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違和感の余韻 -その1

天皇陛下がこの街にいらしたとき、
精進料理の提供を依頼されたお店がある。
10人入ると満席になる、小さな小さなお店だ。

一緒に行ったA氏は、メニューを見ながらこういった...。

「なぁに、ほとんど時価じゃないの...」
「ん? おからがあるのか...」
「モチガツヲもあるじゃぁないの...」
「そんじゃ~、まずは おからから行くかな...」

「ニヤッ...」と意味深な笑みを浮かべた彼の目は、
完全に「プロの目」だった。

運ばれてきたおからをほんの少し箸に乗せ、
ぐるっと眺めて、においをかぎ、目を閉じ、
舌に乗せる...。

私の「おから」に対する認識といえば、こうだ。

「どうせ豆腐のカスでしょ?!」
今まで買ったこともなければ、食ったこともない。

そういう代物を、彼は黙って味わっている...。

ゆっくりと舌を動かし、眉間にしわを寄せ、
左右の眉を上下に動かす...。

「・・・・・・・」

とてつもなく深遠な世界に浸っているようだ。

私はただ、上下に動く眉を眺めていた...。

ゆっくりと開かれた瞳が、真っ直ぐに私に向かう。
その視線に驚き、鳥肌が立った。

彼は完全に本気モードだ...。
何を言うのか、のめり込んで、待つ。

彼は、
「美味い...」といって、もう一度おからに向かう。

さっきよりほんの少し多めに箸に乗せ、
口に運ぶ。

そして、「お前も食え」と、顎で促す。

私は彼の真似をして、少量のおからを箸にとり、
口に運ぶ...。

数秒後、私は、真っ直ぐに彼を凝視した。

「ニヤリ...」と笑みを浮かべた彼は、
「だろっ...」と微笑んだ。

その-2へ続く...


冒頭の画像は、taketaketjさんのものをお借りしています。
ありがとうございます。