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あの夏僕らはカブトムシを売ることが出来なかった。

1993年夏、僕らは隣町にあるペットショップがカブトムシを1匹100円で買い取ってくれるという噂を聞き、はじめてのビジネスを経験した。

家が近所のTとKと僕は小学3年の頃から同じ少年野球チームに所属していた。中学に上がっても当たり前のように3人とも同じ野球部に入った。当時はJリーグやスラムダンクが人気で小学校の頃同じ少年野球に所属していたものも中学に入ったら他のスポーツに移行する者が多かった気がする。

野球部はものすごく上下関係の厳しい部活だった。1年生はグローブを持たせてもらえず練習道具の出し入れと球拾いが主な役目だった。それが無い時はひたすら校庭を走っていなくてはいけなかった。もちろん水も飲ましてもらえなかったが中学校の部活はそういうものなのだと不平を口にするものは誰もいなかった。練習終わりに校庭の隅にある蛇口でガブ飲みしたあの水道水の味は忘れない。お腹の中で水がタプンタプンするのがわかるんだ。

TとKと僕は帰り道が同じだったのでいつも泥だらけのユニフォームのまま教科書と制服を入れたドラムバックを肩に担いで一緒に帰った。ほんの15分くらいの道のりだったけど先輩や顧問の先生がいないその時間は誰に気を使うでもなくバカ話が出来てとても楽しかった。

ある日の帰り道Kが隣町のペットショップでカブトムシを1匹100円で買い取ってくれるという噂をどこかで聞き付け興奮しながら話してくれた。中学生になるとあまり興味が無くなってしまったが小学生の頃3人はいつも一緒に昆虫採集をしていたからだ。得意なことでお金が手に入ると3人は盛り上がり、早速その日の晩採りに行くことを決めた。親には部活の自主練と嘘をついて家を抜け出した。待ち合わせ場所に遅れて来たTがNationalと黄色いゴムベルトにロゴが入った探検隊が頭に付けるような懐中電灯を付けてきたことに僕とKは笑った。3人は小学生の頃よくカブトムシを採りに行ったゴルフ場の脇にある秘密のクヌギの木へ自転車で向かった。

街灯も少なく薄暗い夜道を3人の自転車のライトだけが道を照らす。田んぼから聞こえるカエルのうるさい鳴き声と小さな虫が大群でウジャウジャ飛んでる光景、その虫が目と口に入った時の感触、何とも言えない湿った夏の夜の匂いを今でも覚えている。当時子供だけで夜に出歩くことが無かったので少し悪いことをしているような気持ちと部活でのつらいしごきからの解放とが相まって3人で並走しているだけでも本当に楽しかった。途中エロ本の自販機があったことも思春期男子3人の楽しみだった。

僕らだけが知っている秘密のクヌギの木はまだ誰にも荒らされていなかった。3人とも大興奮で笑いすぎて咳き込むくらいカブトムシ採りに夢中になった。その日10匹は採れただろうか。カブトムシは言いだしっぺのKの家で預かってもらうことにした。あくる日もまたその次の日も毎晩部活帰りに集まって3人で秘密のクヌギの木へ通った。

いつしか100匹採れたら売りに行こうということになり2週間くらいでその数に達した。Kの家の玄関にはダンボール箱を利用して作った大きな飼育箱があった。ガサゴソガサゴソ、ブーンブーンと中を覗かなくてもカブトムシがせわしなく動いているのがわかる。Kの両親は高校の教師だったからか特に怒るでもなく僕ら3人の行動を口出しせずに見守ってくれていた。隣町のペットショップへ売りに行くときも車を出して連れて行ってくれたくらいだ。

夏休みに入って一番最初の部活が休みの日に隣町のペットショップへ行った。入り口には大きな赤いオウムがいた。足が繋がれていたので襲っては来ないと思うが近くで見ると目が鋭くとても怖かったことを覚えている。店の奥で店主が金魚の世話をしていた。ペットショップ独特の獣の匂いがする店内へ3人は入りTが恐る恐る店主に声を掛けた。


T「カブトムシを買い取ってくれると聞いたので持ってきたのですが?」

店主は僕ら3人のことをジロッと見てから言った。

店主「お前ら売ったお金でゲームセンター行くんだろう。不良のはじまりだから買わない。」


その後反論したのかはあまり覚えていない。僕は買って貰えなかったことより不良だと言われたことにショックを受けていた。当時の僕はとてもナイーブだったのだ。車に戻り待っていたKのお母さんにそのことを伝えると夏祭りで配るからと1000円ずつ3人にくれた。あの年の夏の匂いは今でも覚えている。


