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2021年度 大学入試共通テスト 生物基礎 所感と解説

―――初めに―――
・この記事は,2021年1月17日に実施された,大学入試共通テストの生物基礎の所感や解説を,心赴くままに書いたものです。
・問題は適宜ダウンロードしてください。
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第1問 「どんな設定やねん」と思いつつ頁をめくります。

問1 「原核生物ではない生物を選べ」ということなので,真核生物である①の酵母を選びましょう。乳酸菌,大腸菌,肺炎球菌は原核生物ですね。

問2 (a)~(d)を1つずつ検証してみましょう。以下のように考えて,間違っているのは(a),(b),(c)の3つです。
 (a) 「生物のからだの基本単位」という言葉に一抹の違和感を覚えつつ,「生命の最小単位のことを言いたいんだろうな」と解釈して,DNAではなく細胞と判断します(「基本」に「最小」の意味を含めていいものでしょうか…ヒトのからだを2つに割ったり,器官や組織をばらばらにしたりしたとき,それは「ヒトのからだ」と言えるでしょうか…)。「分裂して増える」とありますし,やはり細胞が妥当でしょう。DNAが増える場合は「分裂」ではなく「複製」と表現します。
 (b) 引き線が動物細胞にも伸びているので,細胞壁は不適です。細胞膜でしょう。
 (c) 原核生物にはなく,動物細胞と植物細胞に共通してみられる細胞小器官です。さらに,「呼吸を行い―」とあるのでミトコンドリアでしょう。シアノバクテリアではないですね。
 (d) 植物細胞にしか見られず,「光合成を行い―」とあるので葉緑体でいいでしょう。

問3 このパズル,作ってみようかな…
 絵柄から,Ⅰには(a)か(b),Ⅱには(c)か(d),Ⅲには(e)か(f)が入るのでしょう。
 Ⅰ 光エネルギーを使って,有機物の分解とATPの合成のどちらを行うでしょうか。光合成では,光エネルギーをATPの高エネルギーリン酸結合に固定し,そのエネルギーを使って二酸化炭素から炭水化物を合成することに思い至れば,おのずと(b)になるでしょう。
 Ⅱ Ⅰでこの反応が光合成であることが分かれば,酸素を放出し二酸化炭素を取り込んでいる(c)だと分かります。図の天地(アミ部分をはさむ実線と破線の向き)に注意したいですね。
 Ⅲ Ⅰの説明(↑)の後半で書いてしまっていましたが,光合成では光エネルギーを利用してATPを合成し,そのATPを利用して有機物の合成を行います。(f)ですね。

問4 転写に必要なものを答える問題。転写とはDNAの遺伝情報がRNAに写し取られる過程ですから,当然,鋳型となるDNAに相補的に結合するRNAの材料が要りますし,その材料を適切に繋ぎ合わせる酵素が必要です。そう,RNAのヌクレオチドと,mRNAを合成する酵素が必要ですね。
 DNAのヌクレオチドやDNAを合成する酵素は,転写ではなく複製で必要なもの。複製・転写・翻訳を,それぞれ明確に区別しておきましょうね。

問5 mRNAのコドンが「〇〇C」ということです。〇1つにつきA,U,G,Cの4通りが入るので,“mRNAをこの向きで読む場合は,” 計算上は4×4=16通りのコドンが考えられます。「計算上,最大何種類のアミノ酸を指定することができるか」という言い回しが地味に躓きポイントになりそうな気がしますが,計算上は16種類のアミノ酸を指定することができますね(実際は複数のコドンが1つのアミノ酸に対応するので,指定されるアミノ酸の数は少なくなりますが)。
 ところでこの問題,「〇〇C」を左から読むことが前提に作られていますよね。右から―つまり「C〇〇」の向きのコドンを考慮すると,真ん中の〇にA,U,G,Cの4通り,右の〇にはC以外の3通りを入れると,「〇〇C」の向きに読んだ場合には数に入らないコドンが12通り出現します。合計すると16+12=28通りになりますが,28通りは選択肢にないので,この考え方はしないことになっているのでしょう。

問6 タンパク質Gは「紫外線を照射すると緑色の光を発する」とのことなので,GFPか何かでしょう。図の「転写を行った溶液」に,「何も加え」ず,「翻訳に必要な物質を加えて反応させ」れば,タンパク質Gが溶液の中に生じていると考えられるので,緑色の光が確認〔される(イ)〕と分かります。
 一方,もう一方の操作で「DNAを分解する酵素」か「mRNAを分解する酵素」のどちらを加えるかが問われています。「転写を行った溶液」の中には,転写によって生じたmRNAと,その鋳型となったDNAがあります。「翻訳に必要な物質」とはすなわち,mRNAの情報をもとにタンパク質を合成するのに必要な,リボソームやアミノ酸やtRNAのことでしょうから,mRNAを分解されてしまっては翻訳が進まないことが分かります(DNAが分解されても翻訳には影響しない)。したがって,こちらの操作では〔mRNAを分解する酵素(ア)〕を加えて,緑色の光が確認〔されない(ウ)〕と分かります。


第2問 お父さんとはここでさようなら。今度はゾウリムシの出番です。

問1 知識問題かと思いきや,問題文中に「水の再吸収を促進させる」とあります。水の再吸収を促進するためには腎臓がどのようである必要があるか,そして水の再吸収を促進するような体内環境はどのようなものかを考えれば答えが出る問題でした。

