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【女子高生エッセイ】『もう君とは歌えない🎞️』#ヒトカラ

カラオケって一人で行くのと誰かと行くのどっちが楽しいか。

永遠のテーマである。

カラオケに行ったからには好きな曲は全部歌いたい。

ジュースをいくつかミックスしてオリジナルジュースを作り出したい。

出ない音程の曲を入れて叫んで声を枯らしながら歌いたい。


そんな思いがあるから一人でカラオケに足を運ぶことが多い。

あの日だってそうだった。

息が上手く吸えなくなるくらいまで歌いまくる。

自分の内臓の奥底から芯のある声を出す。

家じゃ出せない大声をカラオケの私一人には広すぎる部屋にぶつけてみせる。


誰が聞くでもないけど仁王立ちで心を込めて歌う。

まるで目の前に私のファンがいるかのように。

それを三時間ほど続けているとさすがに歌い疲れた。

だから変なオリジナルジュースを作って写真を撮った。

インスタ映えするように頑張って部屋の光や角度を調節した。

10分ほど格闘して撮った写真は没になった。

理由は見た目がコーラでしかなかったから。

ただのコーラをインスタに投稿する女子高生は狂気を感じる。


仕方なく仲の良い友達に写真を送り付ける。

「コーラじゃないです。オレンジ混ざってます。」

よくわからない一文を添えておいた。

「また一人でカラオケ行ってるん?」

ロック画面に届いた通知を放置することに決める。

次の歌の予約を入れた時にもう一件通知が来た。

「誘ってくれたら行ったのに」

”来てほしかったなら誘ってるよ”という言葉は胸の奥にしまっておいた。

一緒に行ったときにラップとか洋楽とか知らない曲入れたら怒るのはそっちじゃん。

前奏が始まる。

ラップパートを抜けたら英語の混じったサビを歌う。

この曲を目の前で歌ったらどんな顔するんだろう。

間奏が終わり二番が始まる。

私は歌うのをやめてスマホを開いて連絡をする。

「じゃあ今から来れる?」

すぐに返信はきた。

「いけるよ、どこ?」

君が来るまでは歌うのをやめておくことにした。

二年前くらいに入れた暇つぶしゲームをした。

誰がこんなゲームするんだと思いながら興味本位で入れたゲーム。

広告を見てハートを復活させるくらいにはハマった。

課金しなければいいやと言い聞かせた。


君は思ったよりも早く到着した。

ちぇっ、もうちょっとゲームしたかった。

君は部屋に入るや否や不思議そうな顔で尋ねた。

「なんでゲームしとるん?」

「待っといたほうがいいかなーって」

小さく笑ってから荷物を置いて私の横に座る。

「ありがとう、でもそんなん気にする子やっけ?」

「たしかに」

「たしかにってなんやねん」

君は流れるように予約を入れて私の膝の上から白のマイクを取り上げる。

マイク机の上にもう一本あるのに。

なんなら君のために充電器から外して用意しておいたのに。

私の白色のマイクがいいというこだわりを何度伝えたことか。

毎回のように忘れてそうだったねと笑う君は愛おしいけど。

前奏が流れ出す。

やっぱりこれかとクスっと笑ってしまう。

私を見た君はニヤッと笑って言う。

「これ好きでしょ?」

長渕剛のとんぼ。

私が好きなんじゃなくて君が歌うから覚えちゃっただけだよ。

君の好きは私の好きじゃないんだよ。

その時、右手に冷たい感触があった。

そこには薄暗い照明を反射して煌めいた赤いマイクがあった。

君は首を左に小さくかしげて私を見つめた。

君は眉をひそめながら口パクで歌わないの?と言った。

仕方なくジュースをごくりと飲んでサビから参加する。

お腹から声を出して独特のがなりにする。

歌詞なんて見ずにお互いに目を合わせながら歌う。

歌詞や音程を間違えると笑われるし笑ってやる。

最後には二人ともおなかを抱えて笑って床に座り込む。

「また最後まで歌えなかったね」

「だっておもしろいんだもん」

また顔を見合わせて笑って飽きるまでずっとそれを繰り返した。


君が麦茶がいいっていうから私も麦茶にした。

君が好きなアーティストの曲を予約して歌う。

君も私が好きなバンドの曲を予約して歌う。

「歌えるようになったんだ」

自慢げに言う君を褒めると君は照れくさそうに笑った。

歌い疲れたら二人で大きなピザを一つ食べて麦茶を飲む。

コーラの方が合うはずなのに。

不思議なことに一人で飲むコーラより二人で飲んだ麦茶のほうが美味しかった。

どこか悔しかったけどそんな感情も君の優しくて力強い歌声に溶けて消えていった。

歌いたかったラップとかボカロは歌わずに君が好きだと言ったから覚えた流行りのバンドの曲を歌った。

そのたびに君は笑顔になって私を褒めてくれた。

それが嬉しくて誘ってよかったなと思った。

そう、私はちょろい。

君に甘いだけかもしれないけど。

月並みな表現で言うと君が好き。

君を恋愛的か友情的に好きかじゃなくて。

君と歌うことが好きなんだと思う。

あれから一人でカラオケに行くと君がいないことに寂しさを覚えるようになった。

悔しいけど4時間ほど一人で歌った後に君を呼んで見つめ合いながら歌った。

白のマイクを無言で渡してくれるようになったのは少し寂しかったけど嬉しかった。

「恋人が好きな曲なんだ」

そう照れながら言って予約したのは私の大好きな曲だった。

初めて私が歌ったときは知らない曲だってつまんなそうに言っていたのに。

君はこの曲をそんな顔で歌うんだ。

ねぐせ。というバンドの”彩り”。

「日々を彩るのは君と僕のバカみたいなやり取り」

「零れ落ちそうな”すき”はちゃんと伝えて君の涙だけは零れないようにぎゅっと抱きしめておこう」

のどまで出た好きという言葉は飲み込んで溢れそうな涙は君が帰った後の電車で静かに流した。

この悔しさは忘れたくなくてしばらく君とはカラオケに行かないことにした。

君とカラオケに行くと悔しさが溶けてしまうことはもう知っているから。



そう思ってから一人カラオケに行くと君と初めて二人で来た部屋だった。

君はきっと忘れているだろうけど。

君の好きな曲は広い部屋に響き渡った。

君がいない方が高得点だなんて知りたくなかった。


君とカラオケになんて行かなきゃ良かった?

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