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第23話 高級ブランドGORGON

23. 形容詞/副詞

(7月30日 メドりん宅④)

ひんやりとした闇の中、滴の垂れる音だけが周りの岩壁に響いていた。――
鍾乳洞と言えば、様々なパール色の鍾乳石やエメラルドグリーンの地底湖といった幻想的な世界を思い浮かべるかもしれないが、もちろんそれは照明ありきの話で、元来、自然の鍾乳洞というものは、その先に何が潜んでいるかもわからない闇の世界である。
今、この暗黒の迷路とも言える洞窟の中を2人の女が迷うことなく奥へ奥へと歩いていく。
前方、はるか彼方に白い光がおぼろげに見えたが、どうやら彼女らはこの光を求めて歩いているようだった。
が、足音は聞こえない。
意識してそうしているのか、それとも至極、自然とそうなるのか、2人はまるでベルトコンベアに乗っているかのように闇の中をゆっくりと進んでいく。
さらに奇妙なことには、2人は時折、屈み込んだかと思うと体をくねらせながら起き上がり、また屈み込んでは起き上がるといった動作を繰り返していた。
そして、その度に彼女らの体は、形と大きさを劇的に変えていき、――それはある種の動物が幼生から成体へと変わるようで、――気付けば、体長10メートルを超すほどにまで成長していた。
見ると、2人が通ったあとには、皺くちゃになった大きな包装紙か長い風呂敷のようなものが延々と連なっており、2人はそれを引きずりながら、さらに奥へと進んでいった。――
先ほどの白い光が、段々大きくなってきている。
それ自体、こちらに向かってきているのか、その光はますます大きくなり、彼女らと出くわすころには、それが光ではなく、怪奇極まりない巨大な1つの眼であることが判明した。
それは世にも恐ろしい一眼巨人の眼だったのである。
同時に2人の女も、この世のものとは思えない大蛇の怪物に変身していた。
さて、双方の眼が合うと、一眼巨人は2頭の大蛇のうしろに回り、彼女らがあとに残してきた得体の知れないものを、バージンロードのカーペットでも巻き取るかのように器用に回収し始めた。
全て回収し終えると、彼は両脇にそれを抱え込み、無言で2頭のあとについていった。
そして暗闇の中の3者は、ある部屋の前まで来ると立ち止まり、大きな両開きの扉を開けて、順に中へと入っていくのだった。――

「なんか、お腹がすいたわね」と、ゴルゴン次女が鋭い八重歯をヤスリで磨きながら言う。
「じゃあ、おやつの時間にしましょうか」と、ゴルゴン長女。
「え? おやつ? わーい」と、メドりん。
「何にしましょうか? やっぱり、アレかしら?」
「そうね、やっぱりアレよぉ」
「え? アレって、……アレ?」
「そう、アレ。みんな大好き」
「「「豚足! いぇあ!」」」
3人の大合唱がリビング中に響き渡った。
豚足はゴルゴン3姉妹の大好物だった。
「アルゲス! 豚足3人前、お願~い」
と、長女が叫ぶ。
すると、キッチンから1人の大男が現れた。
「はい、ご主人様」
この男はアルゲス、通称アル男といい、ゴルゴン家の使用人である。
アルゲスは一眼巨人で、その風貌の不気味さから父親に嫌われ、長い間地下に幽閉されていたが、最高神ゼウスによって救い出され、田村塾に入塾、卒業して現在に至る。――
「メドゥサ、テレビをつけてちょうだい」
「あ~い」と、メドりんがテレビのスイッチを入れると、「あ、ダイジャが出てる! 顔、小っさ」
「ドラマの宣伝ね」と、次女。
「え? 今日からだっけ? 絶対、見ないと」と、メドりん。
「でも、アンタ、今日、センセが来る日よ。そろそろ来るんじゃない?」と、長女。
「そーだった」と、肩を落とすメドりん。
「さて、食べたら、私たちは仕事に戻るから、アンタ、センセが来たら、ちゃんとやるのよ」
「あ~い」
「行くわよ」
と、長女が号令すると、次女とアル男は直ちに席を立った。

