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ポラライズドトレーニングについて(考察と実践)

富士ヒル、ニセコとロードバイクに乗られる方にとってはビッグイベントの多い6月。
目標を見事達成された方、残念ながら及ばなかった方、様々な感情を抱きながら既に来年、あるいは11月に向けたトレーニング計画を練っておられることでしょう。

今回はそんな今だから役立つかもしれない

「Polarized training(ポラライズドトレーニング、以下Polarized)」

の概念を研究に基づいてひと記事使いご紹介します。
さらに次回は3年間にわたってPolarizedを実施した際にどのような変化が起こるか、コーチ自身の体験談をお話しします。

価格がいつもより高めですが、そのくらいの気迫で書かせていただきました。
ぜひご覧いただければ幸いです。

Polarized trainingとは


まずごく簡単にPolarizedを説明しますと、

「中強度でのトレーニングをほとんど行わず、大半を低強度で過ごし、その他の時間は高強度トレーニングに費やす」

という強度配分でのトレーニングを指します。

Polarizedを考えるにあたってはトレーニング強度を3つに区分し、

Z1:低強度(BLa <2mmol/L)
Z2:中強度(BLa 2-4mmol/L)
Z3:高強度(それ以上)


と、主にBLa(血中乳酸濃度)を基準した定義が一般的なようです。(1)

当然、ご家庭で血中乳酸濃度を計測することは通常困難ですので、自転車でこれを実践する際には過去の研究をいくつも参照し、これらに相当するパワー・心拍数を割り出して強度設定を行う必要があります。

Polarizedでは先ほど申し上げたように
「練習時間のほとんどを低強度、残りを高強度に費やす」
ことが重要となってきますので、通常は

低強度-中強度-高強度の割合を
・77-3-20%(2)
・80-5-15%(3)
・75-5-20%
(3)

など、小幅な差はあるものの概ね8:2程度で行っていくことになります。
反面、中強度でのトレーニングは全体の5%以下と非常に少ない割合にとどまります。

後ほど詳しく記載いたしますが、ここでいう
中強度≒SST,FTP程度と考えて差し支えないものですので、SSTこそ至高、という雰囲気がまだどこか漂う日本のパワートレーニング業界にとっては受け入れ難い強度配分かもしれません。

なぜPolarizedなのか?


ではなぜそんな異質な強度配分をわざわざ、ひと記事使ってご紹介するのか。

端的に申し上げれば
「SSTなどを繰り返すだけのトレーニングよりも効果的な可能性が高い」からです。

具体例として2014年に発表された有名な研究をみてみましょう。

Thomasら(4)は41人の持久性競技選手(ランナー、サイクリスト、トライアスリート、クロスカントリースキーヤー)をランダムに

・High-volume(HVT)
・Threshold(THR)
・High intensity(HIIT)
・Polarized


これら4つの強度配分に分け、9週間にわたってトレーニングを行わせ、研究開始前・後に漸増負荷テスト(いわゆるRAMP test)を行い、VO2peak(≒VO2max)などの生理学的パラメータの他、peak powerといったパフォーマンスの変化を測定しました。

ここでもトレーニング強度は血中乳酸濃度に基づき、心拍数(HR)に換算し3つのゾーンに分割しています。
(<2mmol/L相当のHR = LOW,
3-5mmol/L相当のHR = LT≒FTP前後
>90%HRpeak = HIGH)

血中乳酸濃度を心拍数、パワーなどに変換した場合、どのようになるかについてまだ詳細に述べていないため少々わかりにくいかと思いますが、

・HVT =たくさんLSDしつつ、週1回FTP程度
・THR =FTP程度での練習を週3回、他はLSD
・HIIT =インターバルたくさん(最大週5回)
・Polarized =インターバル週2回、他はLSD


というイメージです。
強度バランスはかなり細かく設定されておりますので、詳しくは下図をご覧ください。(画像1)

画像1: (4) Polarized training has greater impact on key endurance variables than threshold, high intensity, or high volume training

Thomas Stöggl, Billy Sperlich
Frontiers in physiology 5, 33, 2014



こうして9週間にわたるトレーニングの結果、

Polarized(POL)

・VO2peak +11.7(±8.4)%
・RAMPtest での疲労困憊までの時間 +17.4%
・血中乳酸濃度4mmol/L(≒FTP程度)でのパワー/ランニング速度 +8.1(±4.6%)


と、主要なパラメータ、パフォーマンスに有意な上昇がみられました。

一方で、Threshold(THR)ではこれらは上昇しなかった上、VO2peakに関しては低下まで観察されました。(-4.1±6.7%)

さらに、4mmol/Lパワー/ランニング速度も1.8±4.8%の上昇とPOLより小幅な改善にとどまりました。

THRでは血中乳酸濃度3-5mmol/L程度のいわゆる「LT インターバル」あるいは「閾値トレーニング」と呼ばれているメニューを週に3回も行ったにも関わらずこの結果は意外なものでしょう。

対照的に、LTインターバルをほぼ行わないPOLでこれらのゾーンのパフォーマンスが向上した点は注目に値します。

また、よくトレーニングしている対象者(VO2peak 62.6±7.1ml/min/kg,週10-20時間のトレーニングを実施,持久性競技歴8-20年)においても、Polarizedがこれだけの効果をみせた点も驚きです。

なぜPolarized trainingでパフォーマンスが向上するのか

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