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ポラライズドトレーニングを3年弱試してみた結果

※今回の記事は無料で掲載しております。
ポラライズドトレーニングの普及のためにもURLおよび内容のシェアは自由にガンガン行ってください。
ただ、引用元が当ブログであることをわかるような形でシェアしていただきますよう、お願い申し上げます。

前回の記事では ロードバイクにおける
Polarized training(Polarized、ポラライズド)について、考え方となぜ効果的か、そして実践に際してどのような注意点があるか、エビデンスを引用し、なるべく詳細に述べました。

第二弾となる今回は
Polarizedを3年弱試してみた結果
と題して、コーチ自身の体験談をご紹介していきます。

もちろん、私個人は Polarized trainingひいてはインターバルトレーニングが日本の自転車界を、あるいは世界そのものを救うと本気で考えております。

が、あくまで今回ご紹介するのは私の体験談に過ぎず、全ての人に当てはまるわけではなく、効果を保証するものではない、という点を予めご承知の上、一つのエンターテイメント程度にご覧いただければ幸いです。

また、今回はエビデンスの引用は最小限に留めた比較的読みやすい記事にしてあります。
Polarized trainingについて科学的根拠を基に学びたい方は前回の記事をご購入いただければ幸いです。



なお、コーチがPolarizedを始めたのは2020年秋頃のことですが、当時使っていたパイオニアサイコン→2021年夏にGARMINへと乗り換えた後、シクロスフィアのデータを消失したため、現存するのは2021年夏以降のデータになります。あらかじめご了承ください。

また、インターバルを商品としている職業柄、どうしても誰にも公開できないログがあります。
ここ数年は週1回ほど、新作・旧作さまざまなインターバルを固定バイクで実施していることがほとんどですので、実際にはここでご紹介しているデータよりHIITつまり高強度の比率が高くなります。こちらもご了承の上、ご覧いただければ幸いです。

コーチの背景


その前にまずは私が置かれた状況、そして
「なぜ Polarized trainingを試そうと思ったか」
についてお話しておきましょう。

ある程度、私のインスタやこのnoteをご覧いただいている方はご存知かと思いますが、
私は2017年夏にオーバートレーニング症候群(以下OTS)に罹患しました。
早い話が「トレーニングを極度にやり過ぎて体がぶっ壊れる」という病気です。

これが様々な症状を呈したおかげで自転車どころではなくなり、

FTP 4.5w/kg→2.2w/kg

と、パフォーマンスが急降下してしまいました。わずか1ヶ月程度の出来事です。

OTSについてはこちら


その後、症状は快方へ向かい半年程度でかつてのパフォーマンスを8割ほど取り戻したものの、2018年夏にOTS再発。振り出しに戻ります。

この時のトレーニングは

・SST週2
・週末はロング+SST15-30分を何本か


という、日本におけるパワートレーニングではありふれたもの。

ワークセットが長いことで「やった感」は得られますし、そこそこのレベルまではパフォーマンスも戻せるものの、OTS明けで本調子ではない体は毎日クタクタで本当に「自転車に乗るのが嫌だなあ」と思っていた時期でした。

そんな中で漫然と練習を続けつつも、自身のパフォーマンスを取り戻すために科学的根拠に基づいたトレーニングを学ぶ日々が続き、2019年にNSCA:CSCS(筋トレとか様々なスポーツ指導の資格)を取得。
プロとして選手にトレーニングを指導する立場となったことで、種々のメニューとそれらの緻密なバランスを探る必要性が生じ、エビデンスの収集により時間と労力を費やすように。

ここからインターバルトレーニングの有効性に気づき魅了されるまでは一瞬で、トレーニング全般の勉強をしていたはずがいつの間にかインターバルのことばかり研究するようになっていきました。

選手たちに研究に基づいて作ってみたインターバルを強要する傍ら、自分自身でも試さずにはいられず、毎週、インターバルを実施し月日は流れます。

そうしてじわじわと実力を取り戻していくに連れ「インターバルを軸にトレーニングプランを組んでいったら上手くいんじゃないか?」と考えるようになりました。
そこで、かつて学んでいた Polarized trainingの概念をもう一度復習し、自身で長期間試してみよう、と思い立ったのが2020年10月頃のことでた。

今年で自転車歴も15年。
トレーニングを開始して間もない方より伸び代はずっと少ないと思われるコーチのパワーはどのように成長したのでしょうか?

