鼠の豆【胆沢の民話㉓】岩手/民俗
『鼠の豆』
参考文献:「いさわの民話と伝説」 胆沢町教育委員会
昔あったずもな。爺さんと婆さんあったずもな。爺さん庭掃いて、婆さんおか(座敷)掃いたずもな。
爺さん庭掃いてたれば、豆っこ一粒ころころっと出はってきたど。
「婆さん、婆さん、豆っこ一粒出てきましたよ。」
「もったいない。煮て食いますべか、煎って食いますべか。」
「煎ってめされや。」
「大っき鍋で煎るますべか、ちゃっけ(小さい)鍋で煎るますべか。」
「大っき鍋で煎りもされや。」
ってたど。
婆さん大っき鍋出してきて、そいって(そいつで)からころ、からころ、からころ、からころと煎ったずもな。
そしたれば煎るほどに煎るほどに鍋さいっぱいになったど。
「爺さん爺さん、煎れましたが大っき臼でつくますべか、ちゃっけ臼でつくますべか。」
「大っき臼でつきもされや。」
って大っき臼出してきて、そいって、とんことんこ、とんことんこ、とついたずもな。
そしたれば、つくほどに、つくほどに臼さいっぱいになったど。
「さあ、つけた、つけた。太郎太郎、西さ行ってコロシ(粉おろし?)借りてこや。」
ってたれば、
「えのっこ(犬)居たから、やんた(嫌だ)。」
「そんでぁ、東さ行って借りてこ。」
「狐出はっから、やんた。」
「前さ行って借りてこ。」
「おおかめ(狼)出はっから、やんた。」
「後ろさ行って借りてこ。」
「熊出はっから、やんた。」
「そんでぁしゃない(仕方がない)。爺さんの褌の切っ端で、とせや(通す)。」
って、褌の切っ端でもって通して、豆の粉できたずもな。
「はてさて、上さ置けば鼠にかれるし(食われるし)、下さ置けば猫になめらえるし。」
って、しゃねから爺さんと婆さんの、あわいっこさ(間に)置いて寝たずもな。
そしたれば夜中に爺さんめえ、大っきな屁、ぽーんとたったれば、豆の粉ふっとんで、婆さんのまなぐ(目)さ、くっつかってしまったとや。ドンドハライ。