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「貴賎なく多くの意見を聞く」(『貞観政要』君道第一)

今日も引き続き『貞観政要』より。君道第一の第二章からです。
前回の記事はこちら

大意

  • 何をもって明君暗君というのか。

  • 明君というのは、多くの人の意見を聞くから明らかといい、暗君というのは、特定の人や一方の人の言うことだけを信じるから暗いという。

  • 昔の賢い人は「薪を取るような賤しい身分の人の意見も聞く」と言った。

  • また、昔の明君と言われた人は、広く賢い人に来てもらい、広く見聞を広くして目や耳を塞ぐことのないようにした。だからこそ、だまそうとした人物が言行不一致であることも知ることができた。

  • 一方、これまで国を滅ぼしてきた暗君を見ると、自分の城に籠って、側近の言うことだけを信じたために、外で起こっていることを知ることができず、国を滅ぼしてしまった例が多い。

  • よって、君主は多くの人の話を聞き、市井の人々の言葉を聞き入れれば、側近や貴族によって目や耳を覆われることはなく、世の中の事情は必ず君主のもとに届くようになる

現代の主権者への教訓

 現代の主権者である我々も、ついつい自分の身近な人の話、自分の考えに近い人の話だけを信じてしまいがちです。
 しかし、そこには自分の耳目を覆われてしまうという危険性もあるということを、この章では教えています。
 近年IT技術の進展により、パーソナライズされた情報だけが届くようになってきています。技術的には普段見ている情報、嗜好に近い情報をプログラムが選んで表示するようになっています。そうなると、自然と自分の考えに近い情報だけが表示されるようになります。
 こうなると、自分からあえて取りに行かないと、自分とは異なる考えや、自分とは離れたところにある人々の考えに辿り着けません。貞観の時代も自ら門戸を開いて聞きに行く必要があったようですが、現代の我々にはスマートフォンという側近が自分にとって心地の良い情報だけを届けてくれるので、同じ状況ではあります。
 違うのは、現代であれば意思さえあれば情報はインターネットを介して取りに行ける、という点です。ネット上に全ての情報があるわけではありませんが、貞観の頃に比べればはるかに容易にアクセスできます。
 また、ネット上だけでなく現地に行って見聞きすることも大切です。ネット上で得られる情報は視覚と聴覚のみです。我々にはまだ嗅覚、触覚、味覚という感覚があります。現地に行かないとまだ得られない情報はたくさんありますので、ぜひ現地へ足を運んでみましょう

政治家を選ぶ上での示唆

 現代の日本における政治家は、主権者たる我々に仕える公僕です。まだまだそういった認識が主権者たる我々の中でも不足しているとは思います。しかし、あくまで国民主権である日本では、我々主権者が政治家を選び、仕えさせているのです。
 その視点で、良い政治家を選ぶために、今回の教訓から学べることは何でしょうか。
 それは、「政治家の話を鵜呑みにしない」ということではないでしょうか。
 国を滅ぼした暗君は、特定の人物の話にしか耳を貸しませんでした。これを主権者たる我々に当てはめれば、特定の政治家の話だけを鵜呑みにせず、広く政治家以外の話も聞くということだと思います。そして、言行不一致の政治家はクビにするということです。
 選挙の際に、聞こえのいい政策を掲げる候補者がいると思います。ではその人が当選した後、本当にその政策を実現したのか。実現に向けてどういうことをしてしたのか。これを知るには、その政治家のSNSや後援会紙では偏りがあります。議員であれば議会での発言、役所でどう振舞っているのか、事務所ではどうなのか、そういった部分を見聞きした上で言行が一致しているか、していないのかを見極める必要があります。
 しかし、我々もそれだけをしてはいられません。こういう際にはメディアや他の政治家などが役割を果たさなければなりません。そして我々もそういった声をしっかり聞いて、その役割を尊重することも大事です。
 近年、メディアがきちんと政治家の監視をしてないのではないという懸念も聞かれます。私生活を取り上げることが多い気もしていますが(それはそのほうが売れるということでもあるのですが)、やはり公約と実態の比較をきちんと調査し我々主権者に示すべきだと思います。
 私はそういったメディアづくりもやっていきたいと思います。

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