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第26話 困った性格

26. 復習(8) 進行形、冠詞/名詞、代名詞、形容詞/副詞、疑問詞の適語選択問題の解法

(8月15日 教室⑩)

今年は天気に恵まれているせいか、俺の育て方が上手いのか、庭の野菜がぐんぐん成長している。――
キュウリにトマト、トウモロコシ、ナス、ピーマン、そして枝豆群。
この分だと、月末のバーベキュー大会も大盛況だろう。
塾生・保護者を始め、地域の皆様を、塾長が手塩にかけた新鮮野菜でおもてなし、か、……フッ、悪くない。
が、これも雲になりたい少女のおかげだ、……感謝せねば。
数週間前のことだった。――
日課の草取りに精を出していると、
「枝豆は摘心した方がいいみたいですよ」と、ベランダから女の声がする。
手を止めて見上げると、――いつの間に来たのだろう、――事務員のキララだった。
相変わらず、タンポポの綿毛のように吹けば飛んでいきそうな少女だったが、それでいてふとした瞬間に、内に秘めた芯の強さを感じさせる女でもあった。
「摘心?」
「先っぽを切ると、脇芽が出てきて、いっぱい実が生るそうです」
「へぇ~、……んで、やってみっか」
見かけによらず、キララはこっちの方にやけに詳しい。
が、どうも気が進まない。――
職業柄、「間引き」でさえ、出来の悪い子供たちを掴んでドブに捨てるような気がして、なかなかできなかったというのに、今度は育ち盛りの子供たちの首をチョン切れと言うのか、……。
葛藤に苦しむ俺を気遣ってか、
「私、やります?」
と、キララ。
「あぁ、……んで、頼むわ」と、平静を装う俺。
全く困った性格だ。――
キララは、ベランダから下りてくると早速、摘心作業に取り掛かった。
「ところで、キララ」
「はい?」
「スイカ、……さっぱり生らないんだけどさぁ」
つるは伸び放題伸びて、黄色い花も咲いては萎み、咲いては萎みの繰り返しだった。
「あぁ、それ、人工授粉させなきゃダメですよ」
「人工授粉?」
「雄花を取って、雌花にこすりつけるんです」
「へぇ~、……んで、やってみっか」
自然主義の俺としては、「人工」という言葉がどうも気に障るが、そうしなければ実が生らないというのであれば仕方あるまい。
でも待てよ、だったら原始のスイカは誰が授粉させてやったのだ、という話だ。
まさか熱帯雨林の生い茂るジャングルの片隅で木々の隙間から差し込む陽光を背に受けながら、サルの女房が旦那のノミ取りをするがごとく黙々と雄花を取って雌花にこすりつける作業をしていたとでも言うのか、……ウキーッ!
それはさておき、ここで前代未聞の問題が発生する。
雄花と雌花の区別がつかない。
聞くところによると、雌花は雄花に比べて極端にその数が少ないという。
適当にチョン切ってこすりつけてもいいが、万一そのチョン切った花が貴重な雌花だったらどうする。
一生、実などできるわけがない。
実のないスイカを、つるだけ育てて何の意味があろうか。
俺は「つるマニア」ではないのだ。
すると、
「私、やります?」
と、キララ。
「あぁ、……んで、頼むわ」と、平静を装う俺。
全く困った性格だ。――
「おはようございます」
「おぉ、キララ、……おはよ」
さて、キララが来たので事務所は彼女に任せて、俺は草取りでもしながら物思いに耽るとするか。――
成績低迷者というのは大体にして、英語を苦手科目としているものだ。
とは言え、英語は入試において高得点を期待される科目であり、「苦手だから他の教科で頑張る」は通用しない。
つまり志望校に合格させるためには何が何でもまず、英語を得意科目にさせる必要がある。
今でこそ、そのノウハウと経験はあると自負しているが、もちろん100%ではない。
日々経験、日々勉強だが、これこそ俺の生きる喜びなのだ。
キュウリのように放っておいてもワッシワッシと伸びる生徒ばかりなら何の苦労もいらないが、そういう生徒ばかり相手にしたところで、俺としては何も得るものがない。
得るものがなければ続けたところで意味がない。
「できない連中をできるようにするのが塾の役目だべっ、コノォ!」
これは成績優秀者の獲得に全力を注ぐ某大手予備校を辞めたときの俺の捨て台詞。
そしてこれこそ田村塾のスタートであり、同時にモットーでもあるのだ。――
どうでもいいけど、……あぁあああ、腰、痛ぇえええ。
「まっだぐ、軟弱だごだぁ」
「え? キララ?」
「何、かだってんの、……わ・た・し」と、目の前のタンポポが囁いた。
「ははぁ、失礼いたしました、……豊穣の女神デメテル様」
タンポポはデメテルの化身だった。
「野菜、……できてきたじゃないの。『枝豆パーティ』が楽しみね」
「そうですね、……って、勝手に『枝豆パーティ』になってるし」
「男たちにモテちゃったら、どうしよう」
「いや、その心配はないかと」
「なんで?」
「いや、別に」
さて、このタンポポは抜くべきか、抜かぬべきか。――
すると、
「私、やります?」
と、キララ。
「あぁ、……んで、頼むわ」と、平静を装う俺。
全く困った性格だ。――

