自転車とおじさん
公園のグラウンドで子どもたちに自転車の練習をさせていたら、どこぞの知らないおじさんが娘に向かってぱんぱんと手を打ちながら
「はい! はい! 頑張れ! 走れ!」
と声をかけ始めた。
え、馬を調教するみたい……と困惑しつつも、わたしの顔はマスクの下で自動的に愛想笑いを作り、「あーどうも」等とてきとうな言葉を発しようとした。
しかしそれより早く、娘が自転車をこぎながら
「うるさい、やめて! しずかにしてよー!」
と言い放ったので、わたしの作り笑顔はそのままフリーズした。
幸いおじさんは気を害する様子もなく、
「うるさかったよなあ、ははは」
と笑っていたけれど、ムッとされて逆ギレしてこないかとヒヤリとなった一瞬だった。
でも考えたら、女っていつもこんなことばかりだな。
集中して自転車の練習しているときに、どこぞのおっさんに突然求めてもいない指導をされたって迷惑だよね。
娘の反応が最も自然なのだよね。
それなのに、とっさに卑屈に迎合しようとした自分がいた。
もちろん、自分たちを守るためではあるけれど。
娘には、「他人に『うるさい』って言っちゃいけないよ」と教えたけれど、そして今後も安全のための処世術を教えてゆくわけだけれど、本当は、そんなことしたくない。
うるさいものはうるさいし、失礼だ。
娘は動物じゃないしあんたの子でもない、それに集中して練習していたのだ。子どもに気を遣わせるな。
しかし世の中、理不尽な怒りから犯罪に巻き込まれ命を落とす女性や子どもが後を絶たないから。だから。
あと何回生まれ変わったら、女性や子どもが男性並みに自由に振る舞える世の中になっているかな。
ちなみにおじさんは、夫と息子の方には声をかけなかった。
そういうことなんだよね。
撮る人を撮る人を撮るちりちりと午後の陽射しに髪を灼かれて 柴田瞳
「きみはフォトジェニック」より
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