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◆レビュー.≪映画『カメラを止めるな!』≫

※本稿は某SNSに2019年3月9日に投稿したものを加筆修正のうえで掲載しています。


 金曜ロードSHOW!でやっていた映画『カメラを止めるな!』見ました~!

カメラを止めるな!


◆◆◆以下、基本的にはネタバレレビューとなりますので、その点ご了承のうえで以下ご覧頂ければと思います。◆◆◆


 自分はこの映画については、ほとんど前知識なしで見ることができたんですが、それでも300万円で作られた低予算映画、というのだけは知っていました。

 低予算映画で評判が良かったものと言えば、例えば『ブレアウィッチ・プロジェクト』とか『CUBE』なんかが有名でしたので、これもおそらく「何か低予算でも作劇が可能な"物語的な仕掛け"があるんだろうな」とは予測していました。 

 そんな予測がついていたので正直、この映画の全体の構造は、劇が始まってからものの数十秒で予測がつきました。

 「ゾンビ映画を撮ろうとしている人たち」がメインとなっているのが分かれば「これは重層構造になるんだろうな」というのはすぐ想像ができます。

 ということで、ぼく的には本作の面白さは、そういう重層構造になっている物語というものの「珍しさ」にはありませんでした。

 ただ、こういう作中作というか、メタフィクションというか、楽屋オチというか、そういうタイプのお話は個人的に結構好きなほうだったので、ぼくの場合はそれがマイナスポイントにはならなかったんですけどネ。

 「ゾンビ映画を撮っている人たち」という内容の映画に本物のゾンビが入ってくる、という映画を撮っている人たち――こういう三重にフィクションを重ね合わせてできているメタフィクションという凝った作りも、そういえば日本映画の中にありそうでなかなか思いつかないもので、そう考えてみるとこれはなかなかの意欲作とも言えるんじゃないか、とも思えます。

 ただ、肝心なのはそういう「凝った物語構造」にあるのではなく、そういう物語構造を使うことで「何を描くのか」ということでしょう。

 冒頭から37分間にわたって繰り広げられる長まわしのゾンビ映画については、「映像が汚い」とか「品がない」というマイナス意見も聞きましたが、ぼく的にはこのシーンも「B級映画的なキッチュな感じを狙ってるのかな」という感じがして、素直に楽しめました。大昔の東映特撮映画のパロディみたいな感じで面白かったです。

 しかし、その後の2パート目、3パート目は、その映像を題材にして更に面白さを加えてきたところが巧いと思いました。
 映画を作る人たちの悲喜こもごもなドラマを挟んで「映像の謎解き」的なものにするというのが、なかなかのアイデアだなあと思いました。

 これは言ってみれば「物語の謎が解けていく幸せ」の楽しさと同時に「映画が作り上げられていくときの、現場が試行錯誤するときの幸せ」が表現されていたのだと思います。

 ぼくは映画のDVDを見ると、映像特典なんかについてくる「メイキング映像」が凄く好きで必ず見ているくらいなんですが、この映画の最後のパートの面白さというのも、そういう「メイキング映像」を見る時のような面白さがあると思いました。

 今のSFXはどんな場面でもCGを使って表現できてしまうというのが、逆に今のSFX撮影をつまらなくしているのではないかと、ぼくは思っています。

 例えばCG技術がまだ発達していなかったころの『スターウォーズ』シリーズを見るのは、映像でSF的な世界観を見る楽しさだけではなく、「うわぁ~こんな凄い映像、どうやって作ったんだろう?」と想像する楽しさもあったと思います。
 アナログ的な技術を使ったSFXには、あらゆる技術のアイデアの結晶があると思っています。

 この映画では、そういう「創意工夫の結晶」としての映像の面白さを、「楽屋裏」そのものをオープンに劇にしたことで、久々に味わえた気がしました。困難な映像をとるときに出てくるあらゆるアイデアが、こういう面白い映画として結実しているのだなあと思いました。

 映画は、見るだけではなく、作る工程もまた面白いものなのだ、と思います。
 この作品は、どうしようもない制約を与えられて混乱する映画製作の現場に現れた、意外な「映画を作る楽しさ」を映し出した映画なのではないかと思いました。


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