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雑誌『歴史群像』 ~堆い近代戦闘アーカイブに埋もれた希少な近世軍制改革記事たち

まさか日本で市販されている商業雑誌に、オランダ史がらみの記事が載っているとは知りませんでした。情報いただきありがとうございました。 八十年戦争時代のオランダが含まれている記事5本をご紹介します。


出版社のデータベースで記事検索ができます。2024年時点で、西欧でソートすると550件超、近世+西洋だと1/10以下の65件、その中から八十年戦争がらみのものは5件のみになります。

いずれも細かい部分については突っ込みたいところ(「オランダ独立戦争」とか「独立宣言」という表記はそろそろやめてほしいな…とか)は多々ありますが、英語文献・翻訳文献にあたっており、その水準は専門誌を掲げるだけあります。「スペイン街道」の地図を日本語で載せているのもめずらしいのではないでしょうか。


歴史群像 2000年 夏・秋号 テルシオvs.三兵戦術

【記事】

火力と機動力へのたゆまぬ挑戦 テルシオvs.三兵戦術

読書メモ

だいぶ昔の記事で、個人名ではなく編集部でのクレジットになっています。4ページしかなく、うち2ページはほぼ画像と見出しのみなので正味2ページほど。2012年 06月号の記事のさらに簡易版といったところです。ほとんどグスタフ二世アドルフについてしか書かれていません。


歴史群像 2007年 02月号 ブレダの開城

出版社: 学習研究社 隔月刊版
サイズ: 雑誌 隔月刊版
発行年月: 2007年1月6日
定価: 1000円

【記事】

[戦史の名画を読む]巨匠ベラスケスが描く敗者への”寛容” ブレダの開城

読書メモ

「ブレダ攻囲戦(1624-25)」『ブレダの開城』についての記事がカラーで6p。 といっても、八十年戦争の前半の通史に1/3、三十年戦争初期の通史に1/3、十二年休戦条約明けからブレダ攻囲戦とその後に1/3といったボリュームです。参考文献もスペイン関連がピックアップされているので、比較的スペイン側からの視点となっています。(『ブレダの開城』だから当然といえば当然ですが)。

スペイン街道やプファルツ侵攻とからめて、休戦明け後の八十年戦争を語っているあたり、通り一遍の通史よりもよりインターナショナルでわかりやすく書かれています。欲をいうなら、軍制改革が本当にさらっとしか書かれていないため、マイナーなこの時代の攻囲戦のイメージがわきにくい部分を詰めてほしかったでしょうか。

補足。最終ページに載っている地図は、1649年または1651年のブラウの地図と思われます。地図内にフレデリク=ヘンドリクの紋章が描かれているので、1637年以降、ブレダ男爵位がナッサウ家に回復されて以降のものなのは確実です。

参考記事


歴史群像 2009年 06月号 ニューポールトの戦い

出版社: 学習研究社 隔月刊版
サイズ: 雑誌 隔月刊版
発行年月: 2009年5月7日
定価: 980円

【記事】

マウリッツ軍制改革の結実 ニューポールトの戦い

読書メモ

「ニーウポールトの戦い」(の英語読み)についての記事が8p。オーダー図も載ってます。 このオーダー図、 別掲の当時の版画図2枚と比較して、著者自身が若干自信なく載せているようですが(「明確な史料が残されていないため様々な解釈があるようだ」と但し書きがしてあります)、どちらかといえば時間経過によって様々なフェーズのものが存在しているので、どこをとったかということになるでしょうか。戦闘の経緯は、大枠でざっくり書いてあるのでわかりやすいです。『戦闘技術の歴史 近世編』はもっと詳細に書いてあるので、先にこの記事で概要をつかんでから読むとわかりやすいでしょう。

また、軍制改革でも「ドリル(反復訓練)」や将校の役割などを紹介し、それが実際の野戦にどう機能したかという流れで説明してあり、説得力のある流れになっています。

参考記事


歴史群像 2009年 12月号 ドイツ三十年戦争

【記事】

上記ニーウポールトの戦いの後、三十年戦争を08号・10号・12号と3つの時代に分けて3回連載で掲載していました。この時期に近世同じライターさんでまとめてたんですね。すべて8ページ。

  1. ベーメンの反乱

  2. グスタヴ・アドルフ参戦

  3. フランスの介入と戦争の終焉

中でも個人的に三十年戦争で最も面白いと時期と考える3回めだけ載せておきます。(通常人気があるのは2回めの時期だと思いますが)

読書メモ

個別の戦いについてはネルトリンゲンの戦い(1634)とロクロワの戦い(1642)が挙げられています。その間にフランス参戦があり、軍事的にはまだまだ発展途上だったフランスが、8年の間にスペインを逆転するという流れになっています。

かといって、三十年戦争も、軍制改革も、スペインの凋落も、フランスの台頭も、特別にドラスティックな出来事ではない、という冷静な視点は変わらないままです。

ネルトリンゲンからロクロワは、ヴァレンシュタインの死(1634)とリシュリュー枢機卿の死(1642)と同じタイムラインですね。この間のパワーバランスの変化が三十年戦争で最も面白いと考える所以ですが、そこに興味をもってもらうための導入として非常に良質な記事です。

参考記事


歴史群像 2012年 06月号 「軍事革命」の時代

出版社: 学習研究社 隔月刊版
サイズ: 雑誌 隔月刊版
発行年月: 2012年5月7日
定価: 980円

【記事】

【西洋戦史研究】市民兵誕生に至る道のり 「軍事革命」の時代

読書メモ

ジェフリー・パーカーの軍事革命(日本語だと『長篠合戦の世界史 ヨーロッパ軍事革命の衝撃 1500~1800年』)をわかりやすくまとめた記事、というのが最初の印象。この本自体はやや難解なため、ここまで噛み砕いて説明してあるのがとても親切です。近世の軍制の変遷について非常にわかりやすくまとめてあります。 ちょっと厳しい言い方をすれば、パーカーの初版が1988年、その後すぐに「軍事革命論」への批判を含むたくさんの議論がおこなわれており、パーカーだけに準拠するのは既に古い見方かと思います。もちろん参考文献はそれ以降のものも挙げられていますが、この記事内では、タイトルそのものも含めてあまり新しい内容は見えてきません。

ただここに挙げられている「火力」の定義はとても良いと思います。物理的な殺傷力のみを指すのではなく、衝撃や恐怖心を与える「手段」を含んだ総合力、という定義です。もっとも、大砲を対人で使用し始めたのもこの時代からなので、殺傷力そのものも大きいことを踏まえてのことです。 相変わらず「ニーウポールトの戦い」の図もありますよ。ちょい大きめ(どこに誰が居る、というのが辛うじて読めるくらい)なのでこれ目当てに買ってしまった。

参考記事


おまけ 『神聖ローマ帝国 三十年戦争 (1)』

歴史群像さんといえば、現在これを連載中!
まさかゾルムス伯がマンガに登場する日が来るとは思わなかった(笑)。
まだ連載も始まったばかりなので、切りの良いところで書評を書きます。(たぶんフリッツ編が終わったあたりで一区切りつくのかなと。)


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