「ども! 家庭教師のタムラです」
「あ~ら、センセ、いらっしゃ~い」
と、出迎えたゴルゴン3姉妹のうしろに大きな男がいる。
「おぉ、アル男。久しぶりだなぁ、……て、なんでここにいるの?」
「俺、今、ここの使用人として働いてるもんで」と、照れくさそうに言う一眼巨人。「その節は大変お世話になりました」
「いやいや、へ~、そうなんだ。元気そうで何よりだよ」
「ども。じゃあ、俺、今から一仕事あるんで」
3人がメドりんを残して、地下に続く階段を下りていく。――
「仕事って?」
「地下の工場で、財布を作ってるの。あと、バッグとか」
「地下の工場って、例の、……黒蛇の間?」
「そう」
ゴルゴン姉妹は、高級ブランドGORGONのオーナーで、蛇革の財布とバッグを中心にインターネットで販売している。
中でも1つ100万円もする黒蛇革の財布は、各国のセレブたちの間でミリオンセラーとなっている大ヒット商品である。
その原材料は彼女らの脱皮した皮だというから、恐ろしや、恐ろしや、……。

「どぉれ、やっぞぉ」
「あ~、テレビ、見たかったなぁ」
「何か、面白い番組でもあったのかい?」
「うん、『恐怖の蛇使い』」
「何それ? ドラマ?」
「うん、ダイジャが主演なんだよ」
「ダイジャ、って?」
「知らないのー? 蛇ニーズ事務所の新人アイドルだよ。超イケメンなんだからぁ」
「あそ」
――知るか。
「でね、出てくるときにいつも、『ジャジャジャジャ~ン』って言うの、……ウケるぅ」
「ふ~ん」
――男に興味ないし。
「どぉれ、ちゃっちゃと、やっぞぉ。今日のテーマは『形容詞/副詞』ね。はい、早速、<アテナの黙示録23>を見てみましょ。

<アテナの黙示録23> 形容詞/副詞
【1】形容詞のはたらき
|★形容詞は名詞の前に置き、その名詞を修飾する。
||例1)a new camera(新しいカメラ)
|||※new(新しい)は名詞 camera(カメラ)を修飾する形容詞。
||例2)an interesting book(面白い本)
|||※interesting(面白い)は名詞 book(本)を修飾する形容詞。
|||※interesting は母音[イ]で始まる単語なので、a の代わりに an を使う。
||例3)something cold(冷たい何か=何か冷たいもの)
|||※cold(冷たい)は名詞 something(何か)を修飾する形容詞。
|||※-thing で終わる名詞を修飾するときは、形容詞はそのうしろに置く。   
|★形容詞には、動詞のうしろに置いて主語や目的語を説明するはたらきもある。
||例1)He is busy now.(彼は今忙しいです)
|||※busy(忙しい)は主語 he(彼は)を説明する形容詞。
||例2)She looks happy.(彼女は幸せそうに見えます)
|||※happy(幸せな)は主語 she(彼女は)を説明する形容詞。

いがぁ。【1】から。名詞を修飾する単語のことを形容詞、っていうよ」
「『修飾』って?」
「まぁ、『詳しくする』っていうか、『説明する』っていうか、……例えば、『新しいカメラ』って言うときの『新しい』は『カメラ』っていう名詞を詳しく説明しているわけで、そういうはたらきを『修飾』っていうわけよ」
「フムフム」
「で、これを英語にするときは、日本語の語順と同じ『新しい/カメラ』でいいんだけど、1つのときは、当然 a が必要になるよ。よって、『新しいカメラ』を英語で言うと?」
「a new camera」
「てことね。じゃあ、『面白い本』だったら?」
「a interesting book(×)」
「まてまてまてまて、interesting は母音[イ]で始まる単語だぞ」
「あ、そっか。じゃあ、an interesting book」
「そのとーし! a は母音(=[ア・イ・ウ・エ・オ]の音)で始まる単語の前では an にするんだったよ。ここまで、いい?」
「うん」
「んで、次、チョイと注意、例3)。『冷たい何か(=何か冷たいもの)』って言うときは、『何か』のうしろに『冷たい』っていう形容詞を置くよ。よって?」
「something cold」
「そ。ま、something に限らず、-thing で終わる名詞は全部そう、語順注意ね。OK?」
「オッケー」
「んで、2つ目の★、形容詞には、動詞のうしろに置いて主語や目的語を説明するはたらきもあるよ。例えば、『彼は今忙しいです』って言う文は、英語の語順にすれば『彼は/です/忙しい/今』だよね。そうすっと?」
「He is busy now.」
「そ。文中の形容詞 busy は、動詞 is のうしろにきて、主語 he を説明してるわけだね」
「フムフム」
「あと、例2)みたいに、『彼女は幸せそうに見えます』な~んて言うときは」
「She looks happy.」
「そ。これも、形容詞 happy は、動詞 looks のうしろにきて、主語 she を説明してるわけでしょ」
「フムフム」
「まぁ、でも、この辺は形容詞のはたらき云々よりも、ある程度、形容詞を覚えて、語順に注意しながら、日本語を英語に直したり、英語を日本語に訳したりできれば、いでしょ」
「あ~い」
「てなわけで、【2】、今度は副詞の用法。

