柴田 瞳
短歌の連作や寄せ集めなど。 既発表、未発表混在です。
柴田瞳の短歌つきエッセイ・コラムです。
レビューです。心さらわれた書籍や映画などについて。一首評から歌集評まで、短歌にかかわるものも含みます。
写真に散文を添えた「微熱手帖」シリーズ。エッセイだったり、いつかの夢だったり。 写真は自分で撮ったものに限定しています。
一般にギャルのチークは濃いもので「紅ほっぺちゃん」と呼ばれるあの子 午前中のタスク手早く片づけて湘南ギャルは仕事ができる 喫煙のたびにするっと消えるけどヤニ臭くないギャルの金髪 「今、話せますか?」とギャルに呼び出されいそいそ向かうコンビニの裏 マイカーにサーフボードをくくりつけ海へ走った話、またして 恋人のことを「向こう」と呼ぶギャルの引き継ぎ受けている金曜日 わたしから連絡先を訊いたけど毎日LINEくれてありがと 諸々の雑事をすべて放りだし湘南ギャルと海へ行
カーテンはゆるくはためき僕たちに終わりの音を聴かせてくれる 僕のほうがおかしいですかマシュマロは投げるものではなく食べるもの 営みのたとえにされて欠けてゆく月を見ながら飲む青いお茶 朝焼けは誰の憂鬱 のぼりゆく日に照らされて飲む赤いお茶 うつむけばWindowsのガジェットが教えてくれる「雨はやみます」 僕のほうがおかしいですか「ちなみに」の「みに」を略して「ちな」と言うひと もう無理と思えば無理で泣きながら未熟な語彙のかぎりを尽くす アクリルのマフラーさっと巻
心なき身にもあはれは知られけり鴫立つ沢の秋の夕暮れ 西行 かの有名な三夕の歌のひとつが詠まれた鴫立沢。 比較的近所にあると知りながらなかなか訪れることのできずにいたのですが。 行ってきました。 気持ちのよい5月の日に。 夫とふたりで。 大磯駅から少し歩くと、突然広がる異空間。 そこだけ空気が浄化されているような世界。 鴫立庵の庭をめぐる。鳥の声がすごい。 投句箱があったので、即詠して投句してきました。 我らみな生活者なり鳥の声 瞳 夫も投句したのはちょっと
水だけで動く最新ロボットが中途半端な未来から来る ああそれは予定調和のパラドクス押してはいけないボタンが押され 友達がいなきゃ創ればいいじゃない わたしがんばる、科学者になる 壊れたと嘆くあの子を直すため全速力で大人になろう そう、わたし何を隠そうきみの母 きみをつくったお母さんだよ 未来でもバンドやろうぜドラマーがロボットなんてうちら最強 壊れてもいいよわたしが直すから青いあの子も助けてくれる ありがとう未来で先に待ってるよシュークリームを頬張りながら
光化学スモッグ警報美しく娘の髪を編みあげた日に 形見分けだねと笑ったピスタチオ色の自転車まだありますか 幸福を詰めこむためにワゴン車の後ろのドアは跳ね上げられて 引力の異なる星できらきらと高速回転する観覧車 わたくしは元気ですからあなたもね哀しい映画もう観ないでね 夕闇に溶けゆく影を呼びとめて忘れるために手渡す言葉 光にも影にもなれず生きてゆく選ばなかった世界の隅で
娘の「チャレンジ1年生」をタブレット学習の「チャレンジタッチ」に切り替えたのが、今年5月。 保護者にメッセージを送れる機能があり、元来お絵かき好きの娘は毎日せっせと端末でお絵かきしては、めちゃめちゃ和むイラストを送ってくれていた。 こんな感じ。 そのうち、親子ともども大好きなPerfumeを描くようになってきた。 ↑見る人が見ればわかる、ペプシコーラあ~ちゃん。 画力も上がってきたし、この先も長く描いてゆくならスキルを磨いたほうがいい。 情報技術に触れるのに7歳で早す
こんにちは。 遠い場所でお健やかに過ごしていらっしゃることと存じます。 山本先生と出会ったのは、大学に入学した18歳の春でした。 大学生協の書店で山本文緒フェアが組まれており、その中の何冊かを買って帰ったその日から、わたしはあなたのファンです。 あまりに洗練されたセンス、あたたかで複雑で情けなくて愛おしい人間を描写する類まれない力、唯一無二の世界観。ページをめくるたびに圧倒されました。 このひとの本は全部読まなければいけないぞ、と本能が騒ぎたて、少しずつ買いそろえてベッド
夫のガールフレンドのことを知らされているあいだ、ンケムは、居間のマントルピースに飾られたベニン王国時代の仮面の、隆起した、切れながの目をじっと見ている。 「イミテーション」冒頭より そもそもナイジェリアとはどんな国だろう。 その国名を思うとき、奴隷貿易とか民族紛争といった不穏な言葉たちが浮かんでくる。 そもそもアフリカの国々と文学とのイメージがしっくり結びつかない。 あらためてWikipediaで確認する。 "ナイジェリア連邦共和国(Federal Republic o
はじまりよ 子どもを胸に抱きながらサルビア燃える前世を捨てる なんて美しく、悲しい決意に満ちた歌なんだろう。 この歌集には、濡れた手で魂に触れてくるような言葉たちがおそろしいほどの美しさと生々しさで切り取られている。 不安定な子ども時代。母に対する仄暗い思い。娘を生み育てる母としての自分。 あまりにもわたし自身の境遇や背景との共通点が多く、読みながらしばしば「これはわたしのことだ」と思った。 そして、たびたび出てくる前世というキーワードにじわじわと心を炙られる。しんどかっ
たましひは冷え冷え昏くハマシーンをさまりし夜の露天喫茶に 加藤孝男 エジプトには、ハマシーンと呼ばれる砂嵐がある。二月から五月くらいの間にやってくる黄砂のようなもので、町中をオレンジに近い黄色の砂で覆ってしまう。ハマシーンとは「50」という意味で、1年のうち50日くらいの期間、この砂嵐がやってくると言われている。室外にこもり窓をしっかり施錠していても細かい砂粒が入りこんでくるというくらいだから、外出などしようものなら目にも鼻にも口にも耳にも容赦なく砂は襲いかかる。
今年も梅酒がおいしくできた。 といっても忙しくてとても梅仕事をする余裕などなく、義実家が作ったものをお裾分けいただいたにすぎない。 ロックで飲んだり、炭酸で割ったり、レモン果汁や蜂蜜を足してみたりして存分に楽しむ。 そういえば昔、梅酒の連作を作ったぞ? と引っ張りだしてきたものをそのまま以下に掲載する。 なお、5首目は高柳蕗子さんの歌書『短歌の酵母』(沖積舎)にて引用いただいている。 梅酒と生きる (「かばん」2010年9月号掲載) 青梅に千枚通しを刺すごとく人の心
ずっと我慢していた体の不調があった。 重い腰を上げて病院へ行くにも、逆にコロナをもらって帰ってきたらと不安があった。死に至る病じゃないしな、と。 しかしとうとうのっぴきならない状況になってきたため、夫の勧めもあって重い腰を上げることにした。 まずは市民病院へ電話をかけてみる。 「えっと、こういうのは何科に行けばよいでしょう」 「皮膚科でいいと思いますよー。紹介状がないと5500円追加でかかってしまいますが、大丈夫ですか?」…… 「はい、それは(やむを得ない……)」 「それじ
ある界隈のSNSで仲良くなった方から、「実は秘密のブログがあるの」と打ち明けられた。少し年上の女性である。 誰にも気兼ねせず自分の半生について赤裸々に語っているの、だいぶどろどろしてるし重いけど、表で書いてるものよりずっと多いpv数をたたき出しているの、と。 「でもなあ、読まれたら嫌われちゃうかもしれないな~」 読んでほしいのか、読まれたくないのか。いや、読まれたくないならそんな、宝箱の内側を見せたくてたまらない子どものような陶酔をにじませた口調で言わないだろう。 そんな
先月の、皆既月食とスーパームーンが重なったあの日、ひとつ歳をとりました。 思えば2012年、挙式前に夫と結婚指輪を用意しているタイミングで金環日食があり、ドリカムの歌詞みたい……と痺れたものでした。 自分の唯一の歌集のタイトルも『月は燃え出しそうなオレンジ』ですし、何かと月には縁があるように感じます。 ごりごりの文系だけど、幼い頃から宇宙には惹かれてやまないのです。 「月」を(the moonの意味で)詠みこんだ短歌を探してみたら、ぱっと見つかるのはこれだけでした。 歌集に