脳を鍛えるには運動しかない 最新科学で分かった脳細胞の増やし方


ジョン・J・レイティ=著  野中香方子=訳  NHK出版

 かなり詳細に、けど一般向けにわかりやすく書かれている。多分、『筋トレは最強のソリューション』の元ネタ本。ひねくれた言い方をすれば、「じゃあなんで問題を起こすスポーツ選手が一定数いるのか?」となるが、当然個人差はあるだろう。戦士の遺伝子が関係しているかもしれない。ここ、先行研究の穴場かも。

ストレス--最大の障害

警報システム p.86

 余分なものをそぎ落とすと、人間にもともと備わっているストレス反応は、危険に集中する、反応を起こす、将来のためにその経験を記憶する、と言う3つに絞られる。

 そのためストレスに反応しているときに、ニューロンが他の要求を受け付けなくなり、ストレスと関係のない情報が記憶されない。→慢性ストレスのせいでコルチゾールが多い状態が続くと、新しいことを覚えにくい。うつの人が物を覚えにくいことにも説明がつく。(コルチゾールが多すぎると、既存の記憶へのアクセスも阻まれる)

緊張しているときの状態

 大勢の前でスピーチすると言うような神経が張り詰めるような体験をしたことがあれば、心臓は破裂しそうで、口の中はカラカラ、と言う状態は経験済みだろう。筋肉と脳がこわばり、全頭前夜から扁桃体を送られた信号がバラバラに散らばり、頭が真っ白になりフリーズしてしまう。そのような本格的なストレス反応は、専門的には「凍結・闘争・逃走反応」と呼ばれる。壇上にいる時にはどの反応も役に立たないが、目の前にいるのが飢えたライオンであれ、ざわついた聴衆であれ、体は基本的に同じように反応する。

 ノルアドレナリンが注意力を呼び覚まし、ドーパミンがそれを研ぎ澄まして鋭くする。(ストレスホルモンについて詳しくはページ83)

本能と戦う

 ストレス反応はよくできた適応行動だが、今日の世界ではそれでストレスが解消されるわけではなく、たまったエネルギーのはけ口もない。闘争・逃走反応がもたらす身体的欲求は、意図的に発散させなければならない。

 しかし現代の生活リズムは「旧石器時代のリズム」に比べると、エネルギー消費量に明らかに問題がある。石器時代の人間は、ただ食べるためだけに、通常1日に8キロから16キロも歩かなければならなかった。現在では机に向かいながら、カロリーをため込む羽目になっている。

 ストレスと言う点から見れば、現代の大いなる矛盾は、苦難が減り、情報だけが増えた、あるいは増えすぎたことかもしれない。24時間途切れることなく悲惨なニュースやうるさい要求が目の前に写し出されるので、扁桃体は休みなく活動する。もう20年で肥満が倍増したのも当然。現代のライフスタイルはストレスだらけ、そして動かない人だらけだからだ。

 何かで大きなストレスを感じると、脂肪を蓄積するために、元気が出そうなものを食べたくなる。そんな時の体はグルコースを欲していて、例えば箱の中でおいしそうに光ってるドーナツについ手が伸びる。そのような単純糖質と脂肪は簡単に燃料に変化するから。さらに現代社会では、友達は少なく、支えてくれる人もあまりいないし、もはや部族も存在しない。だが、孤独でいるのは脳にとって良くない。

ストレスはあなたを殺すだけではない

 筋肉を増強するには一旦それを壊してから体を休ませる必要がある。ニューロンについても同じことが言える。運動の凄いところは、筋肉の回復プロセスだけではなく、ニューロンの回復プロセスのスイッチも入れるところだ。つまり運動すれば、心身ともに強く柔軟になり、難問もうまく処理し、決断力が高まり、うまく周囲に適応できるようになる。