それでは1993年のヒットナンバーClassの「夏の日の1993」に乗せて当時の思いを歌わせていただきます。

ナインティナインティスリー
採りに行った Oh カブトムシ
簡単に売れると思っていたけど
Why?
不良じゃない Oh ゲーセン行かないよ
カブトムシ抱えて立ち尽くす
夏の日のペットショップ


あの夏どうすればカブトムシを売ることが出来たか

あれから27年、紆余曲折あり僕は刺しゅうデザイナーになりました。手芸本を作ったり、自分のデザインした商品をセレクトショップへ卸したり、東京・蔵前にある自分のお店では自社商品の他に他社から仕入れた商品を販売しています。
今日は大人になった今、あの夏どうすればカブトムシを売ることが出来たかをこれまでやってきた仕事をベースにして考えていきたいと思います。前ふりが長すぎてすみません。

※この記事に書いてあることを参考にして起こった出来事に対して責任は持ちません。そもそも森で採ったカブトムシを売っていいのか、生き物を商品として考えていいのかは話の本質からズレルので置いておきます。

まずは商品がお店に並ぶまでの簡単な流れ

1.展示会やHPなどで商品を見たお店のバイヤーから問い合わせが来る。
2.お店へ卸し売りする際の商品のロットや価格などの入った資料を送る。(見積もり)
3.進めましょうとなった場合、取引に関する契約書を交わす。
4.発注→納品→請求→入金

卸の利点としては一度に大量の商品を広く色々なお店へ流通させられることだと思っています。個人的に欠点だと思うのは商品の上代と卸率の相場がある程度決まっていて利益を確保しようとすると薄利多売になりがちな点です。もちろん品質向上やプロモーションによりブランド価値を上げるなどしてバランス良くやっている所もあると思うので一概に何が良くて悪いのかはその会社の考え次第です。最終的にエルメスやヴィトンみたいに卸をせず自社店舗だけで物が売れたらいいですがそうともいかないですよね。

何でカブトムシを買って貰えなかったのか?

あの夏カブトムシを買い取ってもらえなかった理由は簡単に言ってしまえば事前に売買契約を結んでいなかったに尽きます。ビジネスとするならばまず噂を信じずお店に問い合わせをし取引に関する契約を結んでからカブトムシを採りに行かなければいけませんでした。実際そんなことしなくても大人が持って行けば買ってくれたかもしれませんが100匹もいらないと言われるかもしれませんし、値下げ交渉されるかもしれません。ビジネスとして考えるのであれば契約がとても大事になってきます。イラストやデザインの仕事でも同じことが言えますよね。

どうしたらカブトムシでお金を稼げるのか考えてみた。

では今の自分がカブトムシをビジネスとして考えた時どのようなことが出来そうか考えてみました。自分でイラストを描いたりモノを作ってる方はその商品に置き換えて考えてみてくださいね。

Q そもそもカブトムシ1匹100円の卸値だと安すぎるのではないか?

競合他社をリサーチして相場を調べる。
付加価値
を付け価格を上げる(つがいで売る。産地をブランド化しストーリーを付ける。天然ものなど)
卸さず自社オンラインショップ自社店舗で売ると言うのは全然アリ!

Q 人件費は?家賃は?

給料を1ヵ月30万と設定した場合、カブトムシ1匹100円で卸すとなると3000匹が必要。その数を保管する場所やエサ代など考えると何匹捕まえればいいのでしょう・・・。カブトムシの個体だけを売ってビジネスにすることは無理ですね・・・。

Q シーズン商品なのでビジネスにしにくいのでは?

繁殖させてオフシーズンは土と卵がセットになったカブトムシ飼育キットを販売。
ものすごく良く育つプロテイン入りのエサや土、高級な素材を使ったカゴなど関連商品も販売。
カブトムシ採り体験教室
カブトムシをキャラクター化してライセンスビジネス

ここまで色々と仮説を立てて書いて来ましたがカブトムシに関連するビジネスについてネットで調べるともうほとんどの事がやりつくされていました。(笑)リサーチってとても重要ですね。


結局あの夏も今年の夏も僕はカブトムシを売ることが出来なかった・・・。


まとめ

思い出はプライスレス。でも今は想像力を膨らませて賢くたのしくどうやったら継続できるビジネスが出来るかを一緒に考えよう!



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