SaaS経営者がAmazon AWSから学べること
先日、アメリカのプロダクトマネジャーAakash Guptaさんの解説するAmazonのクラウド事業であるAWSの躍進に関する記事が非常に濃密で、素晴らしい内容でした。
日本のSaaS経営者であれば、マーク・ベニオフ「クラウド誕生」に感銘を受けた方も多いと思うのですが、Amazonの成長ストーリーも負けず劣らずの内容です。本記事では、SaaS経営者がAmazon AWSから学べる経営ノウハウについて、要約を抜粋しながら解説します。
AWSは自社の技術優位性を製品化したもの
Amazon AWSの強みは、Amazonの大規模トラフィックに耐えうる分散型コンピューティングの技術です。自社の強みとなる技術力を生かしてAWSは誕生しました。
Amazonは逆算志向で事業を組み立てる
Amazonの仕事術として有名なものは、新たな事業・プロジェクト・施策などをローンチする際に、先に「プレスリリース」を作ってしまうというものです。事前に成功の仮説を具体的に文章化することで、周囲の反応や、考慮するべき点のイメージを膨らますのです。仮説思考の実務的な応用テクニックで、MVPによるリーン・スタートアップにもイメージが近いです。Amazonではジェフ・ベゾスもこのプレスリリースをチェックして意思決定をするようです。
レコブロックのようなユーザーによる構築システムにする
AWSは実はいきなり製品化をすることなく、18ヶ月の間はコードを書かずに、先ほど紹介したプレスリリースやデモをベースにしたヒアリングを徹底して行っていました。そこでヒアリングに協力してくれたエンジニアの1人が、「レゴブロックのように、いろいろな機能を組み立てられるのがAWSだ」という記事を書いたようです。この、ユーザーが自ら製品を組み立てていけるような『レゴブロック』という表現はAmazon社内でも気に入られ、クラウド事業であるAWSのコンセプトとなっていくのです。
従量課金の価格設計で大手~スタートアップの幅広い顧客に浸透させる
AWSは有償化にあたり従量課金を採用しました。これにより、今はまだ小さなベンチャー企業だけど、後々大きなトラフィック(≒売上)を生み出すスタートアップたちの採用に成功します。サーバーコストの負担に悩んでいた若い会社も含め、幅広い顧客セグメントに受け入れられることで、急激にシェアを拡大していきます。
AWSの中長期目線を持った海外展開
Amazonは中長期の投資・意思決定に定評がある会社です。まだAWSがベータ版の段階からヨーロッパに展開するという一見無謀なチャレンジをしました。また、後から競合が参入しても旨味がないようにAmazonにとってもギリギリの値付けをすることで他社を牽制します。更に関連製品やオプションを次々に開発し、製品競争でも先行を取ります。GoogleやMicrosoftといったIT企業の巨人たちがクラウド事業に参入してくるのですが、Amazonが海外では数年市場で先行していることで優位性を維持し続けました。
顧客の声を中心とする開発ロードマップ
AWSの大きなプロジェクトの一つがNetflixのインフラのリプレイスです。このNetflixの案件を通じ様々な開発が行われました。AWSの開発のコンセプトは、顧客の求めるものを構築すること。開発ロードマップのほとんどを顧客からの要望をベースに設計していました。
Amazonは開発する機能において、競合他社を気にすることなく、ほぼ全てを顧客ニーズにもとづいてリソースを投下し続けます。
大規模顧客を獲得するための営業(フィールドセールス)投資
Amazonのシェアは上がっていくのですが、各業界のトップ企業はそれぞれで基幹システムを開発しており、そこからのリプレイスに苦戦していました。そこで圧倒的な数のフィールドセールス部隊を構築します。グローバルの上位企業をリストアップして、数千人にもわたるセールス採用の投資を実施。
他社は新規製品として参入する製品開発フェーズの中、Amazonは既に製品もビジネスモデルが完成されており、営業マーケティングで更に先行していきます。
Amazonのフライホイール戦略
Amazonは自社の利益を新規製品開発によりいっそうつぎ込みました。
新たなプロダクトの開発を進めることで、顧客の出来ること(≒カスタマーサクセス)が拡大し、更にAWSに依存する。そこで稼いだキャッシュを新規事業につぎ込むという、強力な製品戦略を実施します。
顧客の成功(カスタマーサクセス)を構築
Google、Microsoft、IBMといったIT大手企業もSaaS/クラウド領域に参入するについて、Amazon1社のみが独占的にシェアを伸ばし続けることが難しくなりました。そこでAmazonは、更なる優位性を築くためにカスタマーサクセスに投資します。AmazonはAWSのカスタマーサクセスに関する体系的な文書化を進め、自社やパートナーに対し配布を始めます。OBAMと呼ばれるこの資料はAmazonのアカウントマネジメントの能力を飛躍的に高めていきます。
政府に求められる存在へ
AmazonはMicrosoftに米軍案件を奪われてから、政府案件の獲得に徹底的に投資します。政府関係者を66人採用したというのは凄い話です。交渉の相手側を理解するためには当事者を採用してしまえ、というわけです。RFPとして求められる要件を完全に分析し、AWSが政府調達における1番の選択肢になるよう事業プロセスを改善していきました。
AWSからSaaS経営者が学べること
・使用量ベースの従量課金は、顧客の裾野を大きく広げることに貢献できます。これによりお金のないスタートアップ向けにも展開可能になります。
・価格をギリギリまで安価にすることで競合が参入しても優位性を保つことが出来ます。
・開発ロードマップは競合の動きに囚われず顧客の声を中心に作ることが重要です。
・大手顧客獲得のため専門の営業チームに投資するべきです。
・利益を海外投資、新製品投資に投ずることで競合他社から引き離すことが出来ます。
・事業の好循環を生み出すフライホイールを作りましょう。
・自社のカスタマーサクセスの姿を文章化するのです。
・大型案件の獲得のために調達経験者を採用するべきです。
おわりに
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