もし桃太郎とかぐや姫が幼馴染だったら 0話・鬼を討つという前座


鬼を討て。
かつて青年が暮らしていた土地では、長きに渡ってこの使命が益荒男たちに吹き込まれていた。

しかし、それを成した者は当然なく、今の今にいたるまで鬼を討てと囁かれてきた結果、この鬼の討伐はある青年へと引き継がれる。

青年が住んでいた場所から遠く離れた場所にあるこの島で、とうとう青年は今まで斃れてしまった益荒男たちの憎き相手である鬼と対峙することになるのだが、青年は今や劣勢状態にあった。

現に相手は人ならざるもの。人智ならず攻撃手段においても正に伝承にある化け物そのものでしかないゆえに、青年もまた楽に鬼を斃せるなどと端から思っていない。

ゆえに鬼は問う。汝に我を討つ覚悟と技量はありや?――と。

青年の答えは是。
例えこのまま従えた彼らが傷ついてもなお、自分はこの鬼の首を狩らなければならない。

それは何故か? 益荒男となってあの場所へ帰るためか、否。
奇怪な生まれである自身を、ここまで育ててくれた父母に名誉をやるつもりか、否。
この長き旅の道中で、仲間と勝利を手にいれると誓い合ったからか、否。

そうではない、ただ青年が鬼を討つのは単純な話。
ただ勇敢でありたい。勇敢で強くて、格好良くて、どんな厄災からも人々を守れるようなそんな存在になりたい――しかし彼はそんな勇者たる器を担えても、格好いい存在でありたいという個人の願望だけはどうしても消せないのである。

その根幹を担ったのは、ある少女。
青年にとっては姉のようでいて、常に傍にいれは自身を支えてくれた守り神のような存在。現に月人の銘を冠する彼女は、青年とはまた違った存在である。

そのためか、鬼が最初青年に問うた問いかけに対し、青年の中に在る少女は鬼の生存と鬼が討たれずにいるこの世を否定した。

決して、彼を黄泉の国には送らせません。
私は月の都に帰ることを拒絶し、さらに愛していたはずへの翁への愛も最初から抱いていない。ゆえにこの身はそこらの女子供と変わらない。しかし、それでもなおいいのです、と。

確かに私は強欲です。
もしかすると、この性格で多くの人を傷つけたかもしれません。
しかし、それでも結果私は愛に逆らえず、あらゆる事象を覆し、未来を変えてしまいました。ならば、きっと彼もまた私の願いと共に運命に抗える。
今まで鬼に斃れた者達と青年は違うのだ、と。青年を襲う苦難と絶望という困難に襲う現状も。そのために彼女の願いという名の罪はある。

そう少女は、青年が懐に大事に仕舞っていたお守りの中から鬼へと訴えていた。
ならば、よろしいと鬼は嗤う。また青年は鬼に討ち勝つと腹を決める。


「カグヤに格好いいところ見せたいんだったら、お前の首を持ち帰らないとな」


瞬間、未だ苦難の中を青年と共に戦う仲間達と共に、再び過酷な戦闘を再開する。

決して逃げ道などなく、生き残るかどうかも分からない。それでもなお、青年はこの先の勝利を信じている。
なぜならば、自分は格好良くありたいから。

彼女には幼い子どもに見えるかもしれないが、それでも鬼を討つまで成長出来たのだと胸を張りたい。
もっと欲を言うならば、この戦いを終えたら自身の想いを彼女へと伝えたい。ただそれだけである。

この物語で重要なのは、青年が鬼を討てるかではない。
所詮鬼の首は、青年にとっての勲章に過ぎず、さらに青年は鬼を討つよりも大事なことがある。
今はまだそれに届かなくとも、今ここで鬼を討つことでそれを成すための土台を作る必要があった。

なぜならば、少女が求めた秘宝を集めることこそ、今自分を襲う困難以上の苦難であるがために。

ゆえに、鬼を討つのは前座に過ぎない。
現に、覚悟を決めた青年と仲間達の応戦により、なんとか長期戦へと持ち込む。次第に鬼は疲弊し、青年は自身の限界を気合1つのみで越えては精神で肉体を凌駕させてみせた。結果、青年は鬼の首を決死の思いで斬り落とし、青年はこの試練を越えてみせた。


「……ってて。けど、こんなのアイツの我侭からすればまだ楽なもんか」



青年・桃太郎は負傷した腕を押さえては、次に自身が成すことを考える。


今、俺は自分の我侭を叶えてきた。ならば、次は彼女の我侭——いや、悲願を叶えるべきだと。

確かにこの場を生き残れたのは、仲間と自身の功績に違いないが、それでも桃太郎は思う。決してそれだけが全ての勝因ではないと。
全てはあの面倒見のいい、我侭という呪いに付き纏われた姫様——桃太郎の最愛の人であるカグヤの加護でもあると。

現に懐に忍ばせた彼女の手製のお守りは、鬼との戦闘中に受けた必殺の一撃から自身を守り抜いてくれている。このことなら、本当に彼女は月人という普通の人間とは一線を画した魔性の女なのだと再確認する。

しかし、例え彼女が魔性の女と言われようがそれでも構わない。
なにせ桃太郎の中でのカグヤは面倒見のいい姉気質な人だったから。
などと、自身の目でみたものしか信用しない彼にとって、こんな逡巡など些事でしかなく。


「んじゃ、さっさと帰って次の試練へと挑みますか!」


そうして桃太郎は次の試練へと挑む。
次の試練は、愛する彼女への手土産を全て揃えること。
鬼を討ち、益荒男となった彼が次に与えられたのは、1人の男としての意地である。


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