「焼き鳥」で新たな価値を!公衆浴場法改正で注目される「銭湯」の第三者承継例!
エスイノベーションの大杉りさです。事業承継をきっかけにイノベーションを起こした企業にインタビューする「地域からはじめる事業承継」今回は、新潟市江南区の「小松湯」の事例を紹介します。 飲食業界で30年間、こだわりの焼き鳥を提供し続けた、辣腕の職人が承継したのは老舗の銭湯。今、全国的にも注目度の高い、銭湯に付加価値を加えた事業承継例について紹介します。
飲食業から銭湯経営へ転身
ー 小松湯承継のきっかけを教えて下さい
銭湯の3代目オーナーを務めている同級生に、「銭湯の休業廃業が続いている、これでは新潟市から銭湯がなくなってしまう!やってみる気はないか?」と声を掛けられたことです。
ー 承継する前の「小松湯」はどのような状態でしたか
亀田(新潟市江南区)に1953年に開業した「小松湯」は、約70年続く老舗の銭湯です。代々、親族経営を行っていましたが、2022年に前オーナーが亡くなってからは休業状態でした。前オーナーのご兄弟も「小松湯」には思い入れがあり、どうにか亀田に銭湯を残す事はできないかと、新潟市公衆浴場組合に相談をされていたところでした。
ー 事業承継に迷いはありませんでしたか?
同級生の家が銭湯で、小さな頃から銭湯は身近でしたし、銭湯経営に抵抗はありませんでした。でも流石に銭湯一本ではリスクが高い!銭湯に何かをプラスし事業を安定させる事が必要だと考え、これまで飲食業界で専門としてきた「焼き鳥」と「銭湯」で勝負に出ることにしました。事業承継は、自分の店を構えるチャレンジとも捉え。勤めていた飲食店は退社しました。
ー 前オーナーとは、どのような話し合いを?
小松湯の権利は前オーナーのご兄弟が管理していました。東京在住でしたので連絡はメールで。土地建物、銭湯の設備に関しては、不動産業者に適正価格を算出してもらいました。最終的な契約は、実際にお会いし、互いに歩み寄った感じです。長引かせても仕方ないですからね!事業承継の交渉は約1年で終了しました。
立ちはだかる「法」・途方に暮れるような修繕費
ー 銭湯の営業権を承継する場合の審査や手続きは?
まずは、どうやったら銭湯の経営権を引き継ぐことができるか、新潟市に相談に行きました。公衆浴場法に則り、廃業手続を行なった後、新規に譲渡契約をし、保健所に営業許可申請を提出して下さいと…。新規となると、令和の最新基準で構造設備の検査が適用されます。当然、小松湯は昭和時代の設備ですから、基準に満たない部分が出てきた訳です。これは困りましたね。特に配管設備は衛生管理基準が高く、修繕費は途方に暮れるような額でした…。
公衆浴場法改正が見方に!
ー どのように対応されたのですか?
実は、承継の準備を始めた数ヶ月後に公衆浴場法が改正されたんです。これまで、第三者承継で必要だった廃業と新規の許可申請の必要がなくなり、承継手続きを行うことで、事業を譲り受ける事が可能となりました。既存の配管設備がそのまま使用できる事になり、これは本当に有難い事でした。
昭和の雰囲気を生かした「小松湯」の再生
ー 支援金制度等の利用はありましたか?
政策金融公庫の事業承継支援制度を利用し、約2,000万円の融資受けました。建物の購入費や、改装費用に充てています。
ー 事業承継後に取り組んだ事は?
住宅部分の片付けです。銭湯と前オーナーの自宅は一続きで、暮らしていたままの家財道具が残されていました。はじめの数週間は、残置物の片付けで小松湯と清掃センターを行き来してました(笑)その後、ようやく銭湯の改装に取り掛かり。富士山のペンキ絵、ロッカー、番台など昭和の雰囲気はそのまま活かし、逆に時代に合わない部分に手を加えました。男湯と女湯を仕切る壁が2メートルもなかったんです。低すぎますよね(笑)ここはしっかりと嵩上げしました。また、住宅部分を改装し、厨房と飲食スペースも新設しました。
ー 薪で焚くお風呂の管理は難しそうですが…
ここは銭湯を経営している友人のもとで、研修をさせて貰いました。でも、釜って銭湯ごとに特徴が全く違って。最後は、友人に小松湯に出張して貰い手ほどきを受けました。銭湯って手入れすると「活き活き」するんですよ。お風呂自体が「生き物」なんだなと思いましたね!小松湯のお湯は温度が高めなのですが、お湯が柔らかいので入りやすいとお客様に言われます、これも薪の良さですね。お風呂掃除は、2人がかりで、1時間以上かかるのですが、手を抜かず頑張っています!
ー サウナブームの影響はいかがですか?
小松湯のサウナは湿式(ミストサウナ)です。温水を噴霧する方式で、室温は50〜60度程。乾式(ドライサウナ)に比べると息苦しさがないので、じんわりくるミストサウナの方が入りやすいというお客様も多いです。音波風呂もファンが多いですね。
生まれ変わった「小松湯」のこれから
ー オープン後、銭湯と焼き鳥店の経営はいかがですか?
今は、新潟市の銭湯愛好家をそれぞれのエリアの銭湯がシェアしているような状況です。利用者の絶対数を急激に増やす事は難しいとわかっていたので、事業計画は、「銭湯」よりも「焼き鳥」に重きを置きました。5月15日に銭湯とテイクアウトの焼き鳥を同時オープンしましたが、焼き鳥は奥様たちに好評をいただいています。焼き鳥は、全8種類、私の30年の焼き鳥人生をそのままお出ししてるって感じですね!お陰さまで「焼き鳥」は、目標としていた数字を達成できそうです。
ー 雇用に関してはいかがですか?
従業員は2名採用、アルバイトも2名と契約しています。番台にはPOSレジ(AirREGI)を投入しました。入浴料も焼き鳥も番台で会計しているので売上集計が自動でできて助かっています。
ー 第三者承継を考えている方へアドバイスを!
「自分の長けている部分を武器に」ですかね。私のように、畑違いの分野でスタートする場合、事業スタートに大きな負担がかかります。最初は何を触ってもわからない訳ですから…。でも、売りの軸を持っている事で、休まる場所ができる。経営面でもメンタル面でも助けになるはずです。
ー これからの小松湯について
将来的には、現在の飲食スペースを居酒屋にする予定です。今は、焼き鳥はテイクアウトのみですが。まずは自宅で小松湯の焼き鳥を楽しんで貰って。家庭の中でお馴染みの味になれれば、「小松湯に焼き鳥食べに行ってくるね!」ってお父さん達も出かけやすいじゃないですか〜!ゆっくりと地域の皆さんに認めて貰って。昭和の頃に賑わっていた「小松湯」のように、ご近所さんの拠り所になれたらいいなと思っています。
小松湯 新潟市江南区亀田神明町2
・銭湯 午前10:00〜午後9:00
・大人 480円 ・小学生 150円・ 幼児 70円
・焼き鳥 正午〜午後5時
・月曜定休