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【感想交換】「父と暮せば」上演台本を読んで

2024年夏、北海道札幌市で上演されるOrgofA『父と暮せば』と演劇家族スイートホーム『わだちを踏むように』。皆様に作品のことをもっと知っていただくため、お互いに上演台本を読み感想を交換しました。
今回は演劇家族スイートホーム 髙橋正子が書いた『父と暮せば』を読んでの感想をお届けします。



OrgofA『父と暮せば』あらすじ

昭和23年、広島。 美津江は雷をこわがっていた。
父・竹造は、娘を励ます。それは娘の「恋」においても…。
美津江の「恋の応援団長」をかってでた父、
実はもはやこの世の人ではないが、そんなこと構っていられない。
だって娘はこう言うのだ。
「うちはしあわせになってはいけんのじゃ」
これはそんな、魂の再生のものがたり。


『父と暮せば』上演台本を読んで

あまりにも、あまりにも父と娘の会話だと思った。

1948年7月27日(最終火曜ということなので)福吉美津江の家。
彼女は雷に怯え、父を呼ぶ。すると、亡くなったはずの父が娘の前に当然のようにやってくる。
父は当然のように「父」だった。
娘の「恋の応援団」を名乗り、お節介をやく。
あまりにも、家族。
あまりにも、父と娘。
どの時代にもどこにでも、こんな父と娘がきっといる。

そんな、ありふれた2人が物語になってしまったのは、
その父と娘を世界の渦、大きな炎がのんでしまったからだ。
この物語は、他人事ではいさせてくれない。だって、父娘があまりにも身近すぎる。 想像できる。どんな会話をして、どんな喧嘩をして、どんなことで笑って泣いたか。
想像できてしまう。だから、私たちはこの物語を物語にできない。

今や、全員が知っていて、全員が忘れてはいけない出来事。
その根底にある、絶対に永久に癒えない傷があることを物語は伝えてくる。
その出来事を知ることは、その傷口を誰かに見せてもらうということなのかもしれない。
広島で起こってしまった事実は大きく、重要だ。
そして、その事実を今でも忘れてはいけないのは何故か?
事実は人の癒えない傷で出来ているからではないのかな。
私たちは時折振り返らなくてはいけないのでは、ないだろうか。
読んで、改めて、強く、そう思った。

この戯曲を読んで、私は娘として生きてきたことを思い出した。
そして、父に恋を応援されるむず痒さや、ウザったさが手に取るようにわかった。
父は父で至極真っ当、真剣なので、飽きれて止める気も起きなかったりね。
私もう大人なのに!って思いつつ、時に甘えたりもしつつ。
なんて、あんまりにも普通で、忘れそうになって。
そして、その度、思い出してしまう。
記憶は波のように寄せては返し、寄せては返し、海のように娘に迫ってくる。
また来た。きてしまった。
こうやって、こうやって、ずっと、生きていくしかないのか。
記憶は消せなくて、どこかに仕舞われていて、ふとした時に、こっちの気も知らずに勝手に出てくる。
それが煩わしくて辛いのに、時々どうしようもなく救われる時もあったりして。
父の記憶が、父がそうなんだと思う。

父は、父は、この物語に流れる時間に存在する「父」は何者か。
亡くなったはずの父。
幽霊なんだろうか、誰かの寄る辺なんだろうか。
私は幽霊とか存在していないと思っているけど、信じている。
人の心と記憶はそれだけ力強いものだと思ってます。
皆さんは、OrgofAの芝居を見て、どう思うのだろうか。
父役の人は、なにを縁に、父を演じるのだろうか。
観て感じて、自分なりに探りたいな。

タイトルの意味も考えてみた。「父と暮せば」
方言なのかな?「〜したならば」という仮定なのかな?仮定、になってしまったのかな。
父と暮らせば、と想ったのか、想うのか。
考える。考える。うーーーーーーん。
そういえば。
作者のあとがきに代わった文章の中で「(中略)舞台でしかつくることのできない空間や時間が生まれる」とあった。
もしかしたら、舞台を見た時、少しわかるのかもしれない。
もしかしたら、傷の片鱗に触れられるのかもしれない。
傷を見せてもらったことをどう思うのか、自分なりに考えられるのかもしれない。

役者が、この物語を悩んで苦しんで見つめて、父と娘となって、舞台に立って、
それからでも、いいのかもしれない。
この札幌で一緒にひとつの劇場に集まって、同じ時間に観て、たくさんの人と考えたいなと思う。

(演劇家族スイートホーム 髙橋正子)



OrgofA「父と暮せば」公演概要

【日程】
2024年7月4日(木)〜7日(日)
 7/4(木)19:30◆☆
 7/5(金)14:00◇☆/19:30◆
 7/6(土)14:00◇/19:00◆☆
 7/7(日)11:00◇/15:00◆
※上演時間90分予定
※回ごとにキャストが変わります
☆アフターイベントあり

【キャスト】
◇飛世早哉香 × 松井真人(劇団あおきりみかん)
◆服部一姫 × 明逸人(ELEVEN NINES)

【会場】
演劇専用小劇場BLOCH
(札幌市中央区北3条東5丁目5 岩佐ビル1F)

【料金】
 一般 ¥3,500
 U25 ¥2,000
 親子チケット ¥5,000
 チケットケース付一般 ¥4,100
※チケットケース付一般は6/14(土)までの受付

【チケット取り扱い先】
PassMarket
道新プレイガイド
・札幌市民交流プラザチケットセンター
・セイコーマート(セコマコード:D24070403)


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