「どぉれ、やっぞぉ。今日のテーマは『復習(8) 進行形、冠詞/名詞、代名詞、形容詞/副詞、疑問詞の適語選択問題の解法』ね。早速、<アテナの黙示録26>を見てみましょ。

<アテナの黙示録26> 復習(8) 進行形、冠詞/名詞、代名詞、形容詞/副詞、疑問詞の適語選択問題の解法
★ 適語選択問題の解法のポイント
|①単語や文の意味だけに頼らない。
|②キーワードをもとに考える。
|③語形に注意して正答を出す。
||例1)次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
|||||She is (play, plays, played, playing) tennis now.
|||||答え:playing
|||||理由:now(今)があるから現在進行形<is/am/are +動詞のing形>にする。
|||||意味:彼女は今テニスをしているところです。
||例2)次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
|||||How many (book, pen, pens, notebook) do you have?
|||||答え:pens
|||||理由:many(たくさんの)があるから、うしろは名詞の複数形にする。
|||||意味:あなたは何本のペンを持っていますか。
||例3)次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
|||||This is your book and that is (I, my, me, mine).
|||||答え:mine
|||||理由:your book(あなたの本)に対して、「私の本(=my book)」を1語で表す。
|||||意味:これはあなたの本で、あれは私のものです。
||例4)次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
|||||We have (many, much, few, a few) rain in June.
|||||答え:much
|||||理由:数えられない名詞 rain(雨)の前で使えるのは much(たくさんの)のみ。
|||||意味:6月にはたくさんの雨が降ります。
||例5)次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
|||||“(What, When, Who, How) do you go to school?” “By bus.”
|||||答え:How
|||||理由:By bus.(バスで)と「手段」を答えているので、「どうやって(=how)」とたずねる。
|||||意味:「あなたはどうやって学校に行きますか」「バスで行きます」

いがぁ、適語選択問題っていうのは、答えを出すのに必ず理由が必要だからね。なんでその答えになるのか、ってことね。そこで、答えを出すときのポイント①、……単語や文の意味だけに頼らない、ってこと。例えば、『彼はテニスをします』っていう文の『します』っていうのは、play を使うんだけど、play のままじゃダメだよね。主語が『彼は(=he)』なんだから」
「plays」と、ソン太が答える。
「そ。英語の述語動詞っていうのは、主語の種類によって形が変わるからね。今の場合は、主語が3人称単数なんだから、述語動詞は原形に s をつけた形にしなきゃダメだよね。これを単語の意味だけに頼って、『する』は play だから答えは play、……な~んてやっちゃうと、『はい、ざんね~ん』ってことになるわけだ」
「たしかに」と、ヘラクレス。
「あるいは、『私はたくさんのペンを持っています』っていう文の『ペン』っていうのは、pen を使うんだけど、pen のままじゃダメだよね。『たくさんの(=many)』って言ってるんだから」
「pens」と、メドりんが答える。
「そ。数えられる名詞がたくさんあるときは、複数形にしなきゃダメだった。これを単語の意味だけに頼って、『ペン』は pen だから答えは pen、……な~んてやっちゃうと、『はい、ざんね~ん』ってことになるわけだよね」
「たしかに」と、パンドラが頷く。
「よって、②、……キーワードをもとに考える、ってこと。今の場合は、he や many がキーワードになるね。で、③、……語形に注意して正答を出す、わけだ。英語の述語動詞には、動詞の原形をそのまま使ったり、(e)sをつけたりする現在形や、規則動詞、不規則動詞の過去形、will といっしょに動詞の原形を使う未来形、be動詞といっしょに動詞のing形を使う進行形など、いろんな形があるからね。名詞であれば、常に単数扱いの数えられない名詞や、数えられる名詞の単数形、複数形、とあるわけで」
「ひゃー、めんど」と、メドりん。
「まぁね。でも、俺が見る限り、ここにいる5人はほぼ、これを理解して問題の答えを出せるようになってると思うよ。あとは、つまらないミスをしないように日々復習だな」
――こいつらと出会ってから4ヶ月が過ぎたが、よくぞここまで頑張ってくれた。その頑張りを俺は無駄にはしないよ。
「てなわけで、もうチョイ、例題を見てみましょ。はい、テキスト、例1)から。ヘラクレス、……答え入れて読みぃ」
「She is playing tennis now.」
「そ。答えは playing だけど、なんで?」
「now があるから」
「そのとーし! now は『今』っていう意味で、現在進行形のキーワードになるよ。ただし、現在進行形であれば必ずbe動詞の現在形を使うわけだから、(  )の前にbe動詞の現在形、この場合は is だな、それがあることも確認しましょ」
「ウッス」
「ちなみに、文全体の意味は?」
「彼女は今テニスをしているところです」
「ん、いでしょ。まぁ、この辺、あやしい人は<アテナの黙示録19>を改めて復習すること。はい、次、例2)、メドりん、……答え入れて読みぃ」
「How many pens do you have?」
「そ。答えは pens だけど、なんで?」
「えっとねぇ、many があるから」
「そのとーし! many は『たくさんの』っていう意味で、名詞の複数形を使うときのキーワードになるよ。これを、文の意味だけに頼っちゃうと、『ペン』でも『本』でも『ノート』でもよさそうだけどね、今は many のうしろなんだから、複数形を選ぶべきだ」
「うんうん、わかる」と、メドりんの眼が輝く。
「ちなみに、文全体の意味は?」
「あなたは何本のペンを持っていますか」
「ん、いでしょ。まぁ、この辺、あやしい人は<アテナの黙示録20>を改めて復習すること。はい、次、例3)、パンドラ、……答え入れて読みぃ」
「This is your book and that is mine.」
「そ。答えは mine だけど、なんで?」
「『これはあなたの本で、あれは(  )です』だから、『私のもの』かなぁ、って」
「そだね。本来であれば、my book ってやりたいところだけど、I(私は), my(私の), me(私に/を), mine(私のもの)から選ぶとなると、mine しかないね」
「これ、パンドラの好きなやつ。アイ・マイ・ミー・マイン!」と、最高の笑顔を見せるパンドラだが。
「おぉ、んで、you だったら?」
「……」
――出たー、無表情女。
「ま、まぁ、人称代名詞の格変化については、<アテナの黙示録21>を復習しておくこと。ちなみに、文全体の意味は?」
「これはあなたの本で、あれは私のものです」
「おしっ。はい、次、例4)、ソン太、……答え入れて読みぃ」
「We have much rain in June.」
「そ。答えは much だけど、なんで?」
「rain は数えられない名詞だから」
「そのとーし! 他の選択肢、many や a few(少しの)、few(ほとんどない)は、うしろに数えられる名詞の複数形がくるからね。ちなみに、文全体の意味は?」
「6月にはたくさんの雨が降ります」
「ん、いでしょ。まぁ、この辺、あやしい人は<アテナの黙示録20>を改めて復習すること。はい、ラスト、例5)、オルっぺ、……答え入れて読みぃ」
「“How do you go to school?” “By bus.”」
「そ。答えは How だけど、なんで?」
「By bus. って答えてるから」
「そのとーし! 『バスで』って、手段を答えてるわけだから、『どうやって』ってたずねたわけだよね。疑問詞の適語選択問題は、答えの文にキーワードが含まれていることが多いんで、そこんとこヨロシク。まぁ、この辺、あやしい人は<アテナの黙示録24/25>を改めて復習すること。ちなみに、文全体の意味は?」
「『あなたはどうやって学校に行きますか』『バスで行きます』」
「おしっ、いでしょ。はい、ここまでどっか、質問ある?」
「「「「「なーい!」」」」」
「わぁお。んで、<スピンクスの謎26>、全問正解目指してやっぞぉ!」
「「「「「おー!」」」」」
――なんだ? このノリは。

<スピンクスの謎26> 復習(8) 進行形、冠詞/名詞、代名詞、形容詞/副詞、疑問詞の適語選択問題の解法
次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(1) My mother was (wash, washes, washed, washing) the dishes in the kitchen then.
(2) Many (child, girl, boy, children) like soccer.
(3) My father cleans (he, his, him, hers) room every day.
(4) We have (many, little, a few, very) snow in Sendai.
(5) “(What, When, Where, How) is your birthday?” “It’s January 21.”

「んで、ヘラクレス、(1)から、答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(1) My mother was (wash, washes, washed, washing) the dishes in the kitchen then.

「My mother was washing the dishes in the kitchen then.」
「そのとーし! ところで、なんで?」
「then があるから」
「そだ。then は『そのとき』っていう意味で、過去進行形のキーワードになるよ。ただし、過去進行形であれば必ずbe動詞の過去形を使うわけだから、(  )の前にbe動詞の過去形、この場合は was だな、それがあることも確認しましょ」
「ウッス」
「ちなみに、文全体の意味は?」
「私の母はそのとき台所で皿を洗っているところでした」
「おしっ。はい、次、(2)、メドりん、……答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(2) Many (child, girl, boy, children) like soccer.

「Many children like soccer.」
「そのとーし! ところで、なんで?」
「many があるから」
「そだ。many は『たくさんの』っていう意味で、名詞の複数形を使うときのキーワードになるよ。(  )の中に複数形は children しかないからね。child(子供)は s をつけない特別な複数形を持つ名詞だったよ。はい、意味」
「多くの子供たちはサッカーが好きです」
「おしっ。はい、次、(3)、パンドラ、……答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(3) My father cleans (he, his, him, hers) room every day.

「My father cleans his room every day.」
「そのとーし! ところで、なんで?」
「(  )のうしろに room(部屋)があるからぁ、he(彼は)はダメだしぃ、him(彼に/を)もダメだしぃ、hers(彼女のもの)も変」
「そだ。(  )のうしろの名詞 room に着目すれば、(  )に入るのは『~の』の形、ってことになるね。いでしょ。はい、意味」
「私の父は毎日自分の部屋を掃除します」
「おしっ。はい、次、(4)、ソン太、……答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(4) We have (many, little, a few, very) snow in Sendai.

「We have little snow in Sendai.」
「そのとーし! ところで、なんで?」
「snow(雪)は数えられない名詞なので、使えるのは little だけだから」
「そだ。(  )のうしろの数えられない名詞 snow に着目すれば、数えられる名詞の複数形の前で使う many や a few(少数の)は選択肢から消えるね。very は『とても』っていう意味の副詞だから、論外。いでしょ。はい、意味」
「仙台ではほとんど雪が降りません」
「そ。直訳すれば『私たちは仙台でほとんどない雪を持っています』だけど、それだと日本語として変だからね、今みたいな訳にすべきだよね。はい、次、(5)、オルっぺ、……答え入れて読みぃ」

次の英文の(  )内から適語を選びなさい。
(5) “(What, When, Where, How) is your birthday?” “It’s January 21.”

「“When is your birthday?” “It’s January 21.”」
「そのとーし! ところで、なんで?」
「January 21 って、答えてるから」
「そのとーし! 『1月21日です』って、『とき』を答えてるんだから、『いつ』ってたずねたんだよね。はい、意味」
「『あなたの誕生日はいつですか』『1月21日です』」
「おしっ。いでしょ。はい、通してどっか、質問ある?」
「「「「「なーい!」」」」」
「んで、本日終了。おつかれさ~ん」

(わぁ、メドりん、……これ、ダイジャの下敷きじゃん)
(うん、アネキからもらったの)
(いいなぁ、……やっぱ、イケメンだよねぇ。先生とは大違い)
――なぬ?
(ホント)
(キャハハハ)

<オイディプスの答え26> 復習(8) 進行形、冠詞/名詞、代名詞、形容詞/副詞、疑問詞の適語選択問題の解法
(1) washing
(2) children
(3) his
(4) little
(5) When

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