効果的なデザインアウトプットの説明方法
デザイナーが、依頼者にデザインアウトプットの説明をする。毎日のようにある光景です。
ただその際に、アウトプットの質は高いのに説明が上手くいかず、意思決定が良からぬ方向に行ってしまう。依頼者もデザイナーも損をしてしまう。そのようなケースがあります。
これは各所で起こっており、社会全体のデザインの価値を下げているのではないか。説明技術を底上げし、世の中のデザインをもっと魅力的にできないか。そのような勝手な思いから、効果的なデザインアウトプットの説明方法について書いていこうと思います。
ここでは、プロジェクトの中でデザインアウトプットを説明するケースを想定します。いわゆるコンペのプレゼンのような「魅力的に伝える」ものではなく、聞き手のメンタルモデルに沿った「伝わる説明」と「生産的な議論」を目的に展開します。それでは、実際の説明の順番に沿って解説していきます。
1.全体構成と時間配分
はじめに、話の全体像とゴールを示します。これから何の説明をするのか。おおよその時間配分はどれくらいかを、数十秒程度で手短に説明します。聞き手にとって、全体の地図を示されずに話を聞きつづけるのは大変なことです。何をゴールに話しているのかわからないので、理解も進みません。最初に相手の大切な時間をいただいている姿勢を示すのにも重要です。
2.相手に何をしてほしいか
次に、依頼者に何をしてほしいかを話します。発散的に自由な意見がほしいのか、しっかり意思決定してほしいのか。どのような観点から意見がほしいのか。相手が複数いる場合には誰に何をしてほしいのかを、端的に話します。
聞き手も自分の役割を認識する瞬間です。話し手の方から、しっかりと聞き手のスイッチを入れていきましょう。
余談ですが、よくあるケースとして、デザイナー側は「相手の最も上席にあたる方が意思決定するだろう」と思って進行するけども、実際はその上席は監督者であって、部下に意見を言わせ、部下に意思決定をさせたい状況があります。そのようなギャップがあると双方で意見のお見合いが発生し、生産的な議論を妨げます。最初にきちっと役割の認識合わせをします。
3.これまでのリマインド
まだ本題には入りません。ここまで進行したプロジェクトのリマインドをします。ここまで何を検討してきたのか、今はプロジェクト全体のどの地点なのかを、簡単に振り返ります。状況に応じて、数十秒から数分程度で行います。
プロジェクトによっては、ミーティングの頻度が少なく、前回までの議論を忘れてしまっていることもあります。ここで、話し手の方からリマインドをしないと、聞き手はこれまでの検討を一生懸命思い出しながら、説明を聞くことになります。話に集中できません。
最悪の場合、これまでの検討を踏まえずに重要な意思決定をしてしまうことも起こり得ます。これはデザイナーのファシリテーションの責任です。丁寧かつ迅速に振り返りを行い、徐々に理解の助走をつけていきます。
開始からここまでが導入部分です。1〜5分くらいでスムーズに進行できるようにしましょう。
4.アウトプットの要点と判断軸
ここからが本題です。実際にデザインアウトプットを見せながら説明に入っていきます。
その際も、いきなりデザインアウトプットの細部を話すのではなく、全体の概要から始めます。アウトプットに通底するコンセプトであったり、全体の構成についてです。複数案ある場合は、複数の案を制作した理由や背景も補足します。1、2分程度で大まかに。
ここで同時に重要なのが、アウトプットの良し悪しの判断軸を示すことです。この場合における「良いデザイン」の条件は何であるかをデザイナー自身で言語化するのです。相手はデザインの専門家でない場合も多いものです。誰もが専門外の事柄にジャッジを下すことは難しいものです。検討の補助線を引きましょう。
判断軸を示さないと、意思決定者の好みや直感で決まることもあります。意思決定者の直感の全てを、一概に否定するものではありませんが、デザイナーとしてそこに委ねるべきかは一考すべきです。
5.相手視点の詳細説明
アウトプットの概要を示した後は、時間をかけて詳細説明に入っていきます。ここでのポイントは相手の視点に立って話をすることです。
やってしまいがちなことは、デザイナー目線で話し続けてしまうことです。「親近感を表現するために柔らかいトーンでまとめました」というような、説明しなくても分かる話や、「設計するにあたり工夫したのはXXです」というような、全体の意思決定に関係のないデザイナーの作業の話で時間を費やしてしまうことです。
その場の緊張を和らげるための余談として話す分には問題ありませんが、基本的には、相手の意思決定に結びつけるための「相手の視点に立った説明」とは分けて話すべきです。
では、相手の視点に立つというのはどういうことでしょうか。それは、デザインの対象となる事業・サービス・製品・プロモーション・PRなどが、市場に受け入れられ成功するシンプルなゴールに向けられた話です。
市場性はあるか、競合優位はあるか、ユーザーは理解共感できるか、選ばれるか、コンバージョンするか、信頼を得られるか、など、挙げればきりがありませんが、いわゆる「ビジネス視点」と呼ばれるような話です。
「ビジネス視点」に苦手意識を持つデザイナーは多いと思います。事業開発や広報広告戦略に明るいデザイナーであれば、相手が論点化していない課題や盲点となっている点を補填するような提案ができると思います。
ただ、「ビジネス視点」に自信がない場合でも、自分の知識で想像しうるレベルの説明でも問題はありません。デザイナーの不十分な言語化であっても、その話の中から、聞き手がビジネス成果に接続する狙いや意図を少しでも理解し、聞き手の知識で補えれば充分に議論が可能だからです。知識よりも、まずは姿勢が重要です。
加えて、「聞き手自身の課題」も注目します。プロジェクトの目的を達成するために意思決定者や担当者が感じるであろう課題や不安に対して先回りをして説明をするとより効率的です。聞き手は雑念を振り払い、本質的課題に集中して話を聞くことができます。