適度なストレスは長生きの元

 通常のカロリーの3分の1しか与えられなかったマウスとラットは、平均より最高で40%長生きした。

 抗酸化作用が高いブロッコリーをたくさん食べると健康で長生きできると言う宣伝→実のところそうした食品が体に良いのは、抗酸化成分だけでなく有害成分を含んでいるから。

 むしろ宣伝文句の内容には効果無し。一回の食事で摂るブロッコリーに含まれる程度の抗酸化作用要素程度に効果があるはずもない。

 野菜や果物といった植物に含まれる体に化学物質の多くは、昆虫などに食べられないようにするための毒として進化してきたもの。だからこうした植物を食べると、私たちの細胞には適度なストレス反応が引き起こされる。


不安--パニックを避ける

不安対策

 2004年サザンミシシッピ大学 ジョシュア・プロマン=ファルクス--運動が不安感受性を下げるかどうか

 激しい運動したグループの方が早く大きな効果が出た。認識レベルでの誤解が不安を引き起こすのだとすれば、体が興奮状態になっても不吉な知らせとは限らないし、生命に関わることでもないのだと、時間をかけて脳に教え込める。再プログラミングする。

ホルモンの変化--女性の脳に及ぼす影響

PMS--自然な変動

 PMSの原因について正確なところはまだ解明されていない。

 1800人以上の女性を対象にしたある調査では、少なくとも半数の女性が運動によってPMSの症状を和らげていることがわかった。しかし実を言えば、運動によってPMSの精神面における症状が軽減されることが実験ではっきり証明された例は多くはない。

 実験

①トレーニンググループ

②有酸素運動グループ ランニング

 結果、ランニングをしたグループの方が精神面の症状に改善が大きく見られた。

 理由1、セロトニン濃度が上がったから。

 理由2、運動することで、GABAを生産する遺伝子のスイッチを入れることができるから。

 PMSは興奮性のグルタミン酸が多すぎたり、抑制性のGABA(ガンマアミノ酪酸)が足りないから、情動を司るニューロンに過剰な興奮を引き起こした結果の一つ。

 まぁでも、何もしないよりはトレーニングの方がマシとのこと。

妊娠--動くべきか動かざるべきか

 女性の健康にまつわる神話で、「妊娠中は運動を控えるべきだ」と言う教えほど長く信じられてきたものはない。おそらく近代医学が発達する以前、出産は命がけの仕事で、妊娠中は家にいて、活動を減らし、ベッドに横たわって過ごすべきだと考えられていたからだろう。

 2002年以来、米国産婦人科学会は、妊婦と産後の女性に対し、中程度の有酸素運動を少なくとも日に30分することを勧めている。妊娠すると23%が運動を止めてしまうことを考えると、この要求はかなりレベルが高い。

 妊娠中の女性の多くは、どの程度運動していいのかはっきり分からないので、いっそやらないほうが安全だと考えがちだ。調査によると、妊婦の60%は何も運動していないようだ。

運動が妊娠にもたらす効果

 エストロゲンとプロゲステロンは通常よりはるかに高いレベルを維持できる。人によってはそのおかげで気分が安定し、不安感や憂鬱な気分が和らぐ。

ジェイムズ・クラップ『妊娠中の運動 Exercising thorough your pregnancy』

 運動することで、母体と胎児をつなぐ燃料供給LINEが強化され、胎児が必要とする栄養と酸素が確実に届くようになる。運動していた母親から生まれた新生児の方が痩せていることがわかった。確かにそれも心配だろうが、その差は1歳になるまでに解消される。

 運動していた母親から生まれた新生児と、しなかった母親から生まれた新生児を生後5日目に比較した。運動群の新生児は、刺激に対する反応が良くまた光や音の刺激を受けた後、より早く落ち着きを取り戻すことができた。運動は子宮内の胎児を揺さぶり、赤ん坊が撫でられたり抱かれたりするの同様の刺激を胎児に与え、明らかに脳の発達を促すと理論付けている。5歳時点で比較したところ、IQと言語能力においては著しい差があった。

