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長下肢装具を「カットダウン」するタイミングに悩んでいたけど、作った「フロー」で臨床が変わった

20名以上の方に購入していただき、大変好評です‼

はじめに〜カットダウンを行う時に、フローがあれば患者の歩行は劇的に変わる〜

脳卒中片麻痺者の歩行再建へ、装具は大切です。
装具を使用することで歩行速度が上がったり、歩行が自立します。

脳卒中ガイドライン2015でも、装具については以下のように記載されています。

2−2 歩行障害に対するリハビリテーション
2.脳卒中片麻痺で内反尖足がある患者に、歩行の改善のために短下肢装具を用いることが勧められる。(グレードB)

ただ、これは短下肢装具だけなのです。

長下肢装具装具に関して、脳卒中ガイドラインでは廃用症候群の予防に有効とされているものの、歩行再建に有効という記載はありません。
では、現場のPTは長下肢装具を廃用症候群の予防のためだけに使用しているのでしょうか?

決してそんなことはないと思います。
もちろん、廃用症候群の予防を兼ねている場合がほとんどだと思いますが、歩行の安定性等を向上させる目的で使用しているのではないでしょうか。

そんな長下肢装具ですが、悩むポイントがあります。
それは、カットダウンです。
カットダウンに関する記載はガイドラインにはなく、エビデンスは確立されていないので、具体的な方法はありません。

そこで、私達はチームを組んでカットダウンのフローチャートを作成しました。
このフローチャートを見れば、新人であっても、先輩と対等に議論することができます。

なお、このチームは、急性期・回復期・生活期の理学療法士が混じって議論をしました。

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そのため、病期に偏ることなく、普遍的なものが完成したと思っています。
これを読むことで、臨床での装具を進める際の基準になると思います。
ぜひ、御覧ください。

(※有料部分では、フローをご紹介していますが、そこまでの大部分は無料で公開しておりますので、無料でもじゅうぶんにお楽しみいただけます。
フローの確認だけで良い方は、読み飛ばして 5 フロー の箇所をご覧ください)

1 現在のカットダウン

現在、カットダウンは各病院で行われているものの、カットダウンの流れは確立されていません。
実際に、それぞれが臨床で悩んだとき、先輩セラピストは様々なことを言います。

A先輩に聞くと、
「そろそろカットダウンした方が良いんじゃない?」
そのアドバイスのもと、カットダウンして歩行練習をしていると…

その光景をみたB先輩から、
「膝過伸展してるから、まだカットダウンは早いんじゃない?!」
と言われ…

何が正解なのか、より良いアプローチなのかがわからなくなります。
体系的にまとめている書籍や、論文も見当たりません。
そもそも、先輩セラピストたちも経験を中心にアドバイスをしているのです。

そんな自分たちが先輩になり…
後輩から聞かれます。
後輩「カットダウンはどのタイミングで行えば良いですか?」
自分「そろそろかな?」
後輩「何を基準にしていますか?」
自分「立脚期での膝がコントロールかな。」

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大きく間違ってはないものの、これは本当に正しい臨床推論といえるでしょうか?

ここにすり合わせが必要だと思いました。
そのため、長下肢装具等を利用した歩行についての議論を繰り返しました。
しかし、そもそも基準がないので、独自の理論を繰り返すような状況でした。

長さを測るには、目分量ではなく、定規があることで客観的に測れます。
それと同じで、カットダウンにも「定規」が必要ではないかと思いました。
それが今回の「カットダウンのフロー」です。

フローをご紹介する前に、現時点での問題点やエビデンス、最先端の機器に触れてからのほうが、フローの必要性が身にしみて分かると思うので、それらを説明していきます。

では、現時点の問題点として、臨床現場で起きている問題について、です。

1) 膝折れしまくって歩くセラピスト

長下肢装具どころか、短下肢装具も使用せず、歩行練習をしているセラピストがいます。
「感覚入力を大切にしている」、とのこと。
「装具を使用すると、装具への依存が強くなる」、とも。

言っていることは理にかなっているような気がするものの、その歩行をみていると…

明らかに膝折れを繰り返しています!!
一応、セラピストが膝折れしない方向に介助・ハンドリングしていますが、それは膝折れです。

膝をカクッ、カクッと歩いてみてください。
膝が痛くなります。

2) 過伸展の評価の程度にバラツキがある

膝折れはしていないけど、膝が過伸展する場合もあります。
膝折れはしていないので、一見カットダウンして短下肢装具をチャレンジできそうです。
また、膝折れに比べて、転倒や不安定性はないので、過伸展は意外と見過ごされてしまいます。

しかし、過伸展の影響について、以下のような報告があります。

片麻痺者の歩行パターンを健常膝群、初期膝伸展群、中期膝伸展群に分類した結果、初期膝伸展群は、他の2群と比較して歩行速度が有意に低下した。

<引用元>
田中惣治ら:片麻痺者の歩行パターンの違いによる歩行時の筋電図・運動力学的特徴,バイオメカニズム(23);107−117,2016.

