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読書レビュー

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心にとどめたい本の感想をつづります。
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#読書感想文

彼はどうすれば、踏みとどまれたのだろうか? ミン・ジン・リー『PACHINKO』 【読書レビュー】

彼はどうすれば、踏みとどまれたのだろうか? ミン・ジン・リー『PACHINKO』 【読書レビュー】

取り返しをつけたい、つけなければならないことがある。

私の父の母、つまり私の祖母は、日本語の読み書きができなかった。

識字できない人がこの国で直面する生きづらさとは、どんなものなのか。想像し難いかもしれない。

たとえば、かかりつけの病院に行き、名前を呼ばれて返事をする。そのコミュニケーションは自分でできても、問診表は書けない。病院へは、娘である叔母が付き添うか、受付の人に向かって話し、それを

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目の前にいない人を想像する  サン=テグジュペリ作『星の王子さま』/ポプラキミノベル【読書レビュー】

目の前にいない人を想像する サン=テグジュペリ作『星の王子さま』/ポプラキミノベル【読書レビュー】

 大人には、いつだって説明が必要になる。子どもは、くたびれてしまう。

 『星の王子さま』序盤にある一節。それを思い出す出来事があった。

 四歳の次男が造形教室に通っている。その日の絵画のお題は「はたらく人」。すぐに息子は、クレヨンで描き始めた。巨大なカブトムシを。鼻唄を歌い出さんばかりに愉しげだ。

 「せんせいのはなし、きいてた? はたらくひと、だよ?」苦笑いしながら、スケッチブックに向かう

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満たされなさを何で埋めるのか? 尾形真理子著『隣人の愛を知れ』【読書レビュー】

満たされなさを何で埋めるのか? 尾形真理子著『隣人の愛を知れ』【読書レビュー】

 満たされなさや淋しさを、何で埋めるのか。

 本書を貫くテーマであり、登場する人たちは、抱えている不足感を、それぞれの形で埋めようとする。

 夫の朝帰りに悩みながら夫に愛されたくて絶食を続ける妻・ひかり、特別な相手との不倫でプライドを守る知歌、自分と娘を残して夫が家を出て20年以上経つのに離婚を認められない母親・美智子。初恋の人との同棲を続けるヨウ、水を飲むように浮気を繰り返す夫・直人、製作の

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