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時間

時間

目が覚めたら、すりガラスの上に見える空が暗い青だった。時計を見たら4:30だった。24時間のうち最もクールな時間帯に起きちゃった。夜更かししないし早起きもしないから、この時間に、x畳の広い宇宙の中に自分の存在を自覚することは稀で、うれしくなる。
昨日から繰り越したアルコールでまだ胃がすこしだけあたたかい感じがして、頬にはほんのり火照りが残っていた。
日の入り前のこの時間と、一日雨が降った日の夕方は

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気の抜けた生活

気の抜けた生活

最近は気の抜けたような生活をずっと続けている、というか繰り返している、と言った方がいくぶん正確かもしれない。

日々からシュワシュワしたものを最大限取り除いた感じ。ときどき思い出したみたいに、プツプツと小さな泡が水面に昇る。そんなふうに生きている。

普通に息を吸って吐いたら、自動的に出来上がるような生活。
それに合わせて、まったりしてゆっくりしたCDを選んで聴く。

刺激から1番遠い場所にいて、

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2022.11.29.

暗闇に浮かぶ、延々と続く平均台を、ずっと渡っている。落ちても死なないことはわかっているが、なんとなく落ちたくないから気を張っている。自分の足元が見える。波の音がしている。かと思えばゴーーと低い音が鳴る。なんでもない夜に窓を開けたら聞こえる、街を包み込むようなあの音。聞いたことがないから分からないが、これは海鳴りに似ているのだろうか。荒れた海を、強く吹く風を予感する。予感は外れ続ける。ここには静粛が

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2023.6.1.

木曜日

明日は大雨だそうだ。

夜、自転車に乗って出かける。
草の匂いがする。
ほそくみじかい雨粒がこっそり顔を濡らしていく。

肌寒さを感じるのに、頭を反芻するのは
蒸しっぽいゆらゆらした夏のことばかりで

張り付いたTシャツで聴いたバンドのこと。
電気の着いていないくもりの部屋で流れた汗が光っていたこと。
青色にも灰色にもみえた天井のこと。

溶けたアイスと高架下の温度も、
給食の匂いがした

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2023.5.12.

久しぶりに電話して、近況を喋って
なんか最近しんどくて、そのことに気付かなくて、
そんなつもりなかったけど涙が出てきて、
音を立てずに泣いていた。

少し鼻にかかった声も、
息を止めるような話し方も、
語尾の震えた声も、
少し増えた呼吸も、
次の言葉を紡ぐために置く間も、

自分でもわかりやすいほどに泣いていたのに、
母親は何も言わなかった。黙りもしなかった。そのまま私と話を続けた。

なおさら泣

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ねむり

最近はずっと眠い。
目を瞑ればもう、眠れない瞬間がない。
蔓延っている。なんだかずっとうすい霧に覆われてる気分でいる。

首元にずっとほそくてやわらかな縄を、ゆるく掛けられているようだ。眠りにつく時、それはキュッと締まる。窒息するように眠る。

眠りに落ちる時に見る景色がある。
それは広くて白い砂漠、その上を、延々と北に向かって飛行する夢だ。

目を開けたら、寝た分だけ、時間が経過した世界に存在し

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わたしだけの海

あなたの薄い皮膚から漏れ出る心臓の音を辿り、
規則的に揺れる身体をなぞる。目を閉じる。
深い深い場所に足が着いた。
そこは海底のような場所で、砂漠のような場所だった。
心地良さに呑み込まれてしまう前に目を開ける。

目の前で膨らんだり縮んだりする
あなたの背中はなんだか、
潮の満ち引きに似ていると思った。

あなたが息を吸って、潮は引く。
あなたが息を吐いて、潮は満ちる。
その繰り返し。

わたし

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無題

返事が返ってこないことに安心をする
呼吸しないあなたで息ができる
夢でしか出逢えないあなたが
今日は珍しく夜の縁に立っている
名前を付けたら消えてしまいそうなので
永久に呼び止めることができないあなたを見詰めて
夢と現の境目で欄干に手をかけている
あなたの指が私の首を絞めてそしたら朝になっている
いつもそうだ今日もそうだきっと
なんて 言葉にしても諦められないままで
本当はあなたがわたしの手を引い

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愛と悲しみ

愛する他人との終わりを想像する。

他人との日々は、いつかお別れする時の悲しみを、少しずつ少しずつ育てていく作業だ。それが何よりも愛おしいのは、この世界でいちばんの皮肉だ。

愛することが、ゆるやかに私の首を絞めてゆく。
他人との関係がいつかは終わってゆく事実が、胸を打つ。終わりの予感が、私に他人を大切にすることを強要する。悲しみの予感によって愛は育つ。
そうして、愛によって悲しみは育つ。

いつ

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2021.10.12

2021.10.12

じいちゃんが、私のことを忘れてしまった。

辛いけど、涙は出るけど、
忘れてはいけない今日のこと
きちんと書き留めておく必要があると思った。

祖父と祖母が居る施設まで会いに行った。
祖父はやっぱりフラフラしていて、無機質な歩行器を支えに歩いていて、前にあった時よりも痩せていた。
痩せて痩せて、顔が小さくなって、たてがみみたいに髪の毛だけが残っているのがなんか可笑しくて少し笑った。

もうほとんど

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母親のはなし

一人暮らしを始めて大体4ヶ月が経った。
ピンク色だった並木道は緑色になった。
コンクリートがゆらゆら揺れている。

なんとなく、最近は新生活の始めたての頃を思い出す。

スーパーで買い揃えてきた調味料を棚にしまう、母親の背中。
手際よく野菜を包丁で切っていく、母親の手。
毎日顔を突き合わせたこの人とも、
これでしばしのお別れか、
と思うと少し寂しくなったりもしたけど、
3日間一緒に居るとやっぱりい

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3月30日

3月30日

久しぶりに家に行って、おばあちゃんとおじいちゃんに会った。
おじいちゃんが迎え入れてくれた。1年ぶりに見たおじいちゃんは随分細くなっていて、一目見た瞬間に、もう先は長くないんだろうなって、不謹慎だけど思った。「大きくなったね」って言ってくれたけど、私の身長はもう伸びてなんかいなくて、おじいちゃんが小さくなったったんだよ、って思わず口に出そうになって、その言葉を呑み込んだら、なんか涙が出そうになった

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