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『サラディナーサ』(花とゆめCOMICS) ~16世紀「アルマダの海戦」×逆ハーレムの王道展開コスチュームドラマ

不定期に1巻(オリジナルだと2冊相当)だけ期間限定無料になっていることがあります。

河惣 益巳 (著)
出版社: 白泉社
発売日: 1988/05~1990/10 花とゆめCOMICS 全9巻
発売日: 1997/03~1997/06 白泉社文庫 全5巻
定価: 各610円(文庫版)

こちらオリジナル

文庫は別な人が表紙描いています。3巻はドン・ファン。

読書メモ

毎回レビュー公開するか最後まで迷うもののうちのひとつです。というのも、1580年前後のヨーロッパを舞台にしていて実在人物も多数登場しているものの、話の内容は完全にフィクションであり、「この時代を知る」という目的で読むものとしては全く適当ではないからです。

いちおう実在人物はこんな感じです。けっこういますね。本館に記事のある人物はリンクで載せます。

  • サンタ・クルズ侯

  • フランシス・ドレイク

  • ジョン・ホーキンス

  • エル・グレコ

  • キハーダ夫人

管理人はこの作者の漫画は嫌いではないのですが、女性主人公の場合はどの作品でも圧倒的に強力なスーパーウーマンなので、あまり男性向けではないですし、女性でも人によっては苦手と感じる方もいるかも。登場人物のポジションにおける性格付けもある意味わかりやすいため、この作品の場合も、主人公の敵役にあたるフェリペ二世やエリザベス一世の扱いはそりゃあひどいものです。

ほかにも、準主役級のアウストリア公ドン・ファンが、実は死んでいなくてネーデルランドの反乱軍で戦う(ネタバレかも、すみません)とか、女児のようなマウリッツがあちこちに懐いて回る…………なんて段になると、もう何だかむずがゆくて(?)見てられません。マウリッツという名の完全なる別物と脳内変換して見ないとぞわぞわしてツラい。

もっとも、この作品の描かれた時期が1980年代後半なので、資料の絶対量も今と比較にならないほど少なく、古書も今ほど簡単に入手できないので、取材が雑把でも仕方ないといえば仕方ないかと思われます。さらに、王族が云々と台詞で書かれている割には、登場人物間の身分差も意識されていないように見えます。オルデンバルネフェルトがウィレムやマウリッツを呼び捨てにしてたりしてますし(初見時びっくりした)、ヒロインがエリザベス一世を御前でしょっちゅう罵ってたりもしてます。

さらに気を付けて見るべきもうひとつの要素が宗教です。主人公たち「フロンテーラ」は異教徒(宗派の違いではなく宗教そのものの違い)もOKなコスモポリタン集団ですが、時代的に王権にはまず受け入れられないはずです。また、ドン・ファンがネーデルランドの反乱軍側に加わろうとするにも、ドイツ語風に名前を変えて顔を隠す程度ではまずムリです。少なくとも公開で改宗をしたうえで、カトリックの坊主をダース単位で吊るすくらいしないとダメだろうと思います。

このように、「この時代を知る」という目的、つまり時代の空気感については期待はできません。時代と場所は単なる舞台であると「わかったうえで読む」「お話と割り切る」ことが必要です。

などといろいろマイナス面ばかり書きましたが、漫画としてはふつうに面白いですよ。この頃の少女漫画の王道ともいえる逆ハーレム、1人のヒロインに対してタイプの違うイケメンを4人あてがってロマンス要素を盛り込みつつ、主軸は仇討ちとシンプルでわかりやすい。全体の構成と長さ・起承転結・メリハリなど物語としての完成度が非常に高く、読後感も悪くないと思います。

しかしなぜか少女漫画って海戦好きですよね。アルマダをモチーフにした少女漫画ほかにも複数あります。


おまけ

さらに前の1970年代に描かれた少女漫画で、やはり同時代を扱ったものがあります(こちらは作者自身の宗教事由で未完のまま放置されているとか)。未完の作品についてはレビューしない方針なのですが一言だけ。

イングランド VS スペインの図式なので1-2巻の史実の登場人物がサラディナーサともけっこうかぶっています。

スペインが敵役、且つ、立ち位置的に中ボスになってしまう不幸からかと思いますが、サラディナーサでもこちらでも、パルマ公アレサンドロ・ファルネーゼがそれはもうとんでもなくマヌケな描かれ方で悲しくなってしまいます。

当時の作品のトレンドとして、主人公サイドへの肩入れや勧善懲悪が強い傾向があったのかもしれません。特段の思い入れもない史実人物は前座の端役として扱われてしまうんでしょう。よくわからないがゆえの扱いであるなら、むしろパルマ公の名を使わずモブにしてほしかったのが正直なところです。


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