Polarized開始前のコーチのデータ

早速、パワーデータの変化をみていきましょう。
まずはPolarized開始して間もない頃のMMPから。
(下部に見やすい比較画像あり)

・2021年7月(42daysに注目)





残念ながらお世辞にも強いとは言えません。
まさに自身は選手を引退した後のコーチという印象のデータです。

この時は2020年夏に痛めた仙腸関節のリハビリが終わり、再発防止のため半年ちょっと筋トレを集中して行っており、Polarizedを意識しインターバルとLSDで進行しつつも、そこまで自転車に乗っていませんでした。
短時間のパワーだけやたらと出ているのもその影響でしょう。

>5minのパワーがちょっと可哀想なくらい低いのは Polarizedしており、SSTやワークセットが3minを超えるインターバルをほとんど実施していないことも関係していますが、例えテストをしたとしてもそう高い数値は出なかったでしょう。

Polarized開始2.5年後のデータ


・2023年6月(42daysに注目)




ご覧の通り別人になりました。

このままでは見づらいので比較画像を。

15min,20minに関しては全力で踏む機会がなく、参考値程度にご覧いただければと思います。10minパワーから推察するに、きっちりテストすればあと少しは出るはずです。

実はこの2年半の間に7kg程度のダイエットにも成功していることから、PWRの上昇はとりわけ目を見張るものがありますが、絶対値もしっかり上がっており、単に体重が軽くなっただけではないことがわかります。

超短時間(<15sec)は残念ながら低下していますがこれは現在、本格的な筋トレを中止して時間が経っていること、ダイエットでどうしても多少は筋量も落ちてしまったことが関係していると思われます。

ですが、その他は全体的に目覚ましい上昇を見せています。
100w近くアップしているゾーンもあり、少なくともインターバルを語る者として恥ずかしくはない程度の数値には達せたと考えています。
今なら自信を持ってコーチを名乗っても良いでしょう。
そうです、私がクソコーチです。

具体的に何をしたか?


30sec-15minまで幅広い領域でパワーの上昇が観察されているものの、この2.5年間はほとんど
「LSDかインターバル」しかしておりません。


特に「何分の出力を上げたいから同じ時間踏む!」というアプローチではなく、VO2maxをはじめとした生理学的パラメータを向上させるため、散々このnoteでご紹介してきた概念に基づいて作成したインターバルメニューを実施してきました。

少しくらいは登りに適応しようとSSTを踏んだ時もありましたですが、実走・ローラー併せておそらく10回もないです。
10分パワーもそこそこには出ていますが、FTPインターバルなどは全く行わずぶっつけ本番のTTで出した数値です。

それでは実際の練習強度配分をみてみましょう。

・2021年6月-(Power zonesに注目)

Z1 + Z2 + Z3=76.5%
Z4=9.3%(SST=12.3%)
>Z5=15.6%



・2022年(Power zonesに注目)

Z1 + Z2 + Z3=84.2%
Z4=6.1%(SST=10.6%)
>Z5=9.7%


※公開していないインターバルのログが存在するため、実際の>Z5での練習量はわずかですがこれより高めになります。

※前回の記事をご覧いただければわかるかと思いますが、 Polarized trainingにおける「低強度」は意外と強度が高く、Z3の中間くらいまでに至る場合もあります。
私の場合はテスト結果と実際に練習していく過程でSST下限程度までは低強度として扱える可能性が高い、と判断しそれに準じてトレーニングを実施してきたため、実際の「低強度」はZ3まで、「中強度」はL4付近、と定義しています。
ICUの強度バランス判定でPyramidalとなっているのはそういうことです。
あくまで私の場合は、ですので「低強度」の詳細な定義に関しては前回の記事をご覧ください。

※ログは取っていませんが、実は筋トレの指導者でもあるため、これらの自転車トレーニングの他、筋トレを毎年それなりの期間(6-9ヶ月程度)行い、フルスクワットで体重の1.5倍程度(90kg前後)の重量を少し余裕を持って上げられるレベルの筋力は維持しています。

このように、あくまで低強度:高強度=8:2にすることを目的とするのではなく、高強度インターバルを最優先で実施し、余剰体力で乗り込みを行う、ということを第一に進行してきたため、割とアバウトな強度配分になっています。

低強度は基本実走で乗り込み(雨の場合Zwiftで)、途中の短い坂などはL4に入っている時間もあったため、中強度の少し割合が増えたのでしょう。

高強度はもちろんほとんどがインターバル。
その際のアップでL4付近で数分だけ踏むのをお決まりにしていた時期があるため、それもパーセンテージの増加に影響したのでしょう。
L1が割と多めな点もまた、インターバルのレストセットが関連していると思われます。

なお、2022年は途中からインターバルの実施回数を減らし、違う形で高強度に挑む日が増えたことで>Z5の滞在時間が減っているというのもあります。

厳密にはPolarized trainingとは微妙に強度配分が異なるため、研究として扱うには精度が不十分ですが、個人でやるならたぶん割とこんなもんです。
あくまでも強度配分は目安であり、個人差があるので有効性を損なわない範囲で調整して良いものと考えています。

徹底しているのは「意図して中強度、つまりFTP付近での練習を行わない」ということです。

SST至上主義を見直そう


かと言って、SST,FTP付近でのトレーニングを完全に否定する訳ではありません。

前にも述べた通り、ある程度の体力レベルまでは有効性も高いトレーニングですし、比較的一定勾配のヒルクライムなど、淡々と同出力で踏み続ける状況に慣れるためには良いメニューです。
実際、私も狙っている峠でTTを行う際は前もって同じくらいの時間、FTP程度を目安に踏むこともあります。