 ラットの実験から分かる事

 妊娠中、日に20分間泳がされた母ラットから生まれた子ラットの方が、ニューロン新生が活発で、短期記憶も優れていた。

 運動の陣痛への影響。ドイツの研究 おもろすぎ。研究の参考にする

 分娩室にエアロバイクを運び込み、何とか50人の妊婦の協力を取り付けた。妊婦たちは、出産直前まで休みを入れながら20分ずつペダルをこぎ、痛みの度合いをランク付けし、血液中のエンドルフィン濃度を測定した。結果、ほとんどの妊婦(84%)が、休憩中よりエアロバイクをこいでいる時の方が陣痛が和らいだと答え、感じた痛みの程度はエンドルフィンレベルに反比例していた。研究チームは「分娩の最中にエルゴメーター付自転車で運動する事は胎児にとって安全で、子宮収縮への刺激となり、鎮痛効果もあるようだ」と結論した。

加齢--賢く老いる

認知力の衰え

 側頭葉は脳にとっては辞書のように記憶を蓄えておく場所で、アルツハイマー病によって萎縮する領域の1つ。したがって、アルツハイマーかどうかは、単語を羅列したリストを見せ、1時間半後にどれだけ思い出せるかを問う、簡単なテストによって調べられる。

 60歳から79歳までの6ヶ月にわたって週に3回、1時間ずつジムで運動させた。一方のグループはランニングマシンで歩き、もう一方はストレッチ体操しただけ。

 結果、半年後、ランニングマシンで運動した人は、肺の酸素処理能力の指標である最大酸素摂取量が平均で16%上昇していた。

 さらに重大な変化。ランニングマシンを使った人は、前頭葉と側頭葉の皮質容量が増えていた。運動が脳の衰えを防ぐだけでなく、老化に伴う細胞の衰えを逆行させると言うこと。

 1970年代初頭、フィンランド出身の1500人に対する調査をベースにして21年後に再調査。

 65歳から79歳になっていた対象者のうち少なくとも週2回運動していた人は、認知症になる確率がそうでない人より50%低かった。

老化に対する9つの運動の効果

1、心血管系を強くする

2、燃料を調節する

 血糖値の高い人はアルツハイマーを発症する率が77%高かった。

 歳をとるとインスリン(細胞内へのグルコースの取り込みを促進している)が少なくなるので、燃料となるグルコースが細胞に入りにくくなる。血液中にグルコースが急増するとその影響で細胞内には老廃物が生まれ、血管が傷つき、脳卒中やアルツハイマー病になる危険性を高める。

 運動はインスリン様成長因子の量を増やす。

3、肥満を防ぐ

4、ストレスの域値を上げる

 運動は過剰なコルチゾールによる不足を抑えることができる。コルチゾールは慢性的なストレスから生じ、心と体を蝕み、鬱や認知症を導く。

5、気分を明るくする

 コミ力がアップし、活動的な生活をする→社会的な結びつき

6、免疫系を強化する

 がんの最も明らかな危険要因は、運動不足だった。例えばよく運動する人が結腸がんにかかる確率は、そうでない人の50%以下。

 血中のC反応性タンパク(CRP)がある=血管系の病気やアルツハイマー病の主な要因となり慢性的な炎症が起きている証拠。運動すると免疫系のバランスが回復されて、炎症を抑え、病気を食い止めることができる。

7、骨を強くする

 骨粗しょう症は予防できる病気。カルシウムとvitamin D(毎朝太陽光10分間浴びればただで摂取できる)を取り、エクササイズや筋力トレーニングで骨を強化していればいい。数ヶ月でも効果がある。90代の女性でも全然できる。

8、意欲を高める

9、ニューロンの可塑性を高める

 脳の成長に欠かせない栄養因子が盛んに供給されるようになる。しかし運動しないでいると、それらの因子は加齢とともに失われてしまう。





 


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