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【女子高生エッセイ】『炭酸がくれた甘い記憶☀️』#クロサキナオの2024Summerbash

私は炭酸水が好きだ。

一年前まではパチパチ口の中で泡がはじける感覚が苦手で飲めなかった。

それでも私が炭酸水を好きになったのは昨年の7月。

しゅわしゅわした甘い夏の思い出。

体調と相談しながら学校に通っていた。

放課後には生徒会室へ足を運び体育祭の引継ぎ資料を作成していた。

私の頑張りをずっと見ていた生徒会長はほとんど毎日飲み物を買ってきてくれた。

私の役職が副会長だったので生徒会長とはずっと共に行動した。

気が置けない兄妹のようなそんな関係。

飲みたいものを聞かれて私がカルピスかお茶と答える。

数分後に戻ってきた彼の右手には微炭酸、左手には炭酸ジュースがある。

これがいつものパターンだった。


その一連の流れを見て誰かが口を開く。

「いや副会長は炭酸飲めへんって言ってるやん!」

生徒会長は真剣な顔で答える。

「あれ、炭酸飲めんかったっけ?こっちの方がおいしそうやったから。」

毎日同じことの繰り返しなのに私は笑ってしまう。

「じゃあ微炭酸もらうね、ありがとう」

当時、私がおいしく飲める炭酸のレベルはその微炭酸がマックスだった。

5月ごろにそんな話を皆でしたことがあったんだっけ。

よく覚えてくれてるんだなぁと感動する。

生徒会長は私にしか聞こえない音量で右耳にささやく。

「もう一回買ってこんで大丈夫?」

「うん、ありがとう、これがよかった。」

「それならよかった。」

私の頭を二回ぽんぽんと触れて頑張ってねと言う。

バスケをしていた彼の大きな手は私の心をいつも落ち着かせた。

自分では絶対に選ばない微炭酸。

口に含むとしゅわしゅわして喉の奥を刺激しながら溶けていった。

むせてしまうほど甘ったるい後味さえ日に日に癖になっていく。


今日のノルマを終え大きく伸びをして深呼吸をする。


キーンコーンカーンコーン。

下校時刻の鐘が校舎に鳴り響いた。

「荷物片して帰るぞ~」

「お菓子のごみ机におきっぱにするなって!」

「あ!それ俺のやわ、捨てといて」

「自分で捨てろや、しゃあないなぁ」

「このスマホ誰のやー?」

「それ落とし物らしいで、職員室持っていくわ」


声を掛け合いながら帰る準備を始める。

私はパソコンの電源を切ってキーホルダーがたくさんついたバッグに筆記用具をしまう。

「私、鍵返してくるからみんな出て~」

「副会長助かるわぁ、じゃあまた!」

ぞろぞろみんなが生徒会室から出ていく。



誰もいなくなった生徒会室は静かで寂しそうだった。

生徒会室の電気消して鍵を閉める。

鍵の返却先は職員室。

そういえばさっき誰かが職員室行くって言ってたし任せればよかったなと後悔する。

廊下にコツコツと私の上靴の音だけが反響する。

職員室に先生は4人ほどしかいなかった。

生徒会担当の先生と活動内容のやり取りをする。

この時間の職員室はコーヒーとインクとタバコのにおいが混ざっている。

私の大嫌いなタバコの匂いが染みついた教師が脳裏にフラッシュバックした。

吐き気とめまいに耐えきれなくなって会話が終わり切らないうちに礼をして退室した。

ドアの前にかがみこんで過呼吸になる。

息がうまくできなくなって体がドクドクと脈打った。

壁にもたれかかりながらリュックの中にあるペットボトルを急いで取り出す。

余っていた微炭酸をゴクッと飲み干す。

しばらく目をつむって強い刺激に耐える。

刺激に耐えきると吐き気が少しだけマシに感じた。

ゆっくり立ち上がって階段を手すりを頼りにしながらひとつずつ降りる。

リュックに入った教科書の重みに耐えきれず倒れそうになる。

足を踏ん張ってふらふらになりながら玄関にたどり着く。

靴を履き替えて外に出る。

「え、顔色悪いで。大丈夫?」

ふと顔を上げると生徒会室にいたメンバー全員がそろっていた。

「……あれ?みんな帰らんかったん?」

「鍵返しに行ってくれたのに置いて帰るわけないやん。」

「それより体調悪そうやけど大丈夫?ついていけばよかったわ。」

「全然体調大丈夫やで…!」

「嘘バレバレやって。飲み物ある?」

「さっき飲み切ってもたわ…。なんか買おうかな。」

私がリュックから財布を出そうとする手を大きな手がつかんで止める。

「あぁ、いいよいいよ。俺が買う。お茶やんな?」

違う、私が飲みたいのは。

「…炭酸……、炭酸が飲みたいっ!」

「「「えっ?」」」

「うん、わかった。」

生徒会長だけは驚かずに淡々と炭酸ジュースを買った。

微炭酸じゃないホンモノ。

いつも彼が左手に持っていた炭酸ジュース。


今なら飲める気がした。

私の心も体もしゅわしゅわに溶かしてくれる気がした。

ゴクリと音を立てて飲んだ一口目。

甘ったるくてパチパチしていた。

食道を通って胃に辿り着いたのがわかった。

びりびりと体中に痛みに似た刺激が走りそれが快感に変わっていた。

意識より先に声が出た。

「はぁ、おいしい」

「やっと分かったかぁ~」

笑いながら返事をした彼の顔は暗くてよく見えなかった。


あの時、鼓動が速くなって顔が熱くなったのは全部夏と炭酸のせいということにしておく。



コップいっぱいにたっぷりと注いだコカ・コーラを一気に飲み干す。

胃が一気に冷えて頭がキーンと痛くなる。

これが爽快だと感じるようになったのは紛れもなく彼のせいだ。

今年も7月が幕を開けた。

彼女ができた彼と一緒に炭酸を飲むことはもうできない。

炭酸の泡と一緒に私の気持ちは弾けて消えていった。

この夏だけでもしゅわしゅわした気持ちの中に浸っていたかった。

1人で飲んだ炭酸は舌に痛みだけを残した。


☀この記事はクロサキナオさんの企画参加記事です!!☀

#クロサキナオの2024SummerBash

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