第2号 『詭弁論理学 改版』

著者:野崎昭弘
出版社:中央公論新社(中公新書)
発行日:2017/4/19(原版発行日:1976/10/25)

笑いながら詭弁に強くなれる本

この本は1976年に初版が発行され40年以上にわたってのロングセラーとなり、2017年に改訂版が発行された。

本書は古代ギリシャの哲学者から『男はつらいよ』まで、古今東西の豊富で身近な例をもとに詭弁に負けない知識を身に付けることができる。
学術書でありながらまったく堅苦しさを感じさせず、文章のところどころにクスリとさせるところがある。

本書では子供じみたごり押しの強弁法から何かを白と黒に分けて中間にあるものを無視する二分法、些末なことをあげつらって相手の言い分を帳消ししようとする相殺法、と様々な詭弁の技術(?)とそれに負けない方法、後半は頭を使った論理パズルという構成になっている。

この本の面白さは一つが先述した幅広い題材である。無理押しの一手で『男はつらいよ』、相殺法で著者がとある講演に向かった際の出来事のほか、魔女狩りや水俣病といった深刻な例から宗教改革者マルティン・ルターとローマ教会が遣わした論客との論争と、取り上げるネタは多岐にわたる。そんな題材をもとにユーモアたっぷりの文章が展開され、読む者を笑いにいざなう。

例えば、政策に対する批判から首相への個人攻撃に移り変わった野党の追及についてとある作家が

「あの人を極悪人のようにいうのはどうかと思います。何かよいところもあるはずで、たとえば、毎朝歯をみがくかもしれない」
以上、野崎昭弘『詭弁論理学 改版』(中公新書・2017年)より

と発言したという記述がある。

いくら何でも政治と歯磨きを対比させるのはアンバランスにもほどがあると言わざるを得ないだろう。この文章を見たモニターの前にいる読者は苦笑いをこらえるので精一杯かもしれない。
ところが、こんな論法を取る人が大なり小なり実際にいるのである。インターネットでもこの手の発言は決して珍しくない。

後半は最初に取り上げた論理パズルの解答及び解説と応用問題であり、息抜きにちょうどよい。また、「人食いワニのパラドックス」ではパラドックスが実際に使われている例も見ることができる。

本作のタイトルこそ『詭弁論理学』だが中身は決して難しくなく、文章のいたるところに読者を飽きさせない工夫が凝らされていて一冊の読み物としても面白い。さらには詭弁への対処法や論理パズルで頭を鍛えることができて詭弁や強弁に負けなくなり一石二鳥、いや三鳥ぐらいはあるかもしれない。

議論に負け続きという人も、身近にいるあの人の詭弁にやられっぱなしという人も、この本が勉強になるはずである。この本を読み終えたころには議論に強くなり、詭弁にも対処できるようになるかもしれない。笑える学術書、というのはなかなかに珍しいだろう。

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