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Vol.13 たべものパワー

猫の手も借りたいほど忙しかった昔の台所

私の母が子どものころのお話です。料理上手でおいしいごはんをつくる祖母が「料理は嫌い」と言うので、不思議に思った母が「何が嫌いなの?」と尋ねたら、「山に薪木とりに行くのが嫌い」と答えたとか。今じゃ想像つかないですよね。だって...火を起こさないとごはんが炊けない。炊飯器も電子レンジもない。そもそも電気がない。水道もない。井戸から水を汲み、薪木に火をつけて、やっと料理が始まるのですから。台所仕事をはじめとした家事に多くの時間を必要としていた当時、大人たちは猫の手も借りたいほど忙しかったことでしょう。

こどもが大活躍のキッチン

そんな時代には猫は役立なくとも、わが子ならば助けになる。やれそうなことは何でもやってもらおう、と子どもにいろんなことをやってもらいました。井戸から水をくむ、かまどに火をつける、米を研いで炊く、野菜を畑から引っこ抜く、かつおぶしを削るなどなど。必然から子どもが台所仕事をはじめとした家事をするのは当たり前、そんな光景は少し前までの日本のおうちの風景の一つでした。

やりたい!子どもが台所にくるわけは?

時代を進めて今。洗濯は洗濯機に、掃除はお掃除ロボッ トにお任せし、ごはんは炊飯器でスイッチON!冷めたらレンジでチン!ボタン一つで済ませることができる便利さを私たちは手にしました。そんな今もなお、小さな子どもが「やるー!」と満面の笑みで台所にやってくるのには、明確な理由があります。「ちぎる」「たたく」「こねる」などの直接手を使う動き、はさみや包丁で「切る」、おたまやはしで「混ぜる 」など道具を使う動き、味見(味覚 )し、においをかぐ(味覚 )。冷蔵庫は冷たいし、コンロの鍋は熱い(触覚)などの五感を体験する。家の中で人が豊富に体験する場所は、いまや台所を置いて他にはありません。子どもは環境をリアルに体験することによってしか成長できないのだそうです。これが成長したくてたまらない小さな子どもたちが、にこにこと笑顔で台所にやってくるゆえんです。

子どもを台所に立たせることで得られるの

手や指先を器用に動かせる能力は、生まれた時にはまだありません。やりたくて、やってみたらできた!」。そんな繰り返しが子どもに能力をつくっていきます。「やりたい!」は成長の源なのです。そして、それはやがて大人にとっての大いなる助けともなります。フルタイム勤務の会社員だったころ、「残業だ!どうしよう!ごはん!」と思った瞬間に「ごはん炊いといてあげよか?」という小学生になる息子からの電話に安堵した自身の体験や、主宰する親子料理教室に参加下さった親子のその後談から、子どもを台所に招き入れることから得られるものの大きさを感じています。

筆者:こどもキッチン 主宰・講師 石井由紀子

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