。
加えて、稼働管理をしないと、プロジェクト以外の活動、たとえば人材育成や研究活動などの中長期的な取り組みに計画的に時間を割きづらくなる。この点も組織にとってダメージがあることです。
デザイン組織の最高のアサイン
ここまで、「成果を達成し期待値を超えるためのアサイン」をするための基本的な環境整備の話をしてきました。
しかし、今回の記事タイトルにある「デザイン組織の最高のアサイン」は、そのさらに上にあるものと考えています。
それは、プロジェクト成果を達成することを前提に、人と組織が最大限に育っていくようなアサインです。
たとえば、メンバーをストレッチするアサインが習慣化していること。メンバーの「やりたいこと」に合わせて、主体性のある挑戦を促していること。アサインの透明性を高め、成長機会の平等をつくれていること。その結果、成長実感と自信の獲得から、自らリスクテイクし高い価値を生むメンバーが多数生まれていること。このような状況を作り出せるアサインです。
ストレッチ目標としてのアサイン
ストレッチ目標とは、背伸びすれば届く目標。がんばれば達成できる目標です。今より前に進むためには、挑戦は避けて通れない。アサインする仕事が簡単すぎれば、メンバーは成長実感を持てずくすぶります。難しすぎればプロジェクト成果を達成できずに絶望と失望。ストレッチ目標の難易度になるようアサインを行うのです。
人間は知らぬ間に「できること」の中で仕事をしてしまうもの。「できること」はだんだんとアイデンティティの檻になり、成長のしなやかさを失います。誰だってそうです。気をつけないと私だってそうです。メンバーが「できること」の檻の中でもがかないよう、組織的なアプローチが必要なのです。
私の20年の経験則としても、「できる人」が淡々とこなすよりも、「背伸びしたらできる人」が知恵と工夫を凝らして挑戦するほうが、プロジェクトも高みに近づく。できる人の予定調和の仕事よりも創意工夫が生まれる。創造性が高まる。そんな光景を何度も見てきました。
メンバー全員が「簡単にできること」になるアサインの場合は、成果設定のハードルを上げる必要もあります。むしろ、より高い成果を目指せる状況なのに、それをしないということは、依頼者や協働者にとっても良いことではありません。期待値を上げてさらに上の成果を目指していきます。
プロジェクトに適切にチャレンジする人を動員する。そのリスクを管理しプロジェクト成果に悪影響が出ないように徹底する。勇敢なストレッチ目標が不幸な結末を生まないように、スーパーバイザー(監督者)が仕事の品質を管理する。プロジェクト成果とメンバーの成長の両方を叶えるようにコントロールします。
目標を共有し「やりたい」に応じる
ストレッチの効果を最大化させるには、メンバーの「やりたいこと」となるべく一致するアサインを行うことが重要です。
そのためには、メンバーが個人の視点でやりたいことや目標としていることを可視化し、アサインの際に考慮されるようにするのが効果的です。
実際には、個人のあるがままの希望だけですと組織の戦略性が薄れていきますので、個人視点の「やりたいこと」と組織視点の「やるべきこと」、これらを統合したメンバーごとの目標を作成し、その情報を共有するのが良いでしょう。
その目標がアサイン担当者に共有されること。メンバーと目標達成に向けて共に悩んだりしている上長がアサインを行うこと。そういった環境を整備し、デザイナーの意欲に応えるアサインを実行できるようにします。
どれほど分かり合えるチームでも、意欲という形のないものを伝えるのはいつも困難です。メンバー自身が周囲にアピールすることも重要ですが、組織側から積極的に迎えに行く姿勢も、それもまた不可欠です。
アサインの透明性と機会の平等
アサインオペレーションの透明性は非常に重要です。組織に対してどんなプロジェクトの相談が来ているか。どんな提案が進んでいるか。こういった情報がオープンになっていること。さらに、そういった情報に対してメンバー全員が自分から立候補できる環境を整備することも重要です。
一つは機会の平等の観点。誰でも平等に、成長に向けた手段が開かれていること。アサインフローが闇に閉じていれば、手を伸ばせない。情報にアクセスしづらいメンバーには不利な環境となってしまいます。
デザイナーは実力主義の世界。誰だって照準を絞ってステップアップしたいもの。結果の平等は難しいですが、機会の平等は組織がしっかりと提供すべきです。
プロジェクトは貴重な成長機会であり、限られた資源とも言えるもの。成長機会は、気が付けばただそこにあるものではなく、いわば勝ち取るものでもあります。意欲さえあれば立候補できる、挑戦する心があれば組織がそれを支援する。なくしちゃいけない組織の基本です。
機会の平等は、人事評価の正当性を保つためにも必要です。挑戦機会が等しく与えられないのにフラットに成果を評価される。これでは理不尽です。評価の信頼性とアサインフローは深く関係します。
アサインの妥当性と市場適合の維持
アサインの透明性が必要な理由。もう一つは妥当性です。アサインはある種の権力でもありますので、その力が正しく行使されているかを開く必要があります。密室で行われ、妥当性を説明できないアサインでは、メンバーの動機づけが起こりづらい。わだかまりのない納得できるアサインはプロジェクト成果にも繋がります。
私はデザイン会社コンセントの中途採用面接を担当していますが、面接ではアサインフローを気にする応募者も多いです。暗黙的にアサインが行われていたら、新規参入の中途社員には不利に見えるもの。社内人脈が顔を効かせる環境では成長のイメージを持てない。採用競争力の観点でもアサインの透明性や妥当性は重要であると、肌に感じるところです。
さらに一つは市場適合の観点。デザイン組織に対してどんな依頼が来ているのか、組織はどんな提案をしようとしているか。メンバーが目の前の作業に集中するだけで、こういった一次情報に触れていないと組織がだんだんとガラパゴス化します。
