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あの頃の自分に出会うための

ある日、古本市が開催されているのを見つけた。でも私は、かつて持っていた人の魂とかが気になってしまって、古本を触るのが抵抗あるくらい少し苦手。

でもこの日はそんな苦手を軽く越えてくるくらい目に入った「映画コーナー」に惹かれた。私は物心ついた時からオードリー・ヘップバーンが大好きで、「オードリーの何かないかなぁ~」って探していたら、これがきらんきらんに輝いて出てきた。

なぜなら、この姿のカラー写真を私は初めて見たから。映画『ローマの休日』のDVDが家にあるけどそのパッケージも白黒だった。あまりにびっくりして、
「え!このパンフレット、いつのですか!」
と思わずお店の方に話しかけてしまった。
「もっと古いのもあったんだけど、今はこれだけだね~」
「買います!」
即決だった。それからずっと、寝室のいつでも見えるところに飾ってある。

オードリー・ヘップバーンに関しては「好き」を越してもう人生の一部ってくらいいつも生活の中にいる。幼少期に不思議なくらい魅了されて、映画やファッションもそうだけど、晩年の難民支援活動があまりに印象に残り、10代の私の考え方にかなり影響している。

大学の卒論では『ローマの休日』をテーマに書いて、それを優秀論文に選んでいただき今でも大学に残っているらしい。そんなことすっかり忘れていて、大学の友達の旦那さんに初めて会った時に卒論のテーマの話になって思い出した。
1年間無我夢中になって書いていたことも。

大学4年生の時、卒論のテーマ決めに迷っている時にゼミの教授が
「長内さんがこれから芝居をやっていくなら、丸1年かけて一つの映画を観るという時間は卒業したらなかなかないだろうから、この機会にどうでしょうか?」
と言ってくださった。1年間観続けたいと思える映画を選んでみようと、大好きなオードリーが出演する『ローマの休日』を選んだ。

先生に言われた時も納得したつもりで1年間1本の映画を観続けたけど、今思えば本当にあの時しかそんな貴重な時間はなかったと思えて、提案してくださった先生に今でも感謝している。

その1年があったおかげで映画の見方も変わったと思う。本格的に芝居を始める前でもあったから、芝居目線というよりも映画作りやカメラワークを特に集中して観ていた気がする。

オードリーが好きだからという理由で選んだ映画だったけど、調べると当時の時代背景から様々な事情があったことを知った。全編初のローマロケの理由とか、脚本家の真相とか、最初はその背景をメインに書こうとしたけど、当時の時代背景と照らし合わせて映画を観てみると気づく発見があまりにも多かったから、シーンを切り取って分析してみて書くことにした。

その結果、1年かけて観てみないとわからなかった細かなシーンを発見した時は、一人で「うぉぉおおー!」と叫びたくなるほど興奮した。一人でいる時は基本的に声を出せないタイプのため、心の中でガッツポーズをした。それくらい夢中になって映画を観続けて、夢中になって卒論を書いていた。

その当時は蜷川さんの演劇集団に所属していたから、稽古帰りに夜行バスで大学に通っていた。分厚いマフラーを頭から被って光が漏れないようにして、ノートサイズじゃない大きなパソコンで卒論を書いていたのも今となっては貴重なタフな思い出。

私の卒論はとにかく目の前の『ローマの休日』ととことんまで向き合ったみたい。10年ぶりくらいに開いてみたら、カメラワークのことをたくさん書いていた。観続けたから聴こえてきた「沈黙」に注目して書いたらしい。恥ずかしいからさら~としか目を通せてないけど、ちらっと見た感じ、なんか文章が楽しそうだなって思った。

10代の頃から文章を書くのが好きで、「いつか本を出す」とか高校の学級日誌に書いたりして。初めて長い文章を書いたのが卒論だったから、古本市で見つけたこの『ローマの休日』のパンフレットは、無我夢中になって楽しんで書いていたあの頃も思い出させてくれる。

何事も慣れると最初の気持ちを忘れてしまいそうになるけど、あの頃のとことん真っ直ぐな自分に出会えるようなアイテムがあると改めて感じる新鮮さが生活に色づく気がした。

読んでいただき、ありがとうございます! 子どもの頃の「発見の冒険」みたいなのを 文章の中だけは自由に大切にしたくて、 名前をひらがな表記にしました。 サポートしていただけると とっても励みになります。