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「クラシックで在り続ける」 THE GARAGE 〔ザ ガレージ〕 ・ 柴谷 雅一

OPEN MAGAZINE "Based in Nakameguro"では、中目黒エリアに拠点を構える店舗や人を特集し、街の魅力を繋いでいきます。

今回は、預かった一足一足を持ちえる技術と細心の注意で修理・修復する革靴の修繕屋・THE GARAGE 〔ザ ガレージ〕 。

2009年から裏路地にひっそりと店舗を構え、その確かな腕で革靴に新たな"時"を与え続けてきました。

実は、以前OPEN Magazineで取材させていただいたcafe REDBOOK・井上さんとVase・平井さんと"友人"という間柄のTHE GARAGE・柴谷さん。ご縁ある本取材では「場づくり」のお話を中心に、「革靴業界について」や柴谷さん自身の「展望について」もお話伺ってきました。

一足に宿る想いを繋ぐ

-- 革靴職人に至った経緯について教えてください。

柴谷さん:大学生の時に革靴の販売員を経験してから、革靴の製造に興味を持ちました。それで、大学卒業後に革靴作りの専門学校に進学したんです。革靴全般の専門知識を叩き込まれて、卒業後に革靴の修理の道に進むことにしました。いくつかの修繕屋で働き、30代前半で THE GARAGE〔ザ ガレージ〕を開業して今に至ります。

-- なるほど。製造への興味から、最終的には修理の道を選ばれています。何か理由があっての選択だったのでしょうか。

柴谷さん:私は革靴をゼロから生み出すよりも、長い年月を超えられるように修理し、未来に繋ぐ役割を担うことに魅力を感じる人だったんです。一足一足に宿る想いを未来に繋ぐ、それが私たち修繕人の仕事だと思っています。

-- 未来に繋ぐという意識がとても素敵だと思います。様々な専門職の後継者不足が叫ばれていますが、革靴職人を目指す人も減少傾向にあるのでしょうか。

柴谷さん:修理に関しては減ってると思いますが、製造に関しては徐々に増えていると聞きます。お店を開業した2009年頃だと「バイト募集していませんか?」なんて飛び込みで言われることも珍しくありませんでした。
製造が増えても、革靴を買う人が増えている訳ではないので、業界としてはもう少し盛り上げたいところですね。

革靴の総合病院

-- では、他店との違いで意識されていることがあればに教えてください。

柴谷さん:うちで使用している修繕器具は、大変珍しいと思います。そのほとんどが大規模な工場にある修繕器具ばかりなんです。本来、外注する作業もうちなら一貫してこの場所で行えます。うちを例えるなら「革靴の総合病院」なので、革靴のことで困ったら、まずご相談いただけたらと思います。

革靴一足に対して複数人の手が加わると、どうしても一貫性が生まれづらくて。一貫性がないと、足に馴染みづらい革靴になってしまうんです。なので、同じ職人が一貫して修繕した方が圧倒的にメリットが多いんですよね。

-- 「革靴の総合病院」とは秀逸な例えですね。一貫して修繕を行えるのは、柴谷さんの腕がありきだと思います。そういえば、スペース貸しも行われているそうですね。

柴谷さん:そうなんです。工房以外のスペースを活用して、展示やワークショップが開催できる場所を提供しています。うちの妻が金継ぎのワークショップを開催したり、他にもアーティストを招いて作品を展示したり、多様な用途で使われています。

以前、山口県でロースターを営んでいる友人が、うちでネルドリップの淹れ方ワークショップを開催してくれました。そのご縁でうちのオリジナルブレンドも焙煎してもらって。

革靴の修繕屋でコーヒーの販売なんて少し風変わりですが、「こうじゃないとダメだよね」みたいな既存の在り方には捉われたくなくて。常に、THE GARAGE らしい在り方を模索していければと思っています。