6.デザイナーの主張と結論
基本的な説明が終わったら、最後にデザイナーの主張と結論を話します。相手の視点=ビジネス視点の説明が終わったら、そこから明確に話を区切り、デザイナー視点から自分の意見を述べます。
全体の説明が長くなる場合や、聞き手の好み、デザイナーの芸風によっては説明の最初に主張や結論を入れても構いません。
デザインは、何かの課題から必然的にそのままアウトプットが出てくるものではありません。デザイナーの主張や表現がおのずと入ってくるものです。
デザイナーは感性の面、認知の面での責任を担っています。デザイナーが自分の意見を述べない、態度表明をしないことは、その点での責任放棄でもあると認識すべきです。
同時に、ビジネス視点では抜けがちな「社会の視点」を補足することもデザイナーの責任として必要なことです。チームは複数の視点を持つがゆえに創造性を発揮します。仮にビジネス視点と相反することであっても発言する意志が必要です。
7.不明点の確認
説明が終了し、不明点の確認を行います。質疑応答とディスカッションを混ぜると混乱しますので、不明点の確認で一度区切ります。
まずは、デザイナー側から事実確認したいことがあればここで質問します。あくまで確認ですので、オープンクエスチョンではなく、端的な回答を得やすいクローズドクエスチョン的に聞きます。自由回答を促すようなオープンクエスチョンをしてしまうと、本筋ではない局所的な議論が始まってしまうこともあります。
デザイナー側の確認の後に、先方から説明内容に不明な点がないかを確認します。
8.論点を示したディスカッション
不明点が解消され、全員の理解が揃ったら、ディスカッションに入ります。ディスカッションの時間は、最低でも全体の半分ほどは確保します。大部分をデザイナーの説明時間に費やすのは、双方向の対話としてフェアでありません。
まずは、冒頭に話した検討のゴールを確認し、今一度目線を揃えます。その上で、ここまで話した要点や判断軸から、ディスカッションの論点を提示します。
依頼者側もある程度のデザインリテラシーを有している場合は、論点を示さずともハイコンテクストな議論を開始できます。しかし、そのような状況は多くないもの。論点提示がないままに進めてしまうと、依頼者は発話の起点が作りづらく、感想以上の深い言語化に至らないケースもあります。
意見が出てきた場合には、そのコメントの表面にとらわれずにどうしてそう思ったのかを引き出すように進行します。デザインアウトプットに対するフィードバックは感性的な面も多く、そもそも言語化が難しいものです。発言の意図や背景を丁寧にすくい取り、対話の中で真意を探っていきます。
対話の中で、ネガティブなフィードバックを受けることもあります。デザイナーとしては、自分の意向を通したい気持ちになったり、修正の手間を気にしたりして、対立構図になってしまうこともあります。
そうならないように、デザインアウトプットのそもそもの目的や、共有した「良いデザイン」の条件に全ての意識を集中し対話する。「個人の意向」や「修正の手間」といった自分都合の雑念は一旦脇に追いやって、共有したゴールに向かって、同じ目線で依頼者と対話するように心がけます。
その上で、候補として挙がってきた修正の方向性に対して、修正コストや時間といった条件を精査し、現実的な軌道修正の方向を両者で探っていきます。
9.まとめとネクストアクション
最後5〜10分ほど時間を残し、まとめに入ります。当初予定したゴールに至ったのであればその確認に、ゴールに至らないのであれば軌道修正の方向を確認します。いずれもネクストアクションを明示してから、場を閉めます。
必要なデザイナーの姿勢
説明方法の解説は以上です。ここで紹介した流れは、守破離で言うところの守の部分。基本的な方法です。
慣れてくれば適度に崩しても良いですが、それでも守るべきポイントが3つあります。聞き手のメンタルモデルを意識すること。デザイン視点をビジネス視点に翻訳する姿勢をもつこと。主体的に判断軸や論点整理に動くこと。この3つです。この3つを無意識にできるようになることが大事です。
最後に重要なこととして、全体を通したデザイナーの姿勢についても触れたいと思います。
よく起こるケースとして、デザイナーが「お伺い」モードになってしまい、唯々諾々と依頼者に従ってしまうことがあります。そうなると、デザイナーは依頼者の想定をカタチにするだけの存在になり、本来のバリューを出せない状態になってしまいます。
依頼者が「お客様」や「クライアント」であったとしても、こういった説明の場では、対等な立場を意識し、その覚悟を持つことが重要です。たとえ、依頼者が費用を支払う立場であっても、その対価は「従順であること」ではなく、「創造的な視点からアイデアを提案し、カタチにし、成果を出すこと」に他ならない。その前提を忘れてはいけません。
あわせて、デザインアウトプットの説明や議論を導き、納得性のある意思決定まで持っていくのはデザイナーの責任です。リーダーシップを発揮する勝負どころです。その姿勢を持てば、対等の覚悟は周囲に伝わり、共創も促進されます。
「自分の表現を押し通したい」と、ずれたゴールで対立するのは論外ですが、事業成果など、同じゴールを目指し、そのために異なった意見をすり合わせることは生産的なものです。
対等の関係を保つ覚悟を持ち、そのために必要な情報は調べ、目線を揃えるように努める。そのような研鑽を積む姿勢を持つことは、デザイナーとして重要なことです。
※今回は、効果的なデザインアウトプットの説明方法について解説しました。下記の記事では、非効率なデザイン作業を防ぐための方策について触れています。創造的かつ生産的なデザインを磨きたいという方は、ぜひ参考になさってください。
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