ジェフリー・パーカー『長篠合戦の世界史―ヨーロッパ軍事革命の衝撃 1500-1800年』 ~タイトル詐欺を刷新しての復刊が待たれる近世軍事史のバイブル
Geoffrey Parker, The Military Revolution: Military Innovation and the Rise of the West, 1500-1800
…の日本語訳版です。近世ヨーロッパの攻城戦・常備軍の創設など、ルネサンス以降の軍事革命を描いた名著。図版が多いのも嬉しい。表紙(『武器教練』オランダ語版の表紙)もお気に入り。
著者: ジェフリ・パーカー /大久保桂子
出版社: 同文館出版
サイズ: 単行本
ページ数: 294p
発行年月: 1995年07月
定価: 3900円
出版社: Cambridge University Press; 2版
サイズ: ペーパーバック
ページ数: 285p
発行年月: 1996/4/18(初版は1988年)
出版社定価: £19.99
読書メモ
内容は、ロバーツの「軍事革命」で言及されていなかった部分について発展的に論じたものです。「軍事革命」の影響のなかった地域への言及、海上の「軍事革命」による世界規模での戦争、それに伴うアジア(非ヨーロッパ地域)への波及などです。著者の代表作のひとつ、フランドル方面軍やスペイン街道についての研究書ののちに書かれたものでもあるため、攻囲戦や兵站などをより重要視しているのもみどころです。(ロバーツの論文は以下のディベート集に収録。)
またどちらかというと比較的マイナーな側により紙面を割いているのが特徴と思います。攻撃よりも防御、徴兵よりも脱走、などなど。かなり多角的なアプローチといえるでしょう。ただし、1400年-1800年までの各国の出来事がランダムに次々登場するなど、世界史のかなり広範な知識が必要で、決して「入門書」のレベルではありません。
なお、日本について言及されている部分については、原書初版の1988年ということを考慮しても疑問の残るところです。信長の三段斉射(長篠の戦いで使用したとされる。そもそも現在「長篠の戦い」とすらいいませんよね)は、日本史においては既に疑義が呈されているものであり、日本に関する部分については、やはり日本人研究者の著作を参考にされたほうが良いと思います。
しかし正直これは出版社に物申したい。この原書が出た後に「軍事革命とは」「軍制改革とは」等の議論が活発になったある意味基本の古典です。なのでタイトルはバシッとジェフリ・パーカーの『軍事革命』でいいですよ。下手に「長篠」なんてつけてしまったからか、西洋史からも日本史からも顧みられない色物扱いぽくなってしまった。もっとも、Cambridge Universityの原書も、電子化もまだで、お世辞にも入手しやすいとはいえない状態です。
関連書籍
パーカー「後」に書かれ、その後邦訳された関連書籍として2冊。
火器の誕生とヨーロッパの戦争
1997年刊。邦訳は割とすぐで1999年初版。2023年に文庫になっています。
近世ヨーロッパ軍事史 ルネサンスからナポレオンまで
2003年刊。邦訳は2013年。原書はイタリア語なので、日本語で読めるのは非常にありがたい。
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