つまり、膝過伸展(初期膝伸展群)は、歩行速度は低下するよってことです。

歩行速度は、片麻痺者の活動レベル(屋内レベル、屋外レベル、など)と関係しているので、歩行速度の低下は無視できません。

そのため、膝の過伸展について、評価する必要があります。
ただ、現状は過伸展の評価の程度にバラツキがあります。

3) 焦ってカットダウンする

担当患者さんが、隣の患者さんを見て「私も短い装具で歩けますか?」と聞いてきたり、退院が迫ってきたりして、焦ってしまうパターンも良くあります。
ずっと長下肢装具で歩くわけではないから、いつかはカットダウンしなきゃいけないという思いから、カットダウンを焦る場合があります。

焦ってしまった結果、1)膝折れや2)膝の過伸展が生じたまま歩行練習を続けてしまいます。
一度焦って短下肢装具に変更すると、長下肢装具に戻し辛い場合が多いです。
(患者さんの悲しい顔が想像できますよね)

4)そもそも、リハ=カットダウンが目標?

長下肢装具を使用しているケースに関する議論でよく、こんな会話を耳にします。
「カットダウンのタイミングは…」
「カットダウンしながら…」

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話の中心がカットダウン中心になっているのです。
よく聞いてみると、カットダウンをすることが目標になっています。

これはリハビリの本来の目標でしょうか?
もちろん、違います。

立ち上がり、移乗、歩行…
様々な動作の獲得へ向け、リハビリテーションを実施していると思います。
その上で、長下肢装具を使用する理由があり、長下肢装具から移行するタイミングがきただけです。

カットダウンしたあとも、行うことはたくさんあります。
たとえカットダウンの検討時期であっても、カットダウンのことだけを考えてはいけません。

5)現在のカットダウンまとめ

現在のカットダウンの現状についてまとめました。
心当たりのある部分もあったのではないでしょうか?

ご自身に心当たりはなくても、同僚や後輩が同じような境遇にあってるかもしれません。

まとめると、
・膝折れしまくっても歩く
・過伸展の程度にバラツキがある
・焦ってカットダウンする
・リハ=カットダウンが目標になってしまっている

以上のような課題があると思います。
続いて、カットダウンのエビデンスをみていきたいと思います。

2 カットダウンのエビデンス

1) カットダウンに関するエビデンス

現在のところ、カットダウンに関するガイドライン上の報告はありません。なので、本邦で現段階で報告されている論文をご紹介いたします。

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本邦でカットダウンに関して報告されているものをまとめると、大きく
(1)麻痺の程度
(2)歩容
(3)カットダウンの実践方法
に分けられます。

(1) 麻痺の程度

石神らは、以下のように報告しています。

下肢BRS Ⅱ〜Ⅲは長下肢装具のまま、下肢BRS Ⅳ〜Ⅴは短下肢装具に移行
長下肢装具の適応は①重度の弛緩性麻痺、②重度の感覚障害、③視空間失認、④支持性の低下、⑤関節の変形、拘縮

<引用元>
石神重信ほか:脳卒中早期リハビリテーションにおける長下肢装具の使用とその効果の考察.日本義肢装具学会誌.1986,2:41−47.

(2) 歩容

山本征らは、以下のように報告しています。

歩行中に膝の安定性がみられる、歩行中の顕著な膝折れや反張膝をみとめない

<引用元>
山本 征孝ほか:急性期脳卒中患者のカットダウン可能な時期における装具療法の効果−短下肢装具と長下肢装具を比較した即時効果の検討−.日本義肢装具学会誌.2015,Vol31No4:248−254

吉尾は、以下のように報告しています。

踵接地の確立

<引用元>
原 寛美,吉尾 雅春編:脳卒中理学療法理論と技術,メジカルビュー社,2013.

(3) カットダウンの実践方法

増田は、以下のように報告しています。

現状では明確な基準なし。徐々に長下肢装具から短下肢装具に移行することが必要。移行期間をもうけることが最も確実な方法。

<引用元>
増田知子:脳卒中片麻痺患者における装具療法の進め方−セパレートカフ式長下肢装具の活用.日本義肢装具学会誌.2013,29:22−27

阿部は、以下のように報告しています。

移行では長下肢装具のリングロックを外す↔固定を繰り返しチェックして必要あればknee braceをつける。

<引用元>
阿部 浩明,大畑 光司 編:急性期重度片麻痺例の歩行トレーニング.脳卒中片麻痺者に対する歩行リハビリテーション,メジカルビュー社,2016.


