自死した弟のこと【21】遺族①(私と息子)

 家に帰ってすぐ、私は心療内科を予約した。それは、田村由美の『ミステリと言う勿れ』(小学館,2019,4巻p.36)で主人公の久能が、父を殺された汐路(しおじ)とその母にカウンセリングを勧める場面を思い出したからである。久能が言うように、人は弱いし、病むことが当たり前なので、私も心療内科を受診してみようと思ったのだ。
 先に申し上げるが、私の場合、心療内科を受診してよかったと心から思う。(※心療内科の医師と相性が合わないというのはよく聞く話なので、合わなければ無理する必要はないようにも思う)

 診察の日。診察室のドアを開け、医師に挨拶して椅子に座った途端、涙がこぼれ落ちそうになった。でも、涙を必死に止めようとずっと左手をつねり続け、どうにか弟が自死してしまったことを話した。医師は丁寧に私の話を聴き、こう言ってくれた。
「お姉さんは出来る限りのことをしました。弟さん、相当難しいケースだっと思います。弟さんのケースのような場合、家族が逃げてしまうことも珍しくない。お母さん、お姉さん、妹さん、よく頑張りました」
 その言葉に止めていた涙があふれ出してしまった。結局泣くならば、私の左手はつねられ損だったというわけだ。
 そして、心の健康を保つためのアドバイスを5つ頂いた。あくまでも私がお世話になっている医師からのアドバイスなので、全ての医者が同じ考えとは限らないが、参考までに記載する。

 ①有酸素運動30分を最低でも週4日は行う。
 ②晴れの日はもちろん、曇りの日でも外に出て、朝日を浴びる。
 ③食べ物をよく噛む。
 ④好きなことをする。
 ⑤悲しみを言葉にする。

 これらを手帳の一番前に書き、毎日意識している。医師のアドバイスを受けて、⑤を実行しようと、このnoteに弟のことを書くに至ったというわけだ。
 今、特に自分の気持ちを落ち着けるための薬を飲んでいるわけではないが、どうしても時々辛くなったり、眠れなくなってしまったりするので、2か月毎に受診している。いつも優しく話を聴いてくださるお医者さんには深く感謝している。

 さて、私の不安定な気持ちを一番身近で感じている人がいる。それは息子である。重度知的障害のある息子は、人の表情や反応にとても敏感である。私もなるべく悲しみを表に出さないようにしていたが、無意識に不安定になっていたのだろう。息子がかなり崩れてしまった。12月に児童精神科を受診したのだが、その前に異常行動(靴を舐める、急に泣き出す、寄生を発する等)が高頻度で現れてしまい、非常に困った。薬で抑えればいいではないかと思う方もいらっしゃるかもしれないが、副作用や実際に薬を飲んでいる知り合いの様子を考えると、私も夫もそう簡単に西洋薬には踏み切れないのだ。もちろん、薬のおかげで生活がスムーズになったという知り合いも多いので、判断は人それぞれだ。今後服薬するかどうかは医師とよく相談して決めたいと考えている。
 児童精神科の医師に弟が自死したことを話し、息子の異常行動にどう対処すべきか伺った。すると、医師もまた義兄を自死で亡くしたとのことで、親身になってくださった。結局、漢方で調整してみようということになり、今も息子は苦いのを頑張って飲み続けている。一時より異常行動は減ったが、なかなかゼロにはならない。障害は治るもの・努力で乗り越えられるものではないので、ずっと付き合うしかないのだが、いつか異常行動が無くなって欲しいなぁ…と切実に願っている。
 今は私も息子も医療に支えられながら、少しずつ心の安定を取り戻しているところだ。

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