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映画「君を愛したひとりの僕へ」感想 純愛×パラレルシフト×狂気

原作を大分前に読んだので興味があり、鑑賞してきた。忘れている部分もあったが、大まかなストーリーは把握できた。主人公の暦が栞と一緒に、並行世界に行ったときに、事故で栞が幽霊になってしまう。肉体は死んでいるが、虚質と呼ばれる魂のような存在になり、交差点に留まることになる。一つ思うのは、もう一人のヒロインの和音が報われないということだ。本人は満足しているみたいだが、ラストに暦がタイムシフトするために、一人になってしまう。原作を読んだときにも思ったが、せめて結婚するなり、子供を作るなりしろよと。基本的に暦は独善的で、和音のことはほぼ考えない。栞しかないのだ。確か、原作だと和音は別の男性と結婚する話もあったらしいが、まさに人生を暦に託した形だ。本当にかわいそうだ。いくら別サイドのヒロインとはいえ、60を超えてまで一緒に暮らすだけの中は辛い。しかも、住んでいる家も古いアパートで財産すら栞につぎ込んでいるみたいだ。一人になることが確定した和音に同情してしまうが、本人は納得しているのがもう、何とも言えない。このサイドの話は徹底的に報われないし、本質的には歴史を変えることになる。誰一人幸せになっていないように見えてしまう。和音は魅力的な女性だが、暦が何とかしてほしかった。暦は狂気に取り憑かれていて、幽霊の栞に「もういいよ」と言われても、大声で反論するヤバい男だ。栞が幽霊になった原因を自分であるとして、自分が許せないから栞を救おうとする。

広告では、本作君愛と別サイドの僕愛をどちらから観るかで、印象が変わると言うが、ハッキリ言うとこちらから観たほうがいい。ある意味で、僕愛の伏線があり、前日譚と言った感じだ。エンドクレジット後にもストーリーがあり、全編通してまさに前編だった。個人的には報われない和音があるからこそ、僕愛が輝く。和音の方が魅力的だが、栞も子供の頃からから年を取っていないから、もしかしたら大人の栞も魅力的かもしれない。まあ、それがあると物語が成り立たないからありえないのだが。本作を観た後には、「あんまりおもしろない。こんなキツイ作品だったか」と思ったが、僕愛を観ると納得はできる。結局のところ、本作では暦も栞も報われない。助ける手段が見つかるだけだ。結果には納得できないが、大人になった証拠かもしれない。学生時代に観たら、栞に人生をかける暦に感情移入できただろう。ああいう、向こう見ずな恋愛に憧れたからだ。しかし、大人になると地位や経験があり、人生に安定感を求めてしまう。それまでの人生を否定してでも先に進むのは難しい。とはいえ、60歳になっても栞を救おうとする暦は凄まじい執念だと思えし、彼についていく和音も健気だ。大人になってから観ると暦の自分勝手さに腹が立つかもしれない。原作を読んだ頃は多少暦の行動に納得できたから、その意味では、わたしは大人になったのかも知れない。悲しいのか、嬉しいのか分からないのが本音だ。



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