以上をまとめると、
・歩行時に踵接地が見られ、顕著な膝折れや過伸展をみとめないこと
・ロックありと、ロックオフを繰り返して移行期間をつくること。

この2点が、現状のエビデンスです。

これだと、かなりざっくりしていますよね。
「それは、分かってるよ」なんて、声が聞こえてきそうです。

その後、カットダウンに関する検証はどのように進んで行ったのでしょうか?
カットダウンを深めていくような、デザインの研究が組まれたのか?
カットダウン方法の見直しが行われたのか?
実は、そのどちらでもありません。

なんと、カットダウンの詳細が決められないのは、そもそも「長下肢装具は膝の機能がonかoffしかない」からだという見解が出てきたわけです。
ここまでの背景を考えると、結構ビックリしますよね。

実際、長下肢装具に膝の動きを出す装置があると、どうなるのか。
その中で出てきた装置を2つご紹介します。

Spring Assisted Extension(SPEX)膝継手と、GSkneeです。

この2つの装置を通して、カットダウンの詳細が決められない問題が解決したのか、考えてみます。

2) SPEX膝継手

内蔵されるコイルスプリングとボルトの設定により0°〜60°の間で角度設定が可能で、設定された角度の中で伸展補助が働く継手です。(写真)

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https://advanfit.co.jp/product/%E7%B6%99%E6%89%8B/ より引用

つまり、コイルスプリングの力によって立脚期での膝折れを予防し、遊脚期では振り出しを補助することが可能、とされています。
長下肢装具から短下肢装具にいきなりカットダウンするのではなく、段階的に調整できるのがこの継ぎ手の特徴です。
これまで課題として挙げていたカットダウンの問題を解決してくれそうですよね。

実際は、どうなのでしょうか?

角度の調整やタイミングは、セラピストの判断で実施する必要があります。
その歩容やタイミングについての報告は少なく、現時点でも確立していません。

なので、装具は長下肢装具と短下肢装具の間をつないでくれる機能を持っているものの、膝の角度や設定を行うタイミングはセラピスト任せとなっています。
そのため、この装具があればカットダウン問題を解決してくれるわけではありません。
ただ、少し解決へ向けて進んだと思います。

ちなみに、このSPEX膝継手は最新のようなイメージありますよね?

なんと、1995年には報告されています!!

これをまとめた2000年の論文は、こちらをご参照ください。
<参考>森信孝:脳卒中に対する装具療法,理学療法学.27(8)334-338.2000.

そこから、タイミングの詳細は確立されず、今にいたるのです。

3) GSknee

立脚期に膝を固定して、遊脚期に膝の固定の解除を行える装置に、GSkneeがあります。(以下、写真)

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https://www.asratec.co.jp/portfolio_page/robochemia/ より引用

ホームページには以下のような記載があります。

長下肢装具はリハビリテーションで歩行練習などをするときに脚部に取り付けて使われる器具です。
従来の一般的な長下肢装具は、膝関節を完全に固定した状態で使用されるため、利用者は膝を曲げることができずに不自然な歩行になるといった課題がありました。
「RoboChemia(GS Knee)」を使うことで、長下肢装具の膝が固定された状態と膝が自由に曲がる状態を任意のタイミングで切り替えることが可能になります。

つまり、長下肢装具のロックオフした状態で取り付けられ、膝を曲げることが可能となり、かつ膝を伸展位で固定することもできるのです。

めちゃくちゃ良さそうですよね。
これがあればカットダウンに困ることはなさそうですね。
ところが、そんなことはありません。

GSknneの特徴は、膝の固定と解除をセラピストが任意で調整できることです。
つまるところ、そのタイミングやカットダウンを判断するのは、やはりセラピストです。

セラピストが判断するものの、その明確な基準はありません。

ここでは、長下肢装具と短下肢装具の間をつなぐ装具や装置が色々と研究・発売されている、ってことを知っててもらえれば良いです。

続いて、それらの最先端の機器がもたらす影響は、セラピストや患者さんを改善するのかを考えます。

3 最先端の機器から学べること

現在は、装具に限らず、新しい機器が開発されています。
毎年のように新製品が出るため、どの機器が有効なのか、選択肢が多すぎます。

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また、新製品の研究では、従来と比べて有効であったと結論付けられることが多いこともユーザーを混乱させます。