円を描くように繋がった「縁」

-- 開業の地に中目黒を選んだ理由について教えてください。

柴谷さん:「お店をやるなら家の近くで」と考えていたので、当時住んでいた中目黒で開業を決めました。時には、終電ギリギリまで作業することもあるので、徒歩圏内がいいだろうと思って。何かあった時にも、パッと駆けつけられる距離が安心だと思ったんですよね。

それに、当時の中目黒には革靴の修繕屋が一軒しかなくて。「これはチャンスだ」と思ったんです。うちができてからは5軒程いっきに競合が現れたのですが、今残っているは半数程で。やっぱり続けることの難しさを感じますよね。

-- なるほど。では、お店を長く営む秘訣はあるのでしょうか。

柴谷さん:うちは繁華街から少し離れた場所にあるので、いわゆる来客だけだと厳しくて。なので。下請けの仕事もやりつつ成り立たせています。

開業して10年以上経った今、何事も1人では成し得ないことを強く実感しています。思い返せば、このお店はいつも人との繋がりによって支えられてきました。お客さまがお客さまを呼んでくださったり、仕事を紹介してくださったり、それは今も変わらずで。
たくさんのご縁に恵まれて、それが円を描くように繋がっていったように思います。

-- お店は多くの人に支えられて成り立っていると改めて実感しますね。では、中目黒に対するイメージについて教えてください。

柴谷さん:2009年頃の中目黒は「遊ぶ街」というイメージがありました。当時は中目黒に憧れを抱いていた人が多かった印象です。ですが、ここ数年の中目黒はどこか落ち着いて「住みたいと街」に変わってきたんじゃないでしょうか。

ただ、個人店が減っていることについては、寂しさを覚えます。気がついたら新しいお店ができて、数ヶ月で閉店してしまう、なんて光景もよく見かけるようになりました。やっぱり、中目黒で店舗ビジネスをやるなら「地域に根差す」という視点が大事になっている気がしますね。

-- たしかに。中目黒はローカルな一面もあるので、地域住民に向けたアプローチを欠かすと店舗ビジネスは難しいかもしれませんね。では、今後中目黒はどのような街になってほしいと思いますか?

柴谷さん:個人的には「ファッションといえば中目黒」と言われる街になってほしいです。渋谷・原宿といったトレンドの最先端を担うのではなく、クラシックなファッションシーンを担う街になればと。

現代では、こだわりを持って服を着る方がどのくらいいるのでしょうか。「流行っているから」といって服を選ぶのも一つの楽しみ方ですが、流行りを追い続けると見失うこともあるかと思います。自分に合ったスタイルを見つけて、良質なアイテムを長く愛用する、という楽しみ方も一つ知れば、さらにファッションが楽しくなるんじゃないかと思います。

「オシャレは足元から」というように、まずは足元から気を遣ってみるのもいいかもしれませんね。

-- それで言うと、若い方にも革靴を履いてほしいという気持ちはありますか?

柴谷さん:ファッションは年相応に楽しむべきだと思うので、革靴に興味を持ったら履けばいいと思っています。革靴は値段も高く、手入れにも手間が掛かりますが、その手間が魅力だったり。革靴は大人の嗜みとして、時がきたら手を出してみる、そんなスタンスでいいと思います。

展望について

-- 最後に、店舗としての展望を教えてください。

柴谷さん:スペース貸しをもっと活発化させていきたいです。毎年11月末に、知り合いのお花屋さんを招いて、クリスマスリースのワークショップを開催してもらっているのですが、それが好評で。もし中目黒で何かしたいと思っている方がいれば、是非うちでトライしてみてください。

あとは、開業20周年を無事に迎えられたらと思っています。THE GARAGE が中目黒のファッションシーンを担っていけるように、これからもクラシックなお店として在り続けたいと思います。


THE GARAGE 〔ザ ガレージ〕

Open = 12:00~19:00
Regular holiday = 水曜日 , 木曜日
Address = 東京都目黒区中目黒3-1-4-102 (中目黒駅徒歩5分)

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