が、かと言ってオールシーズン、1年間を通して毎週のようにSST-FTPで踏む練習が必要とも思いません。

FTPがVO2maxパワーを超えて上昇することはまず考えにくいですし、SSTをずっと踏んでいるだけでVO2maxが高いレベルに達する可能性も高くはありません。
繰り返し申し上げるようにここを高めなくては未来はないですし、VO2maxを高めるためにはそれなりの量の辛いインターバルを行う必要もあります。

また、先ほどチラッと申し上げましたが筋トレは最早、自転車競技においては不可欠なものと考えており、私自身も出来る限り取り組んでおります。

前回ご紹介しました Polarizedでパフォーマンスが向上する、と報告している研究においても「選手が練習の一部としてストレングストレーニングを行っている場合、研究期間中も継続するように指示した」との記載がされており、研究者の間でも持久性競技者における筋トレの重要性が認識されている、と捉えることもできます。(1)

単純に筋トレはフィジカルを高めてくれますし、体が強ければより多量の練習に耐えることが出来るため強くなる確率も上がる、と考えることもできるでしょう。

しかしながら、VO2max向上のためのインターバルもフィジカルを強くする筋トレも多くの選手にとっては大変ハードなメニューです。
とりわけ、筋トレに関しては大人になってから自転車を始めた方では、一度も本格的に取り組んだことがない、という例も多くみられます。

どちらもある程度の期間(2-6ヶ月)を費やさなければ満足に高めることが難しい体力要素である上、当然ながらVO2maxの向上と筋力の上昇の両方に同時にアプローチすることは通常、どちらにも慣れていない選手では困難です。

むしろ、インターバルあるいは筋トレに慣れていない方が新たに開始する場合、他の練習の強度・時間を減少させ、体力を過度に消耗しないようにしなければなりません。

筋力を高める時期も、VO2maxを高める時期も作る。その上でFTP付近での走行に慣れる。VO2maxが向上していればそうしているうちにFTP自体も上がる...

年中SSTばかり踏むより、こちらの方がずっと合理的で健全ではないでしょうか?

練習時間が少なくても Polarizedして良い?


Polarizedに関して

「練習時間が少なくても効くの?」

という疑問がよく選手たちからも聞かれます。

元々、Polarized自体がプロ選手の練習強度配分が低強度:高強度=8:2程度であることに着目して考案というか話題になった節もありますので、割と核心を突いた質問ではあります。

ですが、少なくとも今回の私のケースでは練習時間が少なくてもPolarizedは有効でした。

先述のオーバートレーニング症候分(OTS)の影響がまだ残っているせいか、練習量を増やしすぎると露骨に睡眠への影響や動悸が生じてしまうほどの弱小生物クソコーチ。

そのため、今日に至るまで
週あたりの練習時間は5-7時間
です。(筋トレを除く)

本業の休日も週2日はあるのですが、乗り込み(3-4時間程度)を行うのはうち1日だけです。

あくまでコーチはレースに出ることは数年に一度程度で誰かと競うのはたまに参加するグループライドの終盤だけ、ただ辛いことをしたいのと過去の自分を超えたいだけという特殊なモチベーションの持ち主のため、ビッグレースやエンデューロ等、長時間にわたって安定したパフォーマンスが要求される選手ではもっと練習量を増やす必要はあるでしょう。

また厳密な区分ではPolarizedではなくHIITな強度バランスに該当する可能性もあります。
が、これはコーチの生命力が非常に低いために生じた結果であり、高強度インターバルを優先的に実施し、余剰体力で低強度の練習を行う、という コーチ流のPolarizedの考え方に基づき練習を進行した結果、5-7時間という少ないトレーニング量でも効果があった、というのは事実です。

大前提「正しくインターバルが行えること」


ここまで私の実例をご紹介し、Polarizedのススメを説くと共に、練習時間が少なくても効果的な可能性を軽く示唆してきました。

しかし、あくまで今回の成功例は「インターバルで正しく生理学的要素を刺激できること」を前提として成り立っています。

1-10minパワーの顕著な向上がみられたのも、インターバルで向上させたVO2maxをパフォーマンスに結びつけることが出来たおかげです。

これも全て正しい強度で、十分な量と頻度のインターバルトレーニングを行えたからこそ得られた産物なのです。
ここを上手く行えなければPolarizedの恩恵を十分に享受することは難しいでしょう。

そこで!
このnoteでは過去にインターバル(Short,Long)の生理学、有効性と題してエビデンスに基づいたインターバルメニューの作り方についてご紹介しております。

有料記事ではございますが、お金を払ってご覧いただいても恥ずかしくない内容と自負しております。
ぜひそちらをご参照・ご活用いただき、  Polarized trainingで強くなっていただければと思います!!

もっと近道をしたい方、コーチングのご依頼はいつでもインスタのDMからご連絡ください。

今回も最後までご覧いただき、ありがとうございました!


参考文献

(1) Polarized training has greater impact on key endurance variables than threshold, high intensity, or high volume training

Thomas Stöggl, Billy Sperlich
Frontiers in physiology 5, 33, 2014

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