その中で、私達は何を考えて、選択すれば良いのでしょうか。
このパートでは、そこを考えてみたいと思います。

1) 理論背景を知る

まずは、理論背景を知りましょう。

先程のGSkneeを例に、考えてみます。

GSknneの理論は、
「従来の一般的な長下肢装具は、膝関節を完全に固定した状態で使用されるため、利用者は膝を曲げることができずに不自然な歩行になるといった課題がありました。」

長下肢装具の問題点(膝を完全に固定した状態で使用)から、この装置の必要性を表面的には説明してくれています。
ただ、これだけだと不十分です。

どんな問題(課題)を解決するための、装置(理論)なのかを知ることが重要です。

長下肢装具の課題は前述した通りですが、カットダウンは、膝がロックオンとオフの2パターンに限られるので、短下肢装具への移行のタイミングが不明確という課題があります。
そこで、立脚期ではロックオン、遊脚期ではロックオフという状態が作れるのであれば、移行のタイミングが見えてきそうです。

ただ(笑)、厳密に言うとGSkneeは、カットダウンの移行のタイミングが不明確という課題を解決していません。
(前述の通り、セラピストが任意でロックの解除を行うため)
不明確なままだけど、膝が遊脚期でロックオフされると、明確に分かるようになるのかな?くらいです。

ここで伝えたいことは、装置の機能だけでなく、理論と背景を深堀りしましょうということです。
理論背景を見た上であれば、最先端であっても上手に使うことができます。

2) 最先端の機器との向き合い方

最先端の機器が出たときに、理論背景を知る必要があることは前述しました。

その上で、最先端の機器との向き合い方について考えていきます。
あなたの病院では、最先端の機器が出たら購入してもらえますか?
多分、そうではない病院が大半だと思います。

ただ、購入してもらえないから、最先端の機器は自分とは関係ないと思って気にしないのは、すごくもったいないと思います。
何故なら、最先端の機器が出る=課題に対する解決策である可能性が高いからです。
つまり、最先端の機器の新機能を見ることで、他のセラピストが感じている課題や、それに対する解決策を知ることができます。

これの記事を書いているメンバーらの病院や施設に、最先端の機器が導入されているわけではありません。
ただ、その理論背景や目的を知ることで、現状セラピストが感じている課題やそれに対する解決策を学ぶことができます。

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GSkneeという機器が発売されたらしい、その機器は長下肢装具の膝の問題を解決する機能があるみたい。
こう考えると、長下肢装具の膝が固定されていることを他のセラピストも課題と感じていて、その解決策の1つにGSkneeがあると知れます。

課題ってとも大切です。
課題設定が間違っていると、一生懸命に努力していても成果は得られません。
最先端の機器からは課題設定を学ぶことができるのです。

これってとても大きいことだと思いませんか?
なので、導入できるかどうかは二の次にして(無論、導入できるに越したことはないですが)、最先端の機器が出た際には、どんな機器か確認する作業を繰り返すことを強くオススメします。

最先端の機器が出た際には、理論背景を知り、どんな課題かを確認する、という作業は頭に入れておきましょう。

続いてカットダウンで重要なことです。

4 カットダウンで重要なこと

私たちが作成したフローは、カットダウンの課題を解決するものです。
カットダウンの方法に課題を感じているのは、前述したGSkneeの機能を見れば、明らかです。
他にも、カットダウンを解決する機器は、少しずつ出ています。

そのため、カットダウンの方法に対する課題は、適切な課題といえます。
私達が考えた解決策は、
「臨床現場でカンタンに使えるカットダウンのフローを作成すること」です。

カットダウンのフローを作成する上で、大切にしたことは2つです。

1) 客観的であること
2) 次に行うことが明確になること(ゴールを明確)

順に解説します。

1) 客観的であること

カットダウンにセラピスト間で差があることは前述したとおりで、主観的であることが大きな問題点です。
これを解決するには、客観的であることが重要です。

ROMは角度でハッキリ分かるけど、MMTは主観的な部分が大きいため、客観的なデータとして測定機器(ハンドヘルドダイナモメーター等)を使おうというような感じです。
それと同じで、カットダウンをできるだけ客観的にする必要があります。

2) 次に行うことが明確になること

これも臨床的には悩む部分が大きいと思います。
明確なプロトコルやルーチンがあると、次に行うことが明確になります。

いくら客観的であっても、膝折れするなら長下肢装具、膝折れしないなら短下肢装具では、ちょっと粗いです。
そのため、カットダウンのフローでは、小さいゴールをいくつか設定しています。

5 フロー

おまたせしました。
作成したフローがこちらです。

1) カットダウンのフロー

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