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【女子高生エッセイ】『白昼夢に閉じ込められた人間🌐』

私の音楽ユニットの名前、Dagdrøm(ディドローム)。

ノルウェー語で白昼夢。英語で言うとDaydream。

白昼夢とは、日中に目が覚めているのに、空想によって夢の中にいるよう錯覚すること。

ユニット名は、白昼夢みたいに、現実でも夢を見ているような幻想的な音楽を届けようということで決まった。


さて、どれほどの人間が、白昼夢を見たことがあるだろう?

白昼夢のような現象には、高い集中力と没頭力、そして想像力の3つが必要。

私が白昼夢を体験するのは決まって同じ時。

新幹線から見える外の景色を見ると、空想が始まる。


あの家に住むのは、30代の女性と中学生の男の子、そして小学生の女の子。

名前は、晴香(はるか)ちゃんと陽介(ようすけ)くん。

その朝、晴香はビビットピンクのランドセルを重そうに背負った。
遅刻ギリギリだった。
晴香に、陽介が「焦って走るなよ」と注意する。
窓から外を見るといつもの待ち合わせの公園に、晴香の友達が待っている。

晴香は、陽介の注意を気にとめずに走った。

そのまま少し走った後、コンクリートの上でこけ、膝にかすり傷を負った。
思ったよりも痛かったようで、大きくてキラキラした目から涙がこぼれ落ちそうになった。

小さい声でうぅ、と呻き声をあげる。

それを庭の朝顔に水をやっていた隣の家のおばさんが「晴香ちゃん、ちょっと待ってなさい」と言い、何かを取りに家の中へと戻った。

廊下をドタドタと走っている音が聞こえてくる。
陽介が少し怒りながら晴香を見つめるが、晴香は目を逸らし続けた。

おばさんは、「晴香ちゃん、お待たせ」と門を出て、半泣きの晴香の前へとしゃがみこむ。
晴香と目を合わせてにっこりと微笑む。

優しく笑うおばさんの手には消毒液とかわいいキャラクターが描かれた絆創膏があった。
晴香の1番好きなキャラクター。

晴香は「シーピーちゃんだ!」と明るい声を出して喜ぶ。
羊のもふもふの体に赤いリボンをつけたいかにも小学生の女の子が好きそうなデザインのキャラクター。
ママがいつも晴香に買ってくれるキャラクター。

2人のママとパパは、陽介が3歳の頃に離婚した。

今はママが1人で家計を支えている。
晴香はパパの顔を知らない。晴香にはママしかいない。

ママは毎朝、陽介のお弁当を作ると"美味しく食べてね"というメモ書きを残して、朝早くに働きに出る。
昼間はスーパーのレジ打ち。夜は工事現場の前で交通整備。

2人が起きてしまわないように、リビングのソファで寝て、静かに起きる。帰ってくるのも2人が寝た後。

たまに休みができた時には、家族と出かけよう!と晴香と陽介に声をかける。
でも、疲れ切ったママを見た2人は、決まって
「今日はお家でママとアニメが見たい!」と言う。

『本当は、家族で動物園に行ってみたい』
そんなこと、絶対に口に出してはいけないと知っている。

今日は、陽介の参観日。ママはもちろん来れない。そうわかっていて、『参観日のお知らせ』のプリントをママには渡さなかった。

ママが行けないことで悲しい思いをするのが嫌だった。
寂しそうな顔で「陽介、ごめんね」と言われると胸がキュッと苦しくなるのがわかっていたから。
だから、プリントはカバンの奥にしまってある。

中学光の入学式は見に来てくれたから、その時はすごくすごく嬉しかった。
だから、参観日くらい来れなくてもいいんだ。

僕が悲しい顔をしていたらダメなんだ。

僕はいつでも上を向いて笑ってないと。

ママとパパがつけてくれた陽介という名前には『太陽のように明るく笑って、その輝きで誰かを助ける。』そんな意味がある。

名前の意味さえ全うできない僕は、ダメな子かもしれない。
目から出そうになる雫が頬に垂れないように、上を向いて我慢する。

僕がお兄ちゃんとして頑張らなきゃいけないんだ。

前を向いて、晴香の小さな背中を見つめる。

苦しい気持ちを押し殺して、歩き出す。

と言った風に勝手に人の家の事情を考えては、勝手にその不憫さに、ため息をつく。

私が作ったストーリーなのだから、陽介のママが結局参観日にきた!みたいなハッピーエンドにしてやればいいのに。

でも、そういうハッピーエンドにしようとすると、脳が拒んで、新幹線から窓を見ている"私"に戻る。

それまで息が止まってたかのように、過呼吸になる。息を吸って吐いて。

顔を上げると、窓に反射する自分の顔を見て、『あぁ、私だ。』と安心する。

そして私が白昼夢でみた人物たちが、本当にこの世に存在しないことをひたすらに願う。

私の文章力や没頭力、想像力がもっとあれば白昼夢の中のみんなは幸せになるのかもしれない。

今はバッドエンドしかない白昼夢。

これからも、何度でも、私は白昼夢を見る。



「はぁ。今日も書き終わった。」

そう、ため息をして、私は白昼夢から目覚めた。

私が白昼夢を見る時。
それは決まってエッセイを書く時。

私が私ではなくなる。そんな瞬間。

私が、"過去の私という人物"の中に取り込まれる。

書き終わるまでは永遠に抜け出すことはできない。

過去の出来事が今の目の前で起きているかのように世界が歪む。


私の白昼夢に閉じ込められているのは決してあの家族ではない。

私の白昼夢の中に閉じ込められているのは、私以外存在しないのだ。

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