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【企業分析】キーエンスの営業は何故強いのか?付加価値と数字にこだわるド理系経営

前回のリクルートの営業の強さに関する企業分析をしました。第二弾はキーエンスです。
キーエンスの強さを一言で言えば「付加価値と数字にこだわる理系経営」です。

キーエンスの創業者はステルス経営者で苦労人

キーエンスの創業者は滝崎 武光さんで、「ステルス経営者」とも呼ばれ、メディアには原則まったく出ないスタイルの方です。

キーエンスの社名の由来は「Key of Science」で、名前の通り徹底して科学的な経営を志向している会社です。
滝崎 武光さんは理系出身で、あまり知られていないのですが、実はダウンタウンの松本さんが同級生です。滝崎 武光さんは高校卒業後、働きながら起業の準備をし、24歳で起業。しかしそこから2度の倒産。キーエンスの前身となるリード電機を29歳で設立。40代の頃にはもう髪はすっかり白髪になっていたという苦労人です。

キーエンスは「数字」で勝負

滝崎 武光さんの経営スタイルは下記のインタビューの発言に現れています。

「学生運動が盛んになり、京都大学の学生とかに勉強会に呼ばれたりしました。ああいうことやるのは文系の人ばかり。文系は論理的じゃないですよね。思想の問題は、最終的には好き嫌いになる。私は(数字で勝負できる)事業をやる方がいいかなと」(日経ビジネス'03年10月27日号)

「数字で勝負できる事業をやる」これはキーエンスのキーワードの1つです。

「製品+コンサルティング」による高付加価値の営業

キーエンスは歴史的を振り返ると、株式会社になり顧客を拡大したキッカケは、1974年のトヨタ自動車へのセンサー導入です。プレス加工の金型事故に悩まされていたトヨタ自動車に対して、これを防ぐセンサーの導入とコンサルテーションにより信用を獲得しました。

これを機会に「センサーを用いて、顧客の工場に対する生産改善コンサルティングをする」がキーエンスの主力事業になりました。キーエンスのポイントは、単なるセンサーメーカーではなく、そこに生産改善コンサルティング業をセットにし、高付加価値のソリューションを提案していることです。販売価格も高く、他社が似た製品を500万円程度で販売していたとしても、キーエンスは5,000万円で堂々と販売します。

これは、現代の「SaaS+カスタマーサクセス」のビジネスモデルにも似ています。単に製品提供をするだけではなく、コンサルティングが付け加えることで高い付加価値の提供を実現しているのです。

また、このコンサルティングを再現性を持って行うためには「優秀な人材」が不可欠。年収1,000万円~のような高年収提示は、生産改善のコンサルティングも含め提案ができる人材を確保するという背景があったのです。
つまり、キーエンスの営業の強さとは「もの売り力」に加えて「ソリューション提案力」や「コンサルティング営業」にあるのです。

経営については、すべて『理詰め』で行う人物でした。今でこそキーエンスはファブレス経営(商品の企画・開発のみを行い、生産は外注する)でセンサーを作る企業として有名です。
しかし、滝崎さんはセンサーにこだわっているというより、付加価値の高い商品を追求しているだけ。結果的にセンサーなどの電子機器が主力になったけど、それ以外の商品でもよかったはずです

現代ビジネス・週刊現代より元キーエンス立石茂生氏インタビュー

営業が「製品開発」にコミットする!?

キーエンスは営業の強さが有名で、本記事でも営業に関する情報を伝えるつもりではあるものの、欠かさず触れなければならないことは「キーエンスは製品開発が強い」ということです。そしてその良い製品を開発しようとする姿勢は営業にも求められます。

キーエンスの押すだけで画像寸法できる製品。便利そうだ・・・

キーエンスの営業はコンサルティング営業として、顧客の課題や困りごとをヒアリングしてくることが求められます。また、そこで集めた顧客の課題はキーエンスのデータベースに保存されています。そして、各課題の解決へ要求度(その課題を解決するのにどれだけお金を払うか)が、見えるようになっています。

キーエンスの製品開発では「顧客の欲しいというモノは創らない」「業界初の製品を開発する」と言われています。これは顧客の課題が顕在化する前に、営業が先んじて真の課題を発見し、顧客が気づくより更に前に製品をリリースしてしまうからです。
そう、キーエンスとは営業力の強さだけがフューチャーされるのですが、内実は「営業と開発が足並みを揃える組織」であり、営業も開発も強いのです。

論理と数字で固められた「営業プロセス」が染み付いている

キーエンスの滝崎 武光さんは、日経ビジネス 2003/10/27号にて「会社に思い出は不要」と言い切ります。
キーエンスの社内には、営業活動に関して多くの行動指針、ルール、指標が厳格的に定められております。

  • 営業稼働率は40%(社内業務は極力少なくする)

  • 1日5件以上の訪問(訪問にいくなら件数を詰め込む)

  • 外出報告書の承認(イメージはこちら

  • KPIの定量行動管理(コール数、コール時間、訪問数、有効商談数など数値管理する)

  • 商談ごとの準備フォーマット(利用用途・購入理由・購入時期・購入余地・キーマンなどの捕捉)

  • 商談の話の進め方の型化(60分の商談時の会話内容の指導)

  • 上司による確認電話(上司が営業担当の代わりに確認電話する)

  • 不要な行動の監視(ネットサーフィン等の禁止)

これらはすべて、営業活動を合理的に行うためのアクションです。人によって悪いイメージがあるかもしれませんが、よく言えば「営業の成功ナレッジ」がたくさんあって、それを営業一人ひとりがやり切っている状態です。

また、キーエンスの営業ナレッジといえば、キーエンスの伝説の営業マン、NO,1営業マンと言われた天野眞也さんです。

先日、元キーエンス出身の営業の方とお話したのですが、その方は新卒時に天野さんの研修資料を読んで大変感銘を受けたとおっしゃっていました。天野さんの資料は今もキーエンス社内で受け継がれていて、営業の人はだいたい研修で学んでいるようです。

私も、その話をキッカケに天野さんのYou Tubeを見始めて、有償のオンラインサロンに入会するほどになりました。笑
天野さんは、行動量を増やす、商談の準備をするなどのノウハウを優しく、わかりやすく解説されており、天野さんの書籍やYou Tube、サロンなどでお話を聞いてみることは大変おすすめしたいです。

稼働率を高く保ち、そのための営業生産性を高め、商談を合理的に進めるというキーエンスのアプローチは非常に理にかなっており、これを具体的に進めるための諸行動がインストールされている営業組織は非常に強いと思います。

まとめ

・キーエンスは「キー&サイエンス」の名の元に、数字と論理による合理的な経営を行う社風
・キーエンスは実は「生産改善コンサルティング」が発祥。年収1,000万円~の秘密はコンサルティングによる付加価値提供が営業に求められるから
・業界初となる製品開発を「営業も開発に協力」しながら積極的に行っている
・数字やルールで徹底管理された仕事術が前提にあり、それは天野さんの仕事術含め「営業のナレッジ」になっている