市場が必要としている技術、アサインで必要となっている技術、それと自分が持っている技術を対比し、そのギャップが何であるかを個々人が把握できないと、メンバーそれぞれの市場適合に問題が生じます。個人の市場適合が進まないこと。それは、ひいては組織全体のスキルが市場に合わない、時代遅れのものになるということです。
成長の手応えが組織全体をアップデートする
デザイン組織を一段上に成長させる要素は何か。待遇・組織文化・ビジョン・環境。いろいろと考えられますが、真実はやはり人にあると思います。
自分からリスクテイクして、良い意味で仕事の難易度を上げていく人。組織全体の「できること」から脱して、社会や市場の「やるべきこと」に果敢にチャレンジする人。それにより組織の「できること」をアップデートできる人。
こういう人を育てるためのアサインは何か。ストレッチ目標から自信と達成感を得るアサインはどんなものか。これがデザイン組織にとってのアサインの本質的な問いなのではないかと思います。
こういう人が、組織成長の起点であり、先端にいることは間違いない。そしてこういう人は組織の中ではごく少数であることが多いもの。プロジェクトの中で成長の手応えを持つ、次なる成果に対する自信を持つ。こういうデザイナーを一人でも増やすアサインを考える。これが本質に思います。
このようなことは、若手の成長のことをイメージするかもしれませんが、そうではありません。私が言いたいのは、どれほどキャリアを積んだとしても、成長実感と自信を得られるアサインをすることです。
若手ならば若手なりの、シニアならばシニアなりの、難度の異なる期待値の仕事があり、それをキャリアごとにリレーしながら組織の全員が成長の手応えを得られる。軽やかに。緩やかに。仕事が人を伝う。次のプロジェクトでは、もっと新しいことをしよう。難しい成果に挑戦しよう。全員がそう思っている。それが最高のアサインが回っている風景です。
アサインと人情
最後に、最高のアサインを妨げるものについても触れたいと思います。
プロジェクト要件とスキルや稼働がバランスする最低限のアサインができたとしても、そこに成長視点を組み込めないことも起こります。
それは日本人的な人情によって起こります。ストレッチ目標を理想としながらも、現実としては、アサインする者がアサインされる者の事情や心情を汲み取ることによって、自然と「できること」の方に結果が寄っていってしまう。
もしくは、アサインされる者がストレッチ目標に反発し、結果としてその意向に寄り添い過ぎてしまう。現状維持の風に吹かれてしまう。これは成長意欲が旺盛な若手メンバーではなく、とりわけ成長が落ち着いた中堅シニアの層で起こるように思います。
中堅シニアが次のステップに挑戦しないと、若手に次のバトンを渡しづらい。成長機会がのろのろと渋滞してしまう。
もちろん、ライフステージに応じて仕事に抑揚をつけることは必要なことですが、それを十分に踏まえたとしても保守的に流れることがある。
アサイン担当者の力量というよりは、日本人の文化や気質の中では避けられない力学のようにも感じます。その解決には、現状維持の力学と反発する、ストレッチのムードを組織的につくることもまた重要です。組織の「当たり前」を挑戦的な方向に導くのです。
コンセントでは、いわゆる管理職がアサイン業務を担当します。その様子を見ていると、上長と部下の関係性がこういったことの遠因にもなっているように思います。
信頼すべき上長なので、待っていれば自分をアサインしてくれるだろう。そんな気持ちで、情報のキャッチアップや立候補もなく待ちの姿勢にもなってしまう。成長機会がさーっと通り過ぎていきます。
レポートライン上で起こるこのような現象を避けるために、そことは外れた者がアサインを行う。たとえば、メンバーと感情さえもリアルに共有しているような管理職の協働ではなく、デザインプログラムマネージャーが職能としてアサインを一元的に行うなど、工夫の余地があるところです。機械的に判断できる部分は自動化するなどして、アサインの洗練化をはかることも可能です。
人情の影響は、コンセント社内でごく一部の現象ですが、まだ改善の余地はあります。試行錯誤の途上にあります。
アサインは人生を左右する
「あのプロジェクトにアサインされて人生が変わりました。」
これは、あるデザイナーに言われたことです。
そのアサインをした当時、私はマネージャーのポジションであり、日常的にメンバーをアサインする役割を担っていました。
そのアサインもまさにストレッチ目標に合致したもの。私はプロジェクト責任者としても仕事を見守りました。ちょっとぐらいの不手際ならば、全部巻き取ってやる。そんな気持ちでいましたが、そのデザイナーは努力を重ね、何の問題もなく見事に活躍されました。今も大きく成長されています。大切な機会を提供できたなと、胸が熱くなります。
アサインは人生を左右する。愛も自由も希望も夢も受け止める。あるプロジェクトに入ることで、飛躍的に成長することもある。アサインのしくみを洗練させることで人も組織も大きく成長する。これは夢物語ではなく、実感として感じることです。
今回は、組織の視点でアサインを考えていきました。いわば組織成長のエゴで論じられたもの。組織と個人はエゴとエゴのシーソーゲーム。次回は、キャリア形成を有効に進めるために個人はアサインにどう向き合うか。
デザイナーは、自分の成長を誰かのせいにして過ごしてはいけない。機会は足元に転がっているわけではない。アサインをハックすべきです。
また、読んでいただけましたら幸いです。
※今回の記事の中で取り上げた、スキルマップの整備やメンバー目標の共有について。コンセントの事例として下記の記事で詳しく紹介しています。ご興味ある方はぜひそちらもご覧ください。