問2 問題文に「ゾウリムシは,体内に入った過剰な水を,収縮胞によって体外に排出している。収縮胞は,(略)収縮して体外に水を排出する」とあります。つまり,収縮胞が収縮すると体内の水が出ていきます。
 ゾウリムシの細胞外液の濃度を上げていくと,ゾウリムシの体内に入ってくる水の量は減少します(ゾウリムシの細胞内液と細胞外液の濃度の差が大きいほど,多量の水が流入してくる)。体内に流入する水の量が減少するので,それに合わせて収縮胞の収縮の頻度も下がります(収縮胞の頻度がそのままだと,水の排出が過剰になってしまいますね)。

問3 問題文に「ウイルス感染細胞を直接攻撃する」とあるので,細胞障害性の細胞を答えなければなりません。感染後速やかに数を増やしているのが,自然免疫において細胞障害性を示すNK細胞。その後遅れて数を増やしているのが,適応免疫において細胞障害性を示すキラーT細胞ですね。

問4 一般に食作用は,好中球と樹状細胞と,選択肢にはありませんがマクロファージが行います。
 が,この問題,ひょっとして食作用と飲作用を分けてますかね。リンパ球であるB細胞も抗原提示をしますから,T細胞に提示する抗原をその細胞内でMHCclassⅡ分子に乗せるために,細胞内に抗原を取り込む必要があります。確かに,取り込む物の大小で食作用(細菌など大きい物)と飲作用(リンパ液に溶けた抗原タンパク質)を分けることはありますが,いずれも膜が内側にくびれることに変わりはないので,高校課程の生物ではてっきり飲食作用(エンドサイトーシス)として区別しないモノだと思っておりましたが…ううむ…

※20210118追記:「その細胞がリンパ球であるならば,その細胞は飲食作用を行う」という命題を考えると,それは確かに偽です。リンパ球だと言葉の意味が広すぎてダメ…のパターンかもしれません。「
その細胞がリンパ球であるならば,その細胞は飲食作用を行わない」も偽なのですが,問われているのはあくまで「その細胞がリンパ球であるならば,その細胞は飲食作用を行う」の真偽。とはいえ釈然とはしませんがね…

問5 ド定番の二次応答の問題ですね。二回目の侵入である抗原Aには二次応答がはたらき,一回目の侵入である抗原Bには一時応答がはたらきます。


第3問 普通ですねぇ…とりあえず,教科書にある「世界のバイオームと気温・降水量の関係」の図は何も見なくても描けるようにしておきましょうね。

問1 点線Pより上側のバイオームは,すべて森林のバイオームですね。よって①。
 点線Pより上には,年中雨の熱帯多雨林もあるし(②×),針葉樹林もあるし(③×),さっきから点線Pより上は森林だって言ってるし(④×),点線Pより下にはサバンナやステップなどの草原がありますね(⑤×)。

問2 問題文に「地球温暖化が進行」するとあるので,生物の分布が北上する―あるいは上昇することが考えられます。温暖化する前は寒くて行けなかったエリア(より高緯度,より高標高のエリア)に,温暖化によって行けるようになった―というストーリーですね。設問文にも「降水量の変化が小さければ」とあるので,気温の変化の影響を考えることが分かります。
 Xが夏緑樹林(落葉広葉樹),Yが照葉樹林(常緑広葉樹)ですから,垂直分布はXの方がYより高いところにあることが分かります。高いところにある夏緑樹林エリアに,低いところにあった照葉樹林エリアがせり上がってくるイメージです。

問3 バイオームQは硬葉樹林ですね。でも,青森や仙台に優占しているのは硬葉樹林ではなく夏緑樹林です。硬葉樹林が優占するのは,地中海のように夏に雨が少なく冬に雨が多いところ(だからバカンスに行くんですよね)。日本は年中雨が多いので,硬葉樹林は成立しません(代表樹種であるオリーブの栽培ができないワケではありません。小豆島などは国産オリーブの産地として有名ですね)。

問4 コロナ関連…?
 ① グラフから,「牛疫に対する抵抗性をもつヌーの割合」は減っているので,「すべてのウシ科動物が,牛疫に対する抵抗性をもつようになった」は誤りでしょう。
 ② まさに公衆衛生の考え方ですね。問題文にも,「高密度でウシが飼育されている環境では感染が続く」とあります。ということは,高密度でウシが飼育されている環境でワクチンの効果が発揮されれば,感染は続かなくなります。
 ③ ワクチンによって獲得する免疫は適応免疫なので,後天的なものです。後天的なものは遺伝しないので,③はありえません。
 ④ ワクチンそのものは抗体ではなく抗原なので,ワクチンはウイルスを不活性化しません。ワクチンは治療薬ではなく,予防の手段です。

問5 牛疫が再び蔓延すると,ヌーの個体数が減ります((a)×)。そうなると,問題文より,「餌となる草木の現存量」は増加し((b)×),「乾季に発生する野火」は広がりやすくなるでしょう((c)〇)。「野火は樹木を焼失させるため,森林面積」は減少します((d)〇)。


感 想

 細かい知識が不要になるという流れは,それはそれで歓迎するのですが,これでは国語の問題のようです。いや,まさしくそういう方向性なのかもしれませんが,ちょっと振り切れすぎのような気がします。試行調査を難しくしすぎた反動でしょうか。

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