あわて者【胆沢の民話㉔】岩手/民俗
『あわて者』
参考文献:「いさわの民話と伝説」 胆沢町教育委員会
昔、うんとそそっかしい人あったずもな。
「今日は町の日だからちゅうはん(昼飯)とってけろな。」
って、とっつぁまあ(夫)に言われたから、ひつこ(弁当)さ、まま(飯)入れて、
「昼飯ぁ枕元さ置ぐます。」
って言って、がさま(母様)は畑さ稼ぎに行った。
とっつぁまは誰も起こす人いないから寝ほれて(寝過ごして)しまって、目醒めたらお日様高くなっていた。急いで昼飯をトンブロ敷(風呂敷)さ包んで町さ行って用達(ようたし)をし、お昼になったから昼飯食うべと、トンブロ敷開いたれば、ヒツコでなく、われぁ(我)の枕だった。
「くされがが(腐れ母)、昼飯だなんて枕よこしやがって。家さ帰ったらひで目(ひどい目に)に合わせっから。」
ってプリプリって帰って家さ入るなり、がさまをはたいた。
家では、がさまが、隣では随分騒ぐ音ぁする。なんだか家のとっつぁまのような声がすると思って、行って見たれば、とっつぁまぁ隣のがさまのとこはたいてた。隣のがさまさ、侘してとっつぁま連れて家さ帰ったど。
とっつぁまぶすぶす言いながら、
「風呂沸いてたか。」
って言うから。
「沸いてました。」
つので風呂さ入ったが、
「沸いたずから入ったれば、さっぱり沸いてない。」
がさまが行って見れば、洗い井戸(池)さ入ってだったとや。ドンドハライ。