見出し画像

Xデザイン学校 リーダーコース 講師ふりかえり デザインリーダーの学びと課題

先日、私が講師を担当しているXデザイン学校リーダーコース、2023年度のプログラムが終了しました。今回は、私が受け持った講座を振り返りと、今の時代に必要なデザインリーダーの学びについて書いていこうと思います。


Xデザイン学校リーダーコースとは

Xデザイン学校は、UXデザイン・サービスデザイン・デザインリサーチ・デザインマネジメント等を対象にした社会人の学校。社会を良くするための広範なデザインの学びと、それを研究する楽しさを追求できる場です。私は2017年からアドバイザー・講師として参画しています。

私はそのXデザイン学校の「リーダーコース」を、山崎和彦先生、坂田一倫先生、川北奈津さんとともに担当しています。

リーダーコースは、デザインリーダー・プロジェクトリーダー・マネージャー・ファシリテーター・教育者や、これらを目指す人を対象にしたコースです。半年にわたって2時間30分の講座が12回行われます。加えて、交流会・相談会も数回実施されます。

今年は21名の受講生が参加。さまざまな業態の事業会社・デザインエージェンシー・コンサルティングファームなどから、UXデザイナー・プロダクトマネージャー・営業職といった多様な職種の方に受講いただきました。向学心の高い受講生に囲まれ、緊張する思いで講師を担当しました。

私が担当した講座とふりかえり

私はリーダーコースの中の「デザインプランニング」「デザインマネジメント」「デザインチームの組織」「ワークショッププランニング」の講座を担当。私の講座は全て、60分の講義とロールプレイ形式の90分のワークショップで構成しています。では、概要とともにふりかえっていきます。

デザインプランニング

「デザインプランニング」は、デザインプロジェクトの組み立て方についての講座。プロジェクトの目的となる要件と、それを果たすためのプロセスの設計方法をお話ししました。

デザインプロセスの大まかなパターンとそれぞれの利点や留意点、実践的な活用方法を紹介しました。あわせて、デザイナーに寄せられる依頼の「与件」を、どのように要素分解してプロジェクトゴールとなる「要件」に変化させるか。さらに、そこにデザインの主体性をどう持たせるかを解説しました。

与件を要件としてどう磨き上げていくか。この点に気づきが得られたとの意見を多くいただきました。要件化の際には、経営や事業の視点だけでなく社会の視点も必要です。もとより、実行可能なものでなくてはなりません。今後はAIの活用も進み、プロジェクト設計の合理性に加え、ユニークさも求められていくようになるでしょう。

要件化プロセスは、検討の変数が多く経験値も必要ですが、同時に受講プログラムとしてもニーズも高いもの。経験を分解しながら形式知化を進めていきたいと考えています。

デザインマネジメント

「デザインマネジメント」は、企業経営の視点でデザインをどう活かすか。プロジェクト運用や体制構築、組織変革、社内文化など、対応を横断しながらも、それらを長期的に戦略づけて考えていく方法を解説しました。

実際のマネジメント実務では、手元の組織課題に対応しながらも、数年単位の大局観を持って人や組織を動かすことが肝要です。今回は、デザインマネージャーやCDO(チーフ・デザイン・オフィサー)に役立つ内容でしたが、そのような職でない方からも「視座を上げて考えられるようになった」という反応をいただきました。

「デザインマネジメント」のロールプレイでは、異なった経営状況の企業を複数取り上げ、その中のデザイン組織の成長ロードマップを設計するワークを実施しました。その結果、チームごとに素晴らしいプランが生まれましたが、その中で私から「理想的な検討ロジック」を解説しきれなかったことが反省ポイントです。「組織対応に一般的な正解はない」とし、ワークの回答への理路を曖昧にしてしまった。この点は、今後知見を提供できたらと考えています。

デザインチームの組織

「デザインチームの組織」は、デザイン組織の設計方法について。成果設定・情報連携・技術強化・創造性と組織文化に論点を分け、その観点から設計手段について事例も交えてお話ししました。

組織の性質やミッションの時間軸から成果設定がどう影響を受けるか。デザインチームが創造性と生産性を発揮するために、情報連携や業務をどう整理すべきか。デザインの技術を蓄積しながらも、スキル柔軟性をどう高めていくか。「デザイン文化」の良い面を企業内にどう実装していくか。このような内容を解説しました。

