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【女子高生エッセイ】『失恋さえも愛しくて🪞』#失恋ソング

私生活で音楽を聴くとなったらいつも失恋ソングばかりを再生していることに気がついた。

邦ロックでもボカロでも洋楽でも。

失恋ソングが7割以上である。

そうは言ってもここ最近失恋した訳ではない。

過去のことも失恋ソングを聴き漁っていたことを笑い飛ばせるくらいには吹っ切れている。

未練が全くないのに聴いたら必ず涙が溢れてしまう曲もある。

私の指し示す失恋ソングは"失恋したこと"を歌っている曲のことだけを指すわけではない。

過去に付き合っていた相手との思い出の曲は立派な失恋ソングである。

彼とカラオケで歌った曲、彼がよく口ずさんでいた曲、彼を思いながら聴いていた恋の曲。

彼の顔を思い出して切ない気持ちになったら失恋ソングである。

そんな定義をしている訳だから失恋ソングが溢れているのも理解できると思う。

恋愛を重ねる度に失恋ソングのレパートリーが増えていく。

失恋なんてしなければしないほどいいと考えていたが実はそんなこともない気がする。

私は失恋した時だけに味わえるあの気持ちが恋しくてたまらない。

一般的に考えて失恋なんて人生にはない方が幸せかも知れない。

頭では理解しているけど心があの甘酸っぱい顔をした青い苦味を求めてしまう。

あの味が癖になってしまった。

過去の恋愛エッセイを書く時もその人の好きだった曲を思い出す。

あの時の気持ちを繊細に書くために泣きながらその曲を聴くこともある。

何度も言うが未練はない。

感極まりやすい性格なだけである。

なぜ私はここまで失恋の話を楽しそうに書き上げるのか。

理由は明確。

リアルで出会いが一切ないので恋という概念すら忘れそうだからである。

物理的、概念的に失恋しそうだ。

それを阻止するために書いている。



失恋ソングが沁みるのはきっと恋していた自分が好きだったから。

恋愛している自分はキラキラして見える。

エッセイを書くようになってからは特にそう感じるようになった。

あの時の私って毎日が輝いてたなぁとか。

学校に行くことさえ愛おしく感じた。

朝、おはようって笑顔で挨拶して授業中は黒板じゃなくて彼の後ろ姿を見て。

一番前で授業を真面目に聞いていた彼が振り向く。

私が彼の瞳に映る。

彼は周りの目を気にしながら照れくさそうに微笑む。

人懐っこい可愛い笑顔に心臓がバクバク音を立てる。

真っ赤になった顔を彼しか見ていないことを信じて俯く。

教師のしゃがれた声が聞こえてノートを焦って書き写す。

鼓動の速さは変わらないままチャイムが鳴って授業は終わった。

彼が私の席まで来て話しかける。

「授業中、俺のこと見すぎじゃない?」

「ご、ごめん。つい…」

「全然いいんだよ、俺は振り向かないと見れないからなぁ」

寂しそうに笑う顔が愛おしくて仕方がなかった。

「次、体育だね。」

「あ、私そろそろ着替えに行かなきゃ。」

にやにやして私と彼の様子を遠くから見守ってくれていた友達のもとへ走る。

「おまたせ」

「朝からラブラブやん」

「そんなことないよ!?」

「うらやましいわ。まあ彼氏おらん方が楽やけど。」

「幸せだけどなぁ」

「はぁ~。そりゃそうやろな、顔見たらわかるわ。」

「え、ほんと?」

制服を脱いで学校指定のジャージに着替える。

「今日、雨やから男女合同やね」

「えっ」

私は運動がほぼできない。

どうしよう、見られたくない。

体育館に移動すると彼がいた。

学校指定のダサいジャージも彼が着ると別物だった。

彼が私に気づいて手を小さく振る。

『髪結んだんだ、かわいい』

自分の髪の毛を指さして口をパクパクと動かす。

どんな時も温かい言葉を伝えてくれる。

『ありがとう』

そう伝えると彼は笑顔で頷く。

地獄の体育の幕開けのチャイムが大きく鳴り響いた。

私の運動音痴なところを見ても彼は笑わずに頑張れって応援してくれた。

たくさん名前を呼んでくれた。

彼は相変わらず何でもできた。

ぼーっと見惚れていると顔にボールが当たって痛かった。

クリティカルヒットで激痛だったが自業自得だったので見学せず授業を受け続けた。

授業が終わると真っ先に私の所へ来て心配してくれた。

「大丈夫?俺に集中してくれてたのは嬉しいけど…」

「全然大丈夫だよ」

「本当に?」

「うん、今から保健室で氷貰ってくる」

「ついていこうか?」

「いや、平気だよ」

「じゃあ、ちゃんと冷やしてきてね」

私の頬を優しく撫でた彼の手は熱っぽかった。

私の顔もきっと熱を持っていた。

保健室で見た右頬は赤く腫れていた。

養護教諭さんの言う通り顔を冷たい水で洗った後、30分ほど氷で冷やした。

翌日には色は薄いピンクになっていた。

あまりの治癒速度に驚いたがそれを彼の優しさのおかげだと思うほどに恋する乙女は馬鹿なのである。


数か月で気づいたら二人ともあの日の熱から冷めていた。

恋する乙女の幻想からも目が覚めて退屈な日常が待っていた。

こんなにも失恋が心を痛めるなら恋なんて初めからしなきゃよかった。


お別れしてからは恋していた頃の輝きから目を逸らすことに一生懸命だった。

悲しくて辛くて切なくて。

でもどうしても忘れられない。

忘れたくない。

そう思える恋をまたしてみたい。



........。

思ったよりも甘かった。

失恋が本当に苦かったのかさえ分からなくなるほどに。

普通に考えたら有り得ない失恋の願望。

失恋する前提のある恋は曲がっている。

それでも終わった時によかったと思える恋愛をしたい。

失恋ソングを聴いて静かに泣きたい。

大切なものを大切だったと再確認できる時間が私にとっての失恋という時間なのかもしれない。


私はまだまだ大人にはなれないんだろうな。

今の私は恋する自分に恋してる。

いつか恋する自分に失恋した時。

私はどんな音楽が聴きたくなるんだろう。

どんな失恋ソングを覚えるんだろう。

それが大人になるってことなら人生をちょっとは面白いと思えるかもしれない。

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