惜別

もう何か月もまえ。
それなのに覚えていてくれた
また、会いたいから
リクエストは医療機関から
地方の奥地に似つかわしくない
瀟洒な建物
コテージなのか庭木には
樹木が生い茂げる

リビングがまた
食器棚や長テーブルや
脚の高くないが座りここちの
よい深めの木製椅子 

年老いた母親と寄り添う娘
口が開くまえに
微笑む
決心しました

神経難病で嚥下困難
構語障害
呑み込みつらくて食事も
満足にはできない
耳鼻咽喉科にも
呼吸器科にも受診した
けれどもどこもわからない
センセに紹介された
神経内科で聞かされた
言葉は、とても受け入れられ
なかった

でも
入院して人工呼吸器を
つける事にした
胃瘻もつくる
涙が止まらない 

いつそ、親子で
よくない事も考えました
センセがはじめて、です

母親が笑ったのは。
何をどう話したのか
こちらの記憶はない
深刻な話はした
フザケてはいない

笑顔。
母親は、もういちど、お会いしたい
あのちよつと
変わっだ医師と。

担当医師ではなくて。

待つてました
母娘で話して。
何日も。
連絡をとってもらつて。
わかりやすい説明と
受け入れられないかも
しれませんがという
口調でのお話に、毎日
母親とわたしは泣きながら
どうしたものかと。

誰が、病気なんかになるものか
転倒もした
誤嚥もした
腕の力も入らなくて
立ち上がれなくて。

病院に入院することに
しました
その日のために。
センセは、おっしゃいました
替わってもいいんだ

考えてた事と反対のことでも
いいんだ
嫌になれば病院から
逃げてくればいい
医師なんか
担当医師なんか

何回でも
何人でも替えればいい

母親と娘は換えられないが。
笑えばいい
笑うしかない
泣いてもダメ
紅茶がのみなくなつて
センセ、代わりに呑んでください
神経難病

父親もいなくなり
ふたりの生活だつたのに
ALS
悲しくなったら
一緒に泣きましよ

楽しくなったら
一緒に笑いましよ

そんなセンセは
いなかった
15分のつまりが
半時間
看護師とケアマネは無言
医師のわたしと
患者さんである母親と娘

何か、訪問診療ではないみたい
さよならは、云わないけれど
惜別

いつも
訪問診療車が見えなくなるまで
ふたりで、見送りをしてくれた
広い庭木が季節を感じさせて
くれる
看護師が
ハンドルを握りながら
娘さんが、涙ぐんでました
ケアマネは、
母親も嗚咽していた

言いたくないことも
向き合わねば、いつかは
慌てて、最悪の事態よりは
入院の選択はよかった
そう思った

ホンネは、訪問診療ドクターとは
なんぞや
医療とは何かを
反対に、
医師とナースとケアマネの
私達が学んだ
そんな気がした

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?