受講生の方からは「組織という曖昧なものに対して、どう分解し取り組めばよいか分かった」とのフィードバックをいただきました。デザイン組織は、DXといった市場背景、生成AIといった技術的背景、少子化といった人材市場の背景などが入り混じりながらも、日進月歩に知見が生まれる領域です。来年に向けてブラッシュアップできればと思っています。

ワークショッププランニング

「ワークショッププランニング」は、合意形成と意思決定の力学を押さえながらも、創造と学びに満ちた活動をいかに設計するか。企業の現場で一般に普及したワークショップに対して、デザインリーダーはどのように取り組むべきか、どうファシリテーションするかという内容です。

デザイナーが集団を創造的な解へ導くには、合意形成と意思決定のスキルを磨くことが必要になります。これがスキルであると認識することも重要です。誰を関与させるかという勘所を押さえる。メンタルモデルを築き思考を促す型を知る。思考を飛躍させるリフレーミングの引き出しを多く持つ。創造性と納得性を兼ねる「決め方」を知る。このような技術を押さえていく内容です。

講座後に行われる交流会では、ワークショップにおけるファシリテーターの関与の踏み込み方について、受講生同士で議論が発展しました。実践者が集うリーダーコースならではの光景ですが、その中でも事業会社と外部エージェンシーのスタンスの違いによって考えが変わるなど、次年度に活かせる知見が生まれました。

デザインリーダーの学びと課題

デザインリーダーの学びはどうあるべきか。今年のリーダーコースを終えて、現時点の考えをまとめておきます。

リーダーコースは、組織の管理職や、プロダクトマネージャー、地方で活動される方、企業と伴走するコンサルタントなど、「デザインで集団を動かす」立場の方が多くいらっしゃいます。

そのような立場では、より創造的に、より自由にという遠心的なベクトルの中で、世で築かれてきた組織管理や推進手法を自分なりに変化させ、試行錯誤していかなければなりません。従来の手法を知らなくて良いというわけではなく、その中の論点を借用し普遍性を踏襲しながらも、自分なりのやり方を構築していく必要があります。

私も含めて多くのデザインリーダーは困っています。

自分が置かれた状況を解決するために、どれだけ記事や書籍を当たっても答えがないことが多いもの。それは、清濁併せて考えないと太刀打ちできないことでもありますし、自分では想起し得ない論点が潜んでいることもあります。矛盾し対立する意見をソフトランディングさせる人間的な知恵も試されます。

デザインリーダーは相談できる相手も限られています。リーダーは孤独なものでもあります。

デザインリーダーの工夫は、上手くいったかどうかも分かりづらいもの。効果は数年先に訪れることも多いです。効果が出たとしても褒められないこともあります。フィードバックがされない。手応えがない。そんな中で学び続ける気力も必要です。

デザインリーダーの学びとは何か。

一般に流通する情報を理解すること。それを自分の知識と結合し実務に取り入れること。その経験の暗黙知を仲間と交換し評価を得ること。さらにそれを普遍化しさまざまな現場で実用化すること。「SECIモデル」をそのまま実行したようなループ構造ですが、こういった組織的学びを業種や年齢の枠を超えて愚直にまわすことが、デザインリーダーにとって必要なものだと感じています。

集団や組織のことを考えていると、だんだんと真面目になりすぎることもあります。考えが硬直的になっていくこともあります。

そんな状況に対して、「それ、面白くないよ」とサクッと横から指摘してくれるとありがたいもの。客観的にツッコミを入れてくれる人、考えや価値観をマッサージしてくれる人は自分の組織にはいないことも多い。

社内の職位から指摘を受けづらかったり、組織全体がまるっとバイアスに包まれていると、クリティカルな意見は受けづらいもの。そういう「批評者」を組織の外につくるのも良いでしょう。

ほんの10年前までは、デザインの組織運営の実務はあまり論点化されませんでした。以前は、「なるべくマネジメントはやりたくない」というデザイナーが多かった中で、日陰のようなノウハウだったとも思っています。

そして今、デザイン活用が一般に普及し、組織運営も重要なデザインスキルと位置づけられるようになりました。実務視点で体系化や知識想像を急がなければならない時代でもあります。

デザインリーダーの学びは、どこまで行っても良い意味で、手探りで、手作りな状況なのだと思います。なにより、その状況を称賛し楽しめる仲間を広く持つことが重要です。学びは楽しい方がよいですから。



プログラム最終日にいただいた受講生からの感謝状(すいません、自慢です)。


※デザインの学びについて。下記の記事では自分の学びや研究を軸にしたデザイン実務のあり方について触れています。あわせてご覧いただけますと嬉しいです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?