【2】副詞のはたらき
|★副詞は時・場所・程度などを表し、動詞や形容詞、他の副詞を修飾する。
||例1)He runs fast.(彼は速く走ります)
|||※fast(速く)は動詞 runs(走ります)を修飾する副詞。
||例2)My father always goes to the park.(私の父はいつもその公園に行きます)
|||※always(いつも)は動詞 goes(行きます)を修飾する副詞。
|||※always(いつも), usually(たいてい/普通), often(しばしば/度々/よく), sometimes(時々)など、頻度を表す副詞は、一般動詞の前、be動詞のうしろに置く。
||例3)I went there yesterday.(私は昨日そこに行きました)
|||※there(そこに), yesterday(昨日)は動詞 went(行きました)を修飾する副詞。
||例4)She is very kind.(彼女はとても親切です)
|||※very(とても)は形容詞 kind(親切な)を修飾する副詞。
||例5)He runs very fast.(彼はとても速く走ります)
|||※very は他の副詞 fast を修飾する副詞。
|★ too(~もまた)は肯定文・疑問文で、either(~もまた)は否定文で使う。
||例1)She plays tennis. He plays tennis, too.(彼女はテニスをします。彼もまたテニスをします)
||例2)She plays tennis. Does he play tennis, too?(彼女はテニスをします。彼もまたテニスをしますか)
||例3)She doesn’t play tennis. He doesn’t play tennis, either.(彼女はテニスをしません。彼もまたテニスをしません)

いがぁ。副詞、っていうのは、時・場所・程度などを表して、動詞や形容詞、あるいは他の副詞を修飾する単語のことね。例えば、『彼は速く走ります』っていう文の『速く』は『走ります』っていう動詞を修飾してるよね。で、副詞っていうのは、普通は動詞のうしろに置くんで、『彼は速く走ります』だったら?」
「He runs fast.」
「てことね。ただし、always(いつも), usually(たいてい/普通), often(しばしば/度々/よく), sometimes(時々)みたいに、頻度を表す副詞は一般動詞の前に入れる、っていうルールがあるんで要注意、……例2)ね。よって、『私の父はいつもその公園に行きます』だったら?」
「My father always goes to the park.」
「そ。always は頻度を表す副詞だから、一般動詞 goes の前に入れる、ってことよん。ただし、そこにも書いてるけど、動詞がbe動詞の場合は、be動詞のうしろに入れるんだな、これが」
「なんか、混乱するぅ」
「まぁね。ま、それだけ、be動詞は特別な動詞なんだ、ってことで。はい、次、例3)。『私は昨日そこに行きました』だったら? 英語の語順は『私は/行きました/そこに/昨日』だよ、『だれが/どうする/何を/どこで/いつ』の『何を』がない文だね」
「てことわぁ、I went there yesterday.」
「そ。この場合は、場所を表す副詞 there と、時を表す副詞 yesterday が、ともに動詞の went を修飾してるね。あと、形容詞や他の副詞を修飾する副詞もあるよ。例えば、『彼女はとても親切です(=She is very kind.)』っていう文の『とても(=very)』は『親切な(=kind)』っていう形容詞を修飾してるし、……例4)ね。あるいは、例5)、……『彼はとても速く走ります(=He runs very fast.)』っていう文の『とても(=very)』は『速く(=fast)』っていう他の副詞を修飾してる。まぁ、この辺も、文法的な解説よりも、ある程度、副詞を覚えて、語順に注意しながら、日本語を英語に直したり、英語を日本語に訳したりできれば、いでしょ」
「あ~い」
「はい、最後、……too と either[イーザ]の用法について」
「too っていうのは『~もまた』っていう意味なんだけど、実はこれ、否定文では使えないのね。よって、否定文では、too の代わりに either を使う、ってことよん」
「疑問文は?」
「疑問文では使える。使えないのは否定文のときだけね。よって、『彼もテニスをします』を英語にしたら?」
「He plays tennis, too.」
「そ。『彼もテニスをしますか』だったら?」
「Does he play tennis, too?」
「うん。『彼もテニスをしません』だったら?」
「He doesn’t play tennis, either.」
「そ。これは否定文だからね、too の代わりに either を使う、ってことよん。ここまで、OK?」
「オッケー」
「おしっ。んで、<スピンクスの謎23>をやってみよう。

<スピンクスの謎23> 形容詞/副詞
日本語の意味に合うように、次の英文の(  )内の語を並べ換えなさい。
(1) 彼女は素敵なバッグを持っています。
||She (bag / nice / a / has).
(2) トムはとても速く泳ぎます。
||Tom (fast / very / swims).
(3) 私は何か冷たいものがほしいです。
||I (want / cold / something).
(4) 私は普通8:00に学校に行きます。
||I (go to / usually / school) at eight.
次の英文を否定文に書き換えなさい。
(5) Nancy speaks Japanese, too.

はい、(1)から、……並べ換えた英文読みぃ」

日本語の意味に合うように、次の英文の(  )内の語を並べ換えなさい。
(1) 彼女は素敵なバッグを持っています。
||She (bag / nice / a / has).

「She has a nice bag.」
「そのとーし! 英語の語順は『だれが/どうする/何を』、……『何を』にあたる『素敵な/バッグを』は日本語通りの語順でいいね。はい、次、(2)、 ……並べ換えた英文読みぃ」

日本語の意味に合うように、次の英文の(  )内の語を並べ換えなさい。
(2) トムはとても速く泳ぎます。
||Tom (fast / very / swims).

「Tom swims very fast.」
「そのとーし! 英語では『だれが/どうする』が先。あとは、『とても/速く』をつけ足せばいいだけだ。はい、次、(3)、……並べ換えた英文読みぃ」

日本語の意味に合うように、次の英文の(  )内の語を並べ換えなさい。
(3) 私は何か冷たいものがほしいです。
||I (want / cold / something).

「I want cold(×)」
「まてまてまてまて、something は要注意だったよ」
「あ、I want something cold.」
「そ。-thing で終わる名詞は、そのうしろに形容詞がくるからね。はい、次、(4)、……並べ換えた英文読みぃ」

日本語の意味に合うように、次の英文の(  )内の語を並べ換えなさい。
(4) 私は普通8:00に学校に行きます。
||I (go to / usually / school) at eight.

「I go to school at eight.(×)」
「おいっ、usually はどこにいった? 頻度を表す副詞は一般動詞の前よん」
「てことわぁ、I usually go to school at eight.」
「そのとーし! はい、ラスト、(5)、書き換えた英文読みぃ」

次の英文を否定文に書き換えなさい。
(5) Nancy speaks Japanese, too.

「Nancy don’t(×)」
「おいっ。主語は Nancy、……3人称単数主語だぞ」
「あ、Nancy doesn’t speaks(×)」
「おいっ。does を使ったら、うしろは?」
「あ、動詞の原形か」
「そ。よって?」
「Nancy doesn’t speak Japanese, too.(×)
「おいっ。too は否定文では使えんぞ」
「そーだった。何だっけ?」
「either」
「てことわぁ、Nancy doesn’t speak Japanese, either.」
「てことね。ちなみに意味は?」
「ナンシーも日本語を話しません」
「おしっ。はい、どっか、通して、質問ある?」
「ナッシング!」
「おぉ、nothing(何も~ない)も –thing で終わる名詞よん。よって、形容詞を置くときは、前? うしろ?」
「うしろ」
「おしっ。んで、本日終了。おつかれさ~ん」

「メドゥサ、豚足の食いカス、……地下のゴミ置き場に持ってってちょうだい」
「え~」
「『え~』じゃないわよ。アンタ、永遠の命がほしいんでしょ」
「あ~い」と、しぶしぶ重い腰を上げるメドりんだった。「掟だから、しょうがないか、……」
ゴルゴン3姉妹のうち、メドりんだけが不老不死ではない。
が、命に限りのある者が永遠の命を手にするためには、その日が来るまで不老不死の者には絶対服従しなければならない、というのがゴルゴン家の掟だったのである。

<オイディプスの答え23> 形容詞/副詞
(1) has a nice bag
(2) swims very fast
(3) want something cold
(4) usually go to school
(5) Nancy doesn’t speak Japanese, either.

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