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Orioriが生まれるまでー『着物を蘇らせる技』ー

私たちOrioriは、自分たちで生地を織っていませんが、50年から100年以上前に呉服店や染屋さんの倉に眠っていた、ヴィンテージの反物(ロール状になっている着物になる前の生地のことをいいます)を使用してプロダクトを製作しています。

眠っていた反物たちは、カビや染みなどの目立つ汚れがあるものから、目視では確認できない程きれいな状態のものまで様々。汚れの程度はあるものの、Orioriでは全ての反物をしみ抜き職人さんへクリーニングをお願いしています。

そうして蘇った生地を、プロダクトデザイナーや作り手さんたちの手によって商品化していきます。今日は、そんな織物を職人技で美しく蘇らせる「しみ抜き職人」さんを紹介します。

今後、Orioriでは素敵な織物が、たくさんの素敵な人々の手を経てOrioriの製品となるまでの物語をお伝えします。


#001 中谷しみ抜き店

山形の母なる川・最上川の河口に位置し、江戸時代には日本海側の物資を大阪に届ける”西廻り航路”の出発点として栄えていた湊町、酒田市。

その最上川のほとりに発達した街中にあるのが、創業80年余りの「中谷しみ抜き店」。着物のクリーニングである「染色補正」と呼ばれる技術を専門としています。

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―― みなさんは、「着物のクリーニング」と聞くと、どんな洗い方を想像するでしょうか?

水を嫌う着物を丁寧に洗おうとする場合には、洋服のクリーニングとは少し違った方法をとることになります。

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▲中谷しみ抜き店の奥は京都の長屋のような造り。そこにかけられていたたくさんの着物たち

この技術を受け継ぐのが中谷しみ抜き店3代目、中谷敬(なかたにけい)さん。一級染色補正技能士という資格を持ち、技能グランプリで最高賞・内閣総理大臣賞を受賞した実力者です。(すごい!)

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小学生の息子を持つ父親でもある敬さんは、先代である2代目のご両親、そして奥さんとともに歴史ある中谷しみ抜き店を支えていらっしゃいます。

冷たい海風の吹く2月中旬、反物をOrioriの製品として加工する前のクリーニング作業 “洗い張り”の現場を見学しました。 

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クリーニングは反物の状態で行われます。仕立てられた着物の場合も、一度糸をほどいて一本の反物の状態に戻す必要があります。敬さんはまず、手渡された反物を広げて生地や模様を入念に確認し始めました。

「水で洗っていいものと、ダメなものがあるんですよ。これ危なそうだな、水に浸けると色がにじみそうだなって思ったら、その前に処理しないといけないから」

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―― 水洗いをしてから色がにじんでしまい失敗した、と思うことはないのでしょうか。

「ある。普通にあります。でもそれを直せるからこの仕事をやってるんです」

実は、着物のクリーニングは「抜けた生地の色を元のように染め上げる」というところに特徴があります。時には消えてしまった柄を敬さんが新たに描き直すことも。 着物を”元の状態に戻す”という高度な技術がなければ、しみを抜くこともできません。

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反物の状態を確かめたら、桶に汲んだ冷水にさらしながらブラシでこすっていきます。ここで汚れを除きながら反物に付いているノリを落とすのだそうです。 

「Orioriさんの場合はここから製品に加工するから、生地が硬いより柔らかい方がいいでしょう」

洗いの段階から、ストールやスカーフとしての成型しやすさ、身に付けたときの肌触りを考えて「Orioriの製品として一番輝く姿」に整えられているのです。

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どんなことを考えながら作業しているのですか、と問うと、

「うーん……冷たいなぁって」。

敬さんは真面目な顔で答え、にやっと笑います。

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脱水機を回して軽く水気を抜き、形を崩さないように陰干しします。

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ストーブに当てながら数時間も置いていれば、水分は全て飛んでしまいます。

次に水によって縮んだ反物を伸ばすのが“湯のし”の工程です。

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▲敬さんが生まれた時からあるという湯のし専用の機械


反物を伸ばす特殊な機械にかけていきます。中にはガス管が通っていて、点火棒で火を付けると貯められている水が次第に温まって水蒸気が出てくる仕組みです。ここに反物を手で整えながら通していきます。

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電気を使わず作動ボタンもない、なんとシンプルで大胆な道具でしょう。

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▲ほどいた生地をものすごいスピードでつなげていく敬さんのお母様

「この湯のしの機械を作る工場もつぶれてしまったんですよ。新しい機械が開発されることもまずないでしょう。この機械が壊れたら……大変だろうなあ」

そうつぶやきながら、自らの手元に真摯な視線を向け続ける敬さん。

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最後に、機械では伸ばせない端部を中心にスチームアイロンをかけて形を整え、”洗い張り”一連の作業は終了です。

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▲生地には直接アイロンをあてず、少し浮かせて蒸気を当てている

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―― しみ抜き職人となったきっかけ

中谷敬さんはこの家で生まれ、18歳から着物をデザインする東京の専門学校に通っていました。

京都で着物創作の修行を積んだ後、24歳にして酒田へと戻りこの家業を継ぐことになります。

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小さい頃から手先は器用だったという敬さん。コツコツと技術を極め、先代は担っていなかった絵付けの作業も習得してきました。

「まあ、この仕事が合ってるんでしょうね。黙々と一人でやる手作業がね」

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▲敬さんが装飾を手掛けた反物。モノトーンの生地に金箔を散りばめた 

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▲作業場にはたくさんの染色用具が並ぶ

敬さんにOrioriの反物の洗い張りをお願いして、1年が経ちます。

「ストールを作りたい」とOrioriの2人が店を訪れてきた当時を思い出しながら、「なかなかこんな依頼は来ない。最初は何作るのかと思った」と笑う敬さんは、Orioriの掲げるコンセプトやプロダクトのデザイン性に期待を寄せてくれているそうです。

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▲Orioriの坂部(左)、藤川(右)

「どんどんやれ、って思う。ほんと頑張ってほしいなって。
いろんなしきたりはあるけれど、着物だっていつ身に付けてもいいんだよ、何だっていいんだよって。若い感性で証明してほしい」

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敬さんはじめ、中谷しみ抜き店の皆さんは、反物のクリーニングだけでなく、反物の特徴や扱い方について、どんなささいなこともじっくり丁寧に教えてくださいます。

訪れるたびに発見と感動があり、自分たちが作り出すプロダクトへの安心感や自信が高まっていくのです。

* * *


しみ抜きの奥は深く、今回お伝えしたのはほんの一部分。敬さんの作業場の道具たちを見ると分かるように、染みの色素を抜いて、またそこに新たな染料・顔料を入れるというような技もあるのです。Orioriで扱っている反物はそこまでダメージが少ないので、今回はそのような技の出番はありませんでしたが、また別の機会でご紹介できればと思っています。

もしもお着物の染みなどでお困りの方がいらっしゃったら、中谷しみ抜き店さんへ、ご相談ください。

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100年続くヴィンテージの着物地を使用した、子や孫に受け継ぐことができるものづくりブランド【Oriori-japan】を起ち上げました。 想いや関わってくださる方々について綴っていきます。

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