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NY出張と「推し」と出会う前に私が「推し」について抱いていた偏見

NYへの出張に行ったのは、2020年の2月の最後から3月の最初だった。その1週間後にコロナ騒動が始まり、ロックダウン。本当にギリギリセーフの旅だった。自分がプロデューシングパートナーのボブとジョンと一緒にプロデュースする予定の作品のアダプテーションライツをNYの某会社にとりにいった。つまり、使いたいキャラクターの権利を「これこれこう言う映画にしたいので、貸してくれ」って言いに行ったのだ。とりあえず、企画が走る前で、三人とも自腹でNYまできた。私はたまたま夫の叔父がブルックリンに住んでいるので3泊させてもらった。叔父は故郷に短期帰国していたのでゆっくり使わせてもらった。

NYには日本の大学からの友達S子が住んでいた。月曜日のミーティングの前に週末からNYに来ていた私は日曜日に2本ミュージカルを見て、その合間にS子に会うことにした。LAとNYは東京からソウルよりも全然遠いので、同じ国とは思えないほど遠く感じる。時差も3時間もあるし。まあ言い訳はさておき、S子とは10年くらい全然連絡とっていなかったし、会うのも10年ぶりで、なんとなく、1時間くらいで大丈夫かなと思った。なので、マチネの前にちょこっと会った。彼女との会話は思いの外楽しく、話も弾んだ。27歳で渡米した私は青春時代の友達を全部日本に置いてきてしまった感がある。27歳から20年あまりLAにいて外国人と結婚して2人の子供を育て、それなりの社会活動があり、それなりに友達もいる。ただ、気のおけない友達って何人いるんだろう。27歳までに作った友達の方が普通は気のおけない一生の友達としてつながっていくと思うが、20年も外国にいると感覚がどんどん日本にいた時のそれと変わってしまって、もう友情を育む事は難しいのだ。そんな中S子との再開は驚きだった。実に楽しかったからだ。S子とは実は小学校の時からペンパルで付き合いは長い。大学時代も同じサークルだし、もっと仲良くなっても良かったけど、それなりの関係だった。彼女は昔から宝塚の人などに入れあげていて、ファンミ行ったり出待ちしたりとガチのファン活動をしていた。私は昔から特定の芸能人等にに入れあげる事はあまりなかった。久しぶりにあった彼女とは会話も弾んで、NYをちょこっと歩きながら演劇の話や生活の話などを前のめりに話した。ママ友や仕事関係の人との会話ではそれなりに気を使うし、自分が言ったことを相手がどう受け止めるかを気遣いながら話すことが多い。会話中や会話後に感じるモヤモヤがなく、ただただ会話をすると言う作業が実に久しぶりで、時間はすぐに経ってしまった。そして、翌日も二人で野田秀樹さんのやっていた演劇を見にいくことにした。軽く食べて劇場に向かったが、その後やはりまだ話し足りなく、またちょこっと飲みに行ったりした。その時彼女は羽生結弦さんが好きだと言った。それも尋常でない推しぶり。彼を追いかけて各国の大会に跳び、最近ではノルウェーだかスウェーデンだか忘れたけどスカンジナビアのかの国へ行き、しかもストックホルムとかそう言う大きな街じゃない聞いたこともない郊外にある競技場に行き、一人でチケットを買い何日も羽生くんの練習から本番まで全て見て帰ってくる。稼いだお金をつぎ込んで推し活しているのだ。しかも彼女が元来NYにいる理由というのは女優志望(多分舞台のだと思う)だからなのであって、仕事はバイトみたいなものなのだ。法律事務所で働いていると言っていたから時給も別に悪くないんだろうけど、フルタイムじゃないしマンハッタン物価高いし生活楽じゃないだろうと思った。しかもその推し活めちゃくちゃお金かかるんじゃないかな、正直尊いなと思いながら彼女の推しに対する情熱を聞いていた。「腐女子のつづ井さん」だって読んだし、作者のつづ井さんのツイッターもフォローしているから、推し活については心得ているつもりだった。ただ目の前に実際に自分の生活のほとんど全てを推しに捧げている人を目の当たりにして、ちょっと正直ひいたけど、私のポリコレスイッチが作動して「あ、頑張って彼女の気持ちを理解しなくては」と頭をフル回転させた。正直全然気持ちがわからなかったけど、それでS子が幸せなら、推し活動をするべきだと思った。見守りたいと。

それからすぐにコロナの感染が広がり、子供の学校が閉鎖し、生活が一変した。毎年行っている夏休みの東京への旅行や、いろんなことがままならなくなり、仕方がないので、子供達の長い長い夏休みにはアメリカ国内色々なところにキャンプとかに行く羽目になったりしていた。その間S子とはたまにテキスト送ったりして近況を確かめ合ったりしていた。

クリスマスが近づく中、友人のデボラが今「Clash Landing On You」というネフリのドラマ面白いよと言う連絡がきた。デボラはアジア人の男の子が好きなので、アジア系の作品を良く見る。私は逆にアジア人男性にはあまり興味がないし、アジアのテレビ番組はプロダクション・バリューが低いので見てられない(すごい偏見)と思っていたので、全く興味なし。そもそも、私は他にも見なくちゃいけない作品が山ほどあって、ボブもしょっちゅう、ネフリのこんな作品と言って例に挙げるので、その作品に目を通したりしなくてはいけないのだ。韓国ドラマ見てる余裕ないな。そもそも日本のドラマならまなしも韓国のドラマは仕事に全然関係ないしな、と思って無視してた。ただ、デボラは実にしつこい。しつこくしつこく、主演の男の子がキュートだのなんだの言ってくるのである。年末年始はロードトリップ旅行があって色々バタバタしていたが、戻ってきてからまた巣篭もり生活が始まって鬱々としていたので、まあ、見てやるかと思い「愛の不時着/Crash Landing On You」を身始めた。北朝鮮の描写に少し戸惑いを覚えた。だって北朝鮮の人たち食べるものないんだよ。こんなにいつも食べてばっかで、幸せそうにしてるかな、なんて思っていた。1−4話くらいまで飛ばし飛ばし見ていった。気がつかなかったが5話は丸々飛ばして見てたらしい。6話からいきなりハマった。もう真っ逆さまに落っこちる感じで食い入るように身始めた。デフォルトになっていた英語字幕で見ていたけど、日本語吹き替えに変えた。主役を演じるヒョンビンの喋る姿を1秒でも長く見ていたいと思った。もう一回日本語字幕で見直した。5話丸々見ていなかったことを感謝した。まだこの世界にいられる。そしてもう一回リ・ジョンヒョクさんの出ているシーンを見直す。全部で3回寝る間も惜しんで見続けた。毎日彼のことを考え、会えないことに切なくなって、終わった後に何日も塞ぎ込んだ。こんなロスはファーストガンダム以来。でも彼のことを考えるのがどこか嬉しくて、ピンタレストで夢中で写真を集めたり、主演のヒョンビンの過去作品を貪るように見たり、最終的にはツイッターで専用アカウントを作って推しのことだけ呟くと言った推し活動もあることを発見。毎日会ったこともないヒョンビン推しと画像交換やちょっとした会話を楽しむようにまでなった。不意にS子を思い出した。今なら彼女の一挙手一投速が良くわかる。あの羽生くんにかける情熱とときめき、これは恋なのだ。まさしくフォーリンラブ。推し活は人生の潤滑油、